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十九話

「ムウはどの職業に就きたいんだ?」

「ムー!」


 あ、ムウが成りたい転職先が矢印で出ている。

 どうやらこの辺りはわかりやすくアシストされているっぽいな。

 それでだ。ムウがなりたいのは言うまでもなく戦士だ。

 まあ、ここまでの戦いを見れば一目でわかる。

 前衛で戦いたいって気持ちが先走っていたもんな。


「わかった。じゃあムウは戦士になってもらおうか」

「ムー!」

『現状では前衛が居た方が戦いが安定するであろう。悪い選択では無い』


 俺達の構成的に反対する理由がない。

 既に俺は遠距離からの射撃がメインになっているし、守ってくれる前衛がいるのは嬉しい。

 そういう意味ではムウが戦士を選んでくれて良かった。

 とはいえ、バランスを考えると若干魔法が使える人員が欲しくなる。


『我がいるではないか』


 収納魔法と魔物の死体処理担当件、採取調合アシストの脳内ドラゴンが何か言っている。


『我を愚弄するな! 我は汝の付属品では無いぞ!』


 はいはい。わかっているって。

 ヴェノが居なかったら困った事態になっただろうし、感謝はしている。

 戦闘で魔法が使える人員じゃねえだろお前はと言いたいだけだ。


『ぐぬ……』


 そんな訳で戦士を選択する。

 するとムウの周りで淡い光が弾けて転職が完了した。


 ムウ ミューテーションマイコニド 戦士 Lv1

 所持スキル 胞子散布 自己再生 スタミナ回復速度アップ(中) 毒使いの配下 転職可能 ウォーリアーセンス

       ウォークライ


 案の定Lvは1になって、センスが追加された。

 スタミナ回復速度アップが弱から中に変化したか……うん。

 ステータスを見ると転職前よりも力などの項目が上がっている。

 転職可能がそのまま残っているのは素直に羨ましい。俺は転職後に消失したぞ。


「ムー!」


 力瘤とばかりに両手を上げてるけど、その動作はどっちかと言うとまだ可愛い方だと思う。


『では転職祝いを与えるとしよう』


 カッとヴェノがムウに転職祝いとして手持ちの品を出現させる。

 そこには割と何の工夫も無い鉄の斧が現れた。


 兵士の斧 品質 並 必要装備Lv20

 付与効果 錆止め

 兵士用に作られた戦闘用の鉄の斧。


 説明文も割とシンプルな代物だ。

 これは……ヴェノが言っていた敵から没収した代物の中でもコレクションには入らない品で間違いない。

 少なくともヴェノの趣味からは外れていると思う。


『よくわかったな』

「ムー!」


 ムウが嬉しそうに鉄の斧を持って掲げている。

 その小さい突起みたいな手でどうやって持っているんだ?

 どこかのアニメに登場するキャラクターみたいに吸盤とかが付いているんだろうか?


『先ほど分析してみたのだが、ムウの手には無数の小さな吸盤が生えていて、掴んだ物を放さない構造をしておる様だぞ』


 やっぱりそうなのか。


「ムウムウ!」


 軽快にムウは斧を振りかぶってやる気を見せている。

 程良い重さって事だろう。

 重さもあって一撃は強そうだ。

 後はムウ自身の腕前に掛かっている……か?

 鎧とかは……ムウの独特の体形からして難しいな。


『傘の部分に兜……いや、盾を巻き付けて、胴体は強靭な布や毛皮を巻くのが妥当であるな。まあ、必要かは別であるが』


 その辺りは後々考えて決めて行けば良いか。

 そこまで重装備だと動きが遅くなる可能性もある。

 バランスは大事だ。


「じゃあ帰るか」


 こうしてムウの転職は終わり、帰りがけに沼地でゾンビドッグとモスキートにそれぞれ一回ずつ遭遇するだけで村へと帰還したのだった。

 戦果は……ムウの斧がかなり強力な一撃になったって所か。

 ゾンビドッグに振りかぶって一撃で仕留められた位だ。

 ムー! って大きい声で鳴いてからの一撃は強力だったな。

 ウォークライってスキルだと思われる。

 地味に転職直後くらいの人間では厳しい魔物じゃないかと思うけど、ムウは物ともしていない。

 さすがは魔物って事なんだろう。

 それで俺のLvや所持スキルに関しても確認しよう。


 小暮幸久 毒使い Lv19

 所持スキル 憑依リンク 毒吸収 毒放出 毒合成 毒物目利き 毒付与 ハンティングセンス ハンティングマスタリー2

 エイミングショット トラップマスタリー1 コールファンガス


 所持スキル自体にそこまで大きな変化は無い。

 あったのは毒合成で新たな毒を生成出来るようになった。


 貫通毒


 どうも運用方法としてよくわからない毒だ。

 貫通って何を貫通するのだろうか?

 しかもコレ単体の毒性は無いに等しい位弱いのがわかる。

 毒物目利きは馬鹿にならない。

 単純に使用すると相手の防御を下げる効果が確認出来た。

 あれだ。相手の防御力を低下させて貫通させ易くする、みたいな感じだろうか?


 ただ、それだと軟化毒との違いが分からないのだが……この辺りは検証が必要だ。

 解説とかでも詳しく書かれていないのは、何か理由があるのか?

 毒物目利きでも、毒である事くらいしか判断できないしなぁ。

 元が毒ドラゴンの癖にヴェノに聞いても良くわからないみたいだった。

 本竜曰く、珍しい毒の場合はさすがに分からないとか言ってるが……。

 とりあえずストック用に作成しておくけど、使うタイミングが中々難しそうだ。


 そんな訳で宿屋の部屋に戻り、漬けておいた肉の様子を確認する。


「さてと……今日はおかみさんに厨房を貸してもらえるように頼んでおいたから、お楽しみの時間とするか」


 入浴は沼地で既に済ました。

 温泉の様に温かい沼で体を洗って帰って来たので基本的に俺は汚れていないぞ。

 後に必要なのは食事! ここ最近の食事で思うのは肉が硬いのと野菜が不味い事だ。

 異世界に来て少しばかり馴れてきたけど、ここだけは馴れそうにない。

 どうにかして美味い飯を食う方法を模索しないと行けない訳で。

 追っ手から逃げなきゃ行けなくてもここは引けない。


『キノコを焼いて食えば良いのではないか?』


 毒キノコを勧めるドラゴンの助言なんて聞けるか!

 俺はキッチンで料理させてもらおうぞ!

 などと若干推理モノで殺される被害者が入っている言動を思考して断った。

 後、ムウの目の前でキノコを食うのは勇気が居るんだよ。


「ムー」

『ムウは先ほど道に生えていたキノコを食べておったぞ』

「ダメだぞ。地面に落ちている物を勝手に食っちゃ!」


 口に入れるって事は食べられるのかもしれないが、共食いはオススメできない。

 いや、同種の認識は薄いらしいけどさ。

 何よりこの辺りのキノコは毒キノコが多いんだ。

 どんな症状になるかわかったもんじゃない。

 ん? ムウがキノコを食べていた?


「ム?」


 と言うかムウの場合は胴体の方の口でキノコやフランクフルトを食うと凄く卑猥に思えてしまう。

 こう……猫みたいな口をしているから余計に気になる。


『汝はそう言った下品な発想をするのが趣味なのか?』


 卑猥と思うお前が卑猥とヴェノに言われた気がする。

 まだまだ俺も若いんだからしょうがないんだよ。

 ちょっと前まで残業続きだった影響で枯れていたけど、適度な睡眠と食事、運動でそういう気分が出て来る様になっただけだ。

 そう言った意味で異世界生活は楽だぜ。


『こんな状況を楽と言える汝はある意味、戦士であるな……』


 ふふ、企業戦士の戦場を知ったらドラゴンだってノックアウトするぜ。


『馬鹿にされておるのは分かっておるからな。命を賭ける戦いと一緒にするでない』


 失敗したら解雇、路頭に迷って死ぬと言う点では同じだ。

 人間を舐めるなよ。


『我としては人間が如何に腐っているかを汝の記憶から読みとることしか出来ん』


 なんてヴェノの愚痴は放置してっと。

 漬けておいた肉を取り出してみる。

 お? 生肉でも分かる硬さが無くなり、プルプルとした俺の知る調理用の肉に似た感じになっているぞ。

 しかも硬い所が柔らかい油みたいに変質していて、斑柄……霜降りみたいになっている。

 これは是非とも焼いて毒を飛ばして確認しなくては。


『こんな柔らかく崩れた肉を汝は望んでおったのか? 肉と言ったら血が滴る物か、普通に焼いた物が最上だと思うぞ。後は臓物や脳味噌が美味いぞ』


 そんな部位に美食を感じる奴も人間には居るし、レバーを好きな気持ちも分からなくもない。

 だが、脳味噌は同意できないぞ。

 そしてドラゴンとは言え、所詮は野生動物か。

 肉をより美味く加工して食うと言うのが如何に素晴らしいかを見せてくれる。

 つーか、硬い肉は飽きたのは元より俺の口に合わないんだよ。

 これが失敗したら次はハンバーグに挑戦してくれる。


『食への追及か……そう言えば我の知人である名のある魔物に居たな、そう言った趣味を持った者が』


 ほう……そいつとは気が合いそうだな。


『お勧めはせんぞ? 人間の美味しい食し方とかを我に聞いて来た様な奴なのでな』


 カニバリズム反対!

 ってこんな問答はどうでも良いんだよ。

 肉を桶に戻して宿屋の厨房の方へと向かう。

 そして購入しておいたフライパンを出してかまどに火を付ける。


 ちなみに、おかみさん達が既に料理を終えた後に利用させてもらっているに過ぎない。

 薪の代金は既に宿代に追加してある。そこまで金は掛からなかったし。

 沼地のキャンプ場で料理しても良かったけど魔物に襲われる危険性があるから、やはり人里が一番だ。

 そうそう、異世界のフライパンってやっぱり鉄のフライパンで持ち手も金属で熱したらやっぱり熱い。

 対処法は持ち手に布とか毛皮を巻いておくんだけど、それでもやっぱり熱い。

 良い物だと持ち手に熱がいかない様にしているらしいけど、閑散とした村じゃこれが限界か。


 肉の脂身を切って熱したフライパンで躍らせてしっかりと馴染ませ、事前に軟化毒に漬けていた肉に、ヴェノから教えて貰ったこの辺りで香草として使われている薬草を塩と一緒に馴染ませてからフライパンに乗せた。

 ジューっと良い音がしてから肉の焼ける音が辺りに響き渡る。

 お? 良い感じに良い匂いまで漂ってくるではないか。


「ムー?」


 ムウが興味ありげに俺が調理している姿を見つめて来る。

 試作とばかりに何枚か肉を漬けてあるのでムウの分まで作れるが、どうした物かな。

 不味かったら悪いから、試食をしてから食べさせてみるか。

 そんな感じで熱したフライパンの上でジュージューと良い音を立てつつ、肉汁を溢れさせていく肉の焼き具合を確認しながらひっくり返す。

 おお、良い焼き目が付いたぞ。


 なんて感じで肉を焼き終わって、更に盛る。

 付け合わせは……本来だったら焼きキノコにするつもりだったけどムウの手前遠慮する事にして薬草類を、肉汁を無駄にしない様に同じフライパンで野菜の様にして炒めて食う事にした。

 ダンジョン一階で見つけた薬草の方だ。

 それとスープ。

 材料は殆ど同じで、塩で味付けしているのであんまり違いは無いけど、食える物になっている事を祈るばかりだ。


 ミモザワイルドボアの加工肉ステーキ 品質 高品質

 ワイルドボアの肉を独特の製法で加工したステーキ。

 加工の工程で薬物が使用されているからか肉汁が豊富。


 薬草炒め 品質 高品質

 滋養強壮効果のある薬草をふんだんに使用した薬草の炒め物。

 薬草の種類によって効果が変わる。


 薬草のスープ 品質 並

 薬草を煮たスープ。


 よし完成!

 用意した皿に盛りつけて備え付けのテーブルに座って食事の準備をする。

 あ、宿屋のおかみさんが興味ありげにこっちを盗み見てる。

 悪いけど厨房を借りる為にお金も払っているので渡す訳にはいかない。

 そもそも軟化毒と言う火に弱いけど毒物を使っているからしっかりと毒物目利きをした後、試食しないといけないしね。



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