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十八話


 ヴェノとムウの運用に関して熱弁をしながらダンジョンの地下二階に到着した。


 なんか雰囲気が違うな。

 石造りだったのが洞窟になったみたいな変化を感じた。

 しかも瘴気らしき物の密度が増したのが分かる。

 俺としては、物凄く大自然の空気! って感じだけど、これって普通の人だったら息苦しいなんて次元じゃないだろう。

 あまり人が来るダンジョンじゃないみたいだし、こんな空気との戦いを強いられるような場所に冒険者は来ないよな。

 既に攻略済みな所が多いらしいし。


 それと、見張りみたいに魔物が二階の入り口に居るぞ。

 クラレットサンフラワーって根を蠢かせて移動するひまわりみたいな魔物だ。

 葉っぱの部分で植物の茎みたいな槍を持っている。


『ふむ……名のある魔物が新たに占拠したのかもしれんな』


 大丈夫なのか?


『配下の動きを見ればある程度はわかる。どうやら管理体制などあってない様な物だ。根城近くならまだしも浅い階層での被害等、ヌシに届かん』


 ああ、そうなんだ?

 ヴェノの巣穴ってどんな感じなのか地味に気になってきた。

 と言うか俺は最終的にヴェノの巣に逃げ込めば良いのか?


『汝……出かける時に鍵を掛けると言う文化を愚かな人間は持っておるだろ?』


 なんで優しげな口調で聞いて来る訳?

 戸締まりの話って……まさか。


『うむ。今の我では自らの巣に施した出入り口を開けられん。配下等は設置しておらんので戦力を期待されても困る』


 逃げる場所じゃねえって事かよ。

 まあ、ドラゴンの巣穴に死ぬまで籠城なんてしたくないから別に良いけどさー……。


『我等は逃げながら前に進む事を考えて行けば良いのだ! では行くぞ!』

「はいはい。ムウ、行けるか?」

「ムー!」


 俺の指示に従ってクラレットサンフラワーに向かってムウが突撃して行く。

 牽制としてクロスボウで狙いを定めてエイミングショットで花の部分を狙撃。

 ドスッとボルトが花の部分に命中し、よろめいた所をムウが剣で一薙ぎしてクラレットサンフラワーは真っ二つになり倒れる。

 それからトドメとばかりにムウが花の根元を剣で切断。


 経験値が入った。

 どうやら完全に殲滅出来たっぽい。

 ……思ったよりも呆気なかったな。

 まあ一匹だから割と楽に勝てたけど、何匹も出てきたらどうなるかわからないけどさ。


『ちなみにクラレットサンフラワーは二つの形態があってな。近距離での花からの熱線を放つ近接と遠距離から種を吹き付けて来る遠隔だ。これはクラレットサンフラワーの年が影響していて――』


 ヴェノが長々と説明しているが、正直どうでも良さそう。

 纏めると若いのが近接で、老いると遠隔になるそうだ。

 一匹の経験値は……うん、やはりダンジョンだけあって地上よりも良いみたいだ。

 後は遭遇効率と戦いやすさを判断した方が良いだろう。


「ムー!」


 ムウもやる気を見せているし、やって行こう。

 で、地下二階を探索していたんだけど……。


「ムウムウ!」


 俺がムウに怒られる事態が発生。

 三匹のクラレットサンフラワーと交戦し、ムウが上手く注意を惹きつけてくれたのまでは良かったんだけど、混戦状態になっていて下手に撃ったらムウに当たりかねないとボルトを放てずに居た。

 幸い毒放出で毒霧を散布してムウと距離を取らせてから連続発射で仕留める事が出来たんだけど、ムウが怒った様に目を鋭くさせて怒りを露わにしていたのだ。


『汝がムウに当てない様にと気を利かせたのは分かるし、ムウも理解はしておるのだろう。だが、アレではムウ一匹で戦っているのとあまり差が無かったぞ』

「ムウ!」

「そうだけどさー」

『時に攻撃は最大の防御と成りえる。ムウ自身は自己再生をするのでボルトが仮に当たってもビクともせん』

「ムー!」


 仲間に当てそうで怖いってのは結構ある。


「幾らムウがタフで当てても大丈夫と言っても、酷くないか?」

『汝の練習も兼ねているのだ。しっかりと狙いを定めて前衛の補助をするように心がけよ。混戦していると言っても、その中でムウから距離を取ったりする者が居るであろう? まずはそう言った者を狙ったり、ムウに攻撃しようとしている者を狙ったりすれば自然と補助になる』


 ヴェノの指摘はもっともだと俺だって分かってる。

 だけどいざって時の判断は中々に上手く行かない。


『汝の場合は相手の急所を狙い過ぎなのだ。汝の職業はなんだ? 毒使いであろう? 相手を毒で弱らせる事が仕事だ』

「鈍足毒で相手の動きを遅くさせろって事か……ムウに当たったら飛んでも無い事になりそうだけど……」

『その懸念も理解は出来る。ムウ、こやつの鈍足毒が当たっても大丈夫な耐性を得られる様に後で訓練するのだ』

「ムー!」


 ヴェノの提案を理解したのかムウが鳴いて頷く。

 頼りにしたいけど……当たっても大丈夫なようにするって方向で良いのか?

 俺の毒ってどのくらい威力があるのか今一つ分かり辛いなぁ。

 なんて感じで地下二階の攻略を続けて行く。


『ふむ……宝箱などの類は見つからないのが残念だが採取物はそれなりの物が採れるな』

「それは毒草とか毒キノコとかの事を言ってるのか?」


 しかも毒花粉とかまであるぞ。

 所々に毒の沼があるので俺自身の手当ても出来るから楽に戦えるダンジョンではある。

 おそらくだが、数あるダンジョンの中でも俺と最も相性の良いダンジョンだと思う。

 火や水……いや、普通の無属性ダンジョンでもここまで上手くは行かなかっただろうし。


「ムー!」

「ムウも同種みたいな魔物相手に嬉々として突っ込んで仕留めるのは精神的にヤバイから」


 シャトルーズグリーンポイズンマッシュというムウの亜種みたいな魔物とムウが殴り合いを始めた時はハラハラした。

 最終的にムウの猛攻を受けて相手が切り裂かれてバラバラになったんだけどさ。


 胞子の飛び散るヤバイ戦いだった。


「ムウ?」


 そんな道中でヴェノが宝と称して採取指示をしたのが悉く妙な毒物ばかりだった訳だ。


 ジーテトロダケ

 胞子に触れるだけで痺れるほどの毒素の強いキノコ。

 人間が食した場合、数分で全身が麻痺して死に至る。味や臭いが酷いので暗殺には不向き。


 最後の文が非常に気になるけど、無視する。


 レッドデスファイア

 赤い炎の様な草。毒性が強いが色々な植物と混ぜ合わせる事で効能が上がる。

 触れるだけで手が爛れる為、扱いには注意が必要。


 こっちはまだマシか。

 これを宝の山と見るか、そうではないと見るか……。

 まあ俺が使用出来る毒が増えるのは戦力増強という意味でも良い事だ。

 一応これ等の毒草はかなり貴重な品でもあるらしい。

 何より普通の手段では人間が持ち帰るのは難しいだろう。


 しかし……毒使いじゃないとこんなダンジョンには潜れないな。

 アルリーフさんが一階だけで帰るのも納得の理由だ。

 まあ、彼女がここまで来て魔物を倒して行く姿を見たくない様な気もするけど。

 だけど……ナイフ片手に笑顔でアサシンのように魔物を仕留める姿は、華麗かもしれない。

 若干ホラーだけど。


『汝は見たいのか見たくないのかどっちなのだ?』


 ヴェノのツッコミは無視する。

 そこは創作物にありがちな守られヒロインと戦うヒロインのせめぎ合いなんだ。

 どちらが正しいという訳ではないのさ。


「ムウ。ムウムウ」


 ん? 何かムウが自己主張している。

 ピストン運動しているみたいに全身を上下しないでくれ。なんかエロい。


『これを卑猥に感じる汝の方に問題があるのではないか?』


 やかましい!

 で、これは何を言いたいのだろうか?

 何か力こぶのポーズを取っている様にも見える。


『ふむ……転職が出来るようになったのではないか?』

「ムー!」

「ああ、そうか」


 言われてムウのステータスを確認する。


 ムウ ミューテーションマイコニド ファンガス Lv10

 所持スキル 胞子散布 自己再生 スタミナ回復速度アップ(弱) 毒使いの配下 転職可能


 毒使いの配下って何?

 どんな効果があるスキルなのかよくわからないんだけど?

 俺の配下だから何か加護でも掛かっているんだろうか?

 理想で言えば毒物に耐性とかあると助かる。


『そうだと良いな。ドラゴンの配下と言うスキルを得た者の場合、火耐性と強靭の効果を得られたと聞くぞ』


 割と毒耐性はありえるって事か。

 とは言っても……ムウの場合は元々がマイコニドな訳だから種族的に毒物に耐性がありそうなんだけど。

 逆に火とかに弱そうな印象を覚える。


『種によるが……そうだな。アクセサリー辺りで火耐性を上げると不安は解消できそうだな』


 って毒使いの配下ってスキルの推測はこれくらいにして、ムウが転職可能になったみたいだ。

 キリが良いからここで一旦帰るのが良いだろう。

 別に泊まりでダンジョン探索をしたい訳じゃないし、どちらかと言うとLv上げが目的だった訳だから頃合いだ。


『確かにそうであるな』

「それじゃあ今日はサクッとムウを転職をさせて帰るか」

「ムー!」


 と言う訳で来た道を戻る形で俺達はダンジョンの地下二階から比較的安全な地下一階へと戻った。

 道中で魔物に遭遇したが、苦戦らしき物はなかったので強くなったのだと思う事にする。

 で、朽ちた祭壇まで来て転職の儀式を行う。

 俺の時と同じ様に転職は出来そうだ。


『よし……ではムウよ。祭壇の前で祈るのだ。より強く、願い、その力を何に使うのか明確な意志を届かせる様に』

「ム、ムウ」


 若干緊張した様子でムウが祭壇にある壊れた像に祈る様に両手を合わせて目を瞑り、像に触れる。

 ふわっと、俺の時と同じ様に光がムウの周りで漂う。


『ムウよ。汝はこやつの配下となる事を自ら選んだ。つまり転職先もこやつに許可を得ねば出来ん』

「ムウ? ムウムウ」


 俺に託されているって事なの?

 何かムウの方が少しばかり首を傾げているんですけどね。


 ムウの転職条件を満たしました。


 ファンガス→戦士

       レンジャー

       魔法使い

       僧侶


 に、転職できます。


 おいおい。随分と種類が異なる転職が出来るんだな。

 どれもRPGでお馴染みの職業ばかりで羨ましい限りだ。

 しかも派生職とかもあるみたいで、こっちは別の条件を満たさないといけないっぽい。


『派生職はそれに携わった時間で転職できるとも聞く。例えば薬師は採取活動を一定時間すると成れるそうだ。他に最も簡単な方法だと組合に所属し、転職時に上位職の者が立ち会えば良いそうだぞ』


 へー……じゃあ俺が毒使いとして出世してムウを後輩として派生職に就かせるとかも可能性としてはあるのか。


『そうだな。だが、汝の様な奇妙な職業が派生職として斡旋出来るのか? 汝の場合は専門職と言った感じに見えるぞ』


 いや、その辺りのシステムと言うか、この世界のルールなんて知らないし。

 とはいえ、毒使いとやらが専門職っぽいのは認める。

 所謂、状態異常を付与するって感じだろうしな。


「ムー? ムームー」

「ああ、はいはい」


 ムウが話しこむ俺達に急かす様に鳴く。

 そりゃあ自分の大事な転職を前に長話なんてされたら嫌か。

 俺だって早く転職したいって思うだろうし。



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