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十七話


 そんな訳で多少人目が気になったけど、毒の沼地までアッサリと到着した。

 なんか実家みたいな安心感がある様な気がしてきた。


「ム!?」


 沼地に到着して少しばかり探索すると、ヴェノとムウが揃って敵を探知する。

 スプレイグリーンモスキートの群れだ。10匹以上飛んでるぞ。

 コイツ等は蚊柱みたいに群れで出て来る時がある。

 刺されても物凄く痛いだけで、俺の毒を受けるとアッサリと絶命する。

 全滅出来る数少ない魔物の群れだけど、さすがにあの中に突撃する気は起きない。

 毒放出で毒霧を散布して俺は仕留める様にしている。


「ムー!」

「あ、おい! Lv1じゃ厳しいぞ!」


 ムウがスプレイグリーンモスキートの群れに剣を振りかぶりながら突撃して行く。

 大丈夫かと思ったけど、スプレイグリーンモスキートもどう対処すれば良いのか、と言うか獲物と認識しているのか若干迷いが見える様な飛び方をしながらムウに群がって行く。


「ムウ! ムウウウ!」


 剣をやみくもに振るっている。アレでは当たる物も当たらない。

 いや、掠ったら仕留められるけど、数が多いぞ。

 なんて思ったらボフっとムウが大きく上下して胞子を散布した。

 直後にコテっとスプレイグリーンモスキートの群れが揃って仰向けに倒れた。


『胞子にやられた様だな』


 ヴェノが冷静に状況を分析。

 次にスプレイグリーンモスキート共に滅多刺しにされているはずのムウを見る。

 ……ニュッと刺し痕が閉じて行く。

 元がキノコだからなのか、それとも所持スキルにある自己再生をしたのか。

 どっちにしてもかなりタフみたいだ。

 そう言えばここまでの道をずっとハイテンションで跳ねまわっていた気がする。

 スタミナの化け物か。


「ムウムウ!」


 ブチブチとムウがトドメとばかりにスプレイグリーンモスキートを踏みつぶして行く。


「ムー!」


 勝利のガッツポーズを取ってるけど武器関係ない。

 何かの冗談みたいな戦闘が一瞬で終わった。

 ああ、幸いにして胞子を吸い込まずに済んだスプレイグリーンモスキートは俺に狙いを定め、近寄って来た所を毒霧を散布して仕留めた。

 次に散策して現れたのはテラコッタポイズンゾンビドッグが三匹……初日に遭遇したウルフとは会わないな。

 犬繋がりで気になる。


『あっちは頭の良いリーダーが居るのだ。奴等を仕留めたいと思ったならこちらが意識して探し、気配を悟られない様にせねばな』


 ああ、組み伏し難いと覚えられたから襲って来ない訳ね。

 さすがはオオカミか。結構賢い。


「ム!」


 勢い任せのムウがゾンビドッグの群れに剣を振りかぶりつつ突撃して行く。


「ガウ!」

「ガー!」

「ガウガウ!」

「ムー!?」


 あ、連携されて先頭の一匹に噛みつかれ、追撃とばかりに周りの二匹が群がる。

 反撃とばかりに胞子を振りまくが、スプレイグリーンモスキートの時みたいに相手に明確に効果が無い。

 手助けとして俺も狙いを定めてクロスボウからボルトを放って一匹に命中。

 ドスッと良い感じに刺さる。

 ただ、アンデッドだからかタフなんだよなコイツ等。

 毒の効きもいまいちだし。


『聖水を調達出来れば多少はどうにかなるのだがな。もしくは塩だ』


 塩も聖なる効果が期待できるのはどこの世界でも共通認識な訳?

 しかし、異世界故か塩も塩でそれなりに高価なんだよな。


「ム! ムー!」


 あ、なんかムウが怒ってドスッとゾンビドッグの喉に剣を思い切り突き刺した後、引っ付いている二匹目の腹にボディブローをかます。

 そしてボルトが刺さった三匹目には傘を向けて突進。

 三匹のゾンビドッグ共と縺れる形で毒の沼へとダイブ。

 ドボンと水しぶきが上がる。


 ちなみにゾンビドッグは息をしていないので溺死はさせられない。

 ただ、水は嫌がる性質があるので、慌てるようにムウから離れて行く……が、ムウは沼地でプカッと浮かび、水面を滑る様に泳ぎながら逃げるゾンビドッグに剣で追撃をする。

 物凄く攻撃的な戦闘スタイルだ。

 ダメージとか全く考慮してないけど大丈夫なんだろうか?


『自己再生があるとは言っても相応に消費はするからな。まさにスタミナ管理をしないと突如活動停止されかねんぞ』


 うへ……。

 とりあえず逃げるゾンビドッグにトドメとばかりに脳天目掛けてボルトを放って仕留める。


「ムー!」


 またも勝利のポーズを取るムウ。

 ムウだけで一応……一匹は仕留めたな。


『戦い方をまだよくわかっておらんのか、はたまたこの程度問題ないと判断しているのか……どちらにしても注意すべきであるな』

「えーっとだな。良くやったとは言いたいが、ダメージも大きいのはわかるな?」

「ムウ?」

「もう少し相手をしっかりと見てから戦うんだ。じゃないと今は大丈夫かもしれないけど致命傷になりかねない。それとムウ自身のスタミナが尽きるかもしれないから注意するんだ」

「ムー!」


 俺の注意で反省したのか視線を下に落としたムウが頷いてからやる気を見せる。

 うん、言えばわかってくれる程度には知能があるみたいだ。


「よし、じゃあ次こそ注意して行くんだぞ。出来る限りダメージを受けない様に動くんだ」

「ムー!」


 そう言って沼地を探索するとカーキースネークが出てきた。

 ムウは俺の注意を忠実に守り、カーキースネークがギリギリ届かない間合いを測りながら俺へと視線を向ける。

 よし!

 しっかりと狙いを定めてカーキースネークにボルトを射出。

 ドスッとクリーンヒットしてカーキースネークが悶えた瞬間、スパッとムウが頭を剣で切り裂いて仕留めた。


「ムウ!」

「ああ、今度は完全勝利だな」

『うむ。学習能力が高くて良いぞ』

「ムー!」


 俺達に褒められてムウは勝利のポーズとばかりに跳ねまわっていた。

 そんな感じで今まで戦った事のある雑魚は簡単に処理して周る事が出来た。


「後は……どうするか」


 順調なのは確かだけど、ムウのコンディションにも気を配らねばならない。


「ムウは大丈夫か? 疲れていたりしたら何か言えよ?」

「ムー……」


 グーと言う音がムウから聞こえてきた。


「腹が減ったって事ね……お前、何を食う訳?」


 キノコだからカビたローブから何か栄養素でも採っていたのだろうか?

 それとも毒の沼から栄養素でも吸うのか?


『ふむ……突然変異のマイコニドであるからな。我の研究欲が刺激されておる。お前は何を食うのだ?』

「ムウムウ」


 えっと、猫みたいな口でもぐもぐするポーズ。

 それから両手をユラユラとさせてムウが何やら自己主張をしている。

 それからガオーって……最初は水かと思ったけど違うっぽい。


『ふむ、これか』


 ポンと、先ほど収納魔法で収納したカーキースネークの死体をヴェノが出現させる。

 それをムウは掴んだかと思うと傘の方にある牙の生えた口をガバッと開いてボリボリと食べ始めた。

 うお……結構エグイ。

 ユラユラってのはニョロニョロしている蛇のポーズだったのかよ。


「ムー! エップ」


 ベロンと傘の方の獰猛な口でカーキースネークを完食するとムウはお腹をポンポンさせて鳴いた。


『どうやら二つある口でどっちも食事が出来ると言いたいようだ』

「ムー!」


 こんなジェスチャーでよくわかるな。


『最初のポーズでこっちの口でも食事が出来ると主張しているのはなんとなくわかったのでな』


 そうですか。分かり辛いっての。


『そもそもマイコニドの生態くらいは我も把握している。後はどの程度変異しているかを測るだけであったのだ。おそらくだが……腐った物の上に乗るだけでも食事が出来るぞ。根を張らねばならんがな』

「ムー!」


 ムウが頷いているけど、そこまで知りたい訳じゃない。

 運用方法は大分分かってきたし、変わった魔物だけど特殊過ぎる食事をする訳じゃないから大丈夫そうだ。

 かなりタフな様だし。


「さて……じゃあこれからどうするか」


 本日二度目のどうするか、だ。

 順調なのは良いけど、より強くなる為にLvを上げておきたい。


「沼地の奥へもう少し進んで見るか、それともダンジョンの方へ向かってみるか」

『我の勧めだと、ムウがいるのでな。ダンジョンの方で様子を見るのが良いと思っている』

「その理由は?」

『帰りにムウを転職させれるかも知れんからな。人の手が入った魔物は人の輪でしか変異できん。世話をされてる程度ならまた別だがな』


 ああ、なるほど。

 しかし……そうなると異世界二日目で転職した俺の実績をムウに奪われてしまう訳だが……。

 戦えるようになって一日で転職を許して良いのか?


『汝は妙なプライドを持っておるな……成長が早いのは良い事ではないか』


 そりゃあわかっているけどさー。

 まあ、新人を一日で転職させたと自負すれば良いか。


『全く……ではダンジョンの方へ行くのだ』

「はいはい。じゃあ行くぞ」

「ムー!」


 ムウが頷いて……小さな手を差し出して一緒に歩きたいって目で見つめて来る。


「……はあ。しょうがないな」


 小さな子供かって思うけど、いろんな要素が混ざった挙げ句、俺の作った毒が原因で変異した訳でもあるし……子供みたいな物なのか?

 俺からキノコが生まれるとか、色々な意味で複雑な気分だ。

 そう思いつつダンジョンへと向かった。


「そう言えばアルリーフさんとダンジョンで採取した時にキノコとかに触っていたんだよな」


 ダンジョン内は光源とばかりに光るキノコも群生しているし……ムウがローブに付着したのもこの辺りだと思う。


「ムウ?」

「となるとムウの生まれ故郷はここになるのか?」

『一応はそうなるかもしれん。ただ、変異を繰り返したのだ。もはや別物でもあるがな』

「ムー」


 ふむ……ところでヴェノ。


『なんだ?』


 ムウの目の前で採取と称してキノコ採りをして良いのか気になるんだが。


『汝は妙な事を気にするな。とはいえ、確かに少し気にはなる』

「ムウ?」


 あ、ムウが俺の隣で平然と光るキノコを踏んでいる。


「そのな。ムウ。キノコは仲間じゃないのか?」

「ム? ムウ?」


 そしてムウは踏んでいたキノコを毟って……俺に差し出す。


「いや、別に欲しい訳じゃないから」

「ムー……」


 とは言いつつ勿体無いから預かる。


『もはや別種と化してしまって仲間意識は薄くなってしまっているのかもしれん。あまり気にしなくて良いと思うぞ』


 そう言う物か?


『汝の世界では人は猿から進化するとの知識を我は読み取っている。でだ、ここで汝に問おう。猿は人か? 仲間か? 害獣として駆除された所で汝自身が生命の危機を感じるか?』


 言われてみると少しばかり感覚が異なる様な気もする。

 確かに動物園や観光地以外で猿を見かけたら警戒はしても味方意識は湧かない。

 動物園にいる猿相手に監禁されていてかわいそう、とも思わないだろう。

 なるほど、元がなんであったとしても今は感覚が違うってわけね。


『多少の繋がりはあるのだろうが、植物系の魔物等はその辺りの意識は希薄だ。あまり深く考える必要は無い』


 それってムウがキノコを仲間と思っているかもしれないって可能性を考えるなって言ってる様な物じゃないか。


『ええい! 気にしていたら禿げるぞ! 人間の雄はその辺りを気にするそうではないか!』


 逆切れすんな! 後、俺は禿げない。


『ムウ本人が気にしておらんのだからここは聞き流せば良いのだ。そもそもこのままムウが成長し、自らの分身を量産しないとも限らんだろう』


 俺の脳内でムウが胞子を振りまいて大量増殖する光景が展開される。

 それはそれで何か嫌なんだが。

 いや、戦力的には良いんだろうけどさ。数は暴力的な意味で。



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