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十六話

 これはどうするべきか。

 まずは洗濯か? 消毒液って毒か? ヴェノ? 洗剤の作り方知っているか?

 石鹸の作り方は知ってるけど、それで良いのか?

 変な洗い方をすると壊れたりしない?


『落ちつけ。それと汝、ステータスを確認しろ。項目が出ておるぞ』


 は? 言われてステータスを確認する。

 ……あれ? コールファンガスなんてスキル。宿屋に戻るまでにあったか?


『昼間の狩りを終えて帰る時にはあったぞ』


 いつの間に確認したんだと突っ込みたくなったが、その頃には既にあったのかよ。

 コールファンガス……直訳すると菌よ来い?

 ……ん? ステータス欄が何かダブって見えるぞ。

 もう一つの項目を呼びだそう。

 意識をするとピコっともう一つの項目が現れる。

 と、同時にモゾモゾと……カビたローブのキノコが膨れ上がり始めた。


「うお!?」


 思わず声が漏れてカビたローブから距離を取る。

 だって驚くだろ。

 椎茸くらいのキノコがむくむくと膨れ上がって形作られて行くんだから。


 魔物か? 魔物が俺のローブに寄生していて、俺が気付いたから正体を現して襲いかかろうとしているのか?

 やがてカビたローブを苗床にして俺の腰位まで大きくなったキノコが……傘を斜めにしてかなり太い柄の部分が少し仰け反る。

 パチクリと、視線が交差した気がする。


「ムウ!」


 ちょこんと、柄から突起みたいな手? を上げて挨拶された。

 もう少し明確に確認してみる。

 凄くつぶらな瞳がキノコの柄の部分に二つあって、その下に猫を連想する口がある。

 更にその下に手っぽい二つの突起……それと柄の根元に足っぽい二本の突起。

 傘の部分にはもう一つ口っぽい部分から舌がはみ出してるぞ。

 一応、パッと見の外見はキモ可愛いにカテゴリー出来そうな姿をしているが……。


『マイコニド、もしくはファンガスと呼ばれる魔物だな』


 ヴェノがしっかりと分析している。

 ん……? ファンガス?

 魔物名はー……アレ? 出て来ないぞ。


『汝が呼び出した下僕だからではないか? ほれ、ステータス画面が出ているではないか』

「は?」

「ムウ?」


 - ミューテーションマイコニド ファンガス Lv1

 所持スキル 胞子散布 自己再生 スタミナ回復速度アップ(弱)


 なんかしっかりとステータスが確認出来るが名前の部分が横棒なのは無記名って事で良いのか?


「跳ねろ」

「ムウ」


 俺の命ずるままにキノコはジャンプした。


「三回まわって鳴け」

「ムー……ム!」


 キノコはクルクルと華麗に横回転をしてから鳴いた。

 うん……コイツ、間違いなく俺の命令に従っている。


「なんでキノコがテイミングされている訳?」


 オンラインゲームとかだと魔物をペットとかにする時にテイミングと言ったりする。

 他にゲットとか色々とあるけど、俺はテイミングって呼ぶのが親しみ深い。


『ハンティングセンスの影響か。はたまた毒使いの修練の成果かも知れんな』


 ヴェノの憑依リンクが原因ではないと言いたいのか?


『我も配下を作り出す術は知らん訳ではないが、今の状態では難しいぞ。魔力が根本的に足らん』

「ムウ!」


 なんかキノコが苗床にしているローブを指差してから俺を指差し、調合機材を指差した後、沼地の方角を指差す。

 それから俺の背後っぽい所を指差してるけど……おいおい、やめてくれよ?

 幽霊が居るとか言いたいのか?


『我の事を指名しているのではないか?』

「ムウ」


 ヴェノの提案に頷いて敬礼したぞ。

 聞こえてるって事か!?


「ムウムウ」

『ふむふむ……どうやらあの沼地で胞子が漂い、このローブに付着……汝の放つ毒素と沼地の毒と瘴気、そして調合時の薬物と我の力が混ざり合って変異した存在と言う所ではないか? そしてここまでの存在に昇華させてくれた汝を主人として配下に下りたい……と言いたいのだと我は察する』

「ムウ!」


 ヴェノの言葉にキノコが頷いている。

 しかし、随分と情報量の多い話だった。


「つまり……えっと、ローブに付着したキノコの胞子が俺の放つ毒とかの影響で突然変異して、結果……配下になりたいと?」

「ムウムウ!」


 何度も頷かないで欲しい。

 と言うか……俺にはキノコの言葉がわからないのかよ。


『我もソロモンの指輪があるはずなのに言語変換出来ておらん。全てこやつの態度を読み取ったに過ぎんよ』

「ムウ」


 察する能力高いな、おい。

 そこ等辺は魔物同士だからだろうか?


『仲間が欲しいと思っておったところであろう? 丁度良かったのではないか? これで問題は多少解決するぞ』


 確かにそうだけどさー……良いのか? こんな適当な感じに加入させて。

 と言うかこの世界で魔物の使役とかどんな扱いなんだろうか?


「人目が無い時に呼び出す感じで使役するのか?」

『主従の首輪と言う道具がある。階位の低い魔物や奴隷何かを使役する時に使われる物だ。これを模したベルトを腹に巻いておけば警戒はされんだろう。正式な物は後で買って着用させるなりすれば良いのではないか?』


 ヴェノは持っていないのか?


『巣にはあったのだが、生憎今は手持ちに無くてな』


 うーん……。


『ベルトの方はなめした毛皮を加工すればどうにかなる。ほれ、出すから加工せよ』


 はいはい。

 そんな訳でヴェノが出した毛皮を剣で裁断してそれっぽい形にしてキノコの腰……? 手らしき突起と足の間に巻き付ける。


「ムー!」


 キノコが嬉しそうにしているけど、それって後々主従関係を証明する首輪と交換するんだぞ?


『とりあえずは……そうだな。魔法と薬学を駆使した人造生命とでも言い張れば良い。沼地のコーグレイ』


 その二つ名がここで役立つわけ?

 俺ってここではどんなポジションに収まりつつあるのだろうか?


『さて……差し当たってこやつの名前はどうするのだ? 必要であろう?』

「んー……」


 小躍りしているキノコを見ながら考える。


「ムウムウ鳴いているからムウで良いか」


 正直、名前を考えるのがやや面倒臭い。

 キノコとかマタンゴとか、エリンギとかよりはましだろう。


『割と酷い名前候補ばかりだな……これが一番マシとは……』

「ムー!」


 ムウと名付けられてキノコが喜びの表情で鳴く。

 愛嬌はあるんじゃないだろうか?

 とりあえずヴェノとだけ話をしている訳にもいかないので考えるだけで会話をするのはやめておこう。


「一応ムウを仲間として扱う訳だけど、どんな成長をするかヴェノはわかるか?」

「ムー?」

『先ほどの確認した所だと、魔物と人間の半々の性質を持っている』

「ああ、ミューテーションマイコニドとファンガスの部分か?」

『そうだ。本来なら前者が種族であり職業となる。にも拘らずこやつはファンガスという職業まで持っているのだ。まだ判断が出来んな』


 二重の職業項目……とは違うか。

 キノコ人間的な判断をするのはどうだろうか?

 とも思うけどLvを上げて確認した方が早そうだ。


「ムー!」


 なんかムウがシャドーボクシングをしてやる気を見せている。

 あれだ。闘争本能的な物でもあるんだろう。


『おそらく前衛をやりたいと言っておるな』

「そうか……助かるけど、大丈夫なのか?」

「ムー!」


 まあ、とりあえず、実験に狩りに出るべきか。

 武器はどうしたら良いか。


『まだLv1であるから、汝のお古となっている剣を持たせておけば良いであろう』


 護身用に持っていたけど、いざって時にしか使わなくなったもんな。

 今ではクロスボウを使っている。

 困った時は毒放出で毒液を出して投げつけてるし。

 そんな訳でアイアンフライの剣をムウに持たせる。

 するとムウはどうやって持っているのかよくわからない感じで剣の持ち手を持ち、ブンブンと片手で振った。


「ムー……」


 なんか不満そうだ。

 もしかしてキノコに剣は向いていないのだろうか?


『軽くて不安なようだな。だが、その剣は中々の業物なのだぞ。重い武器が欲しいならしっかりとLvを上げて強さを証明するが良い』

「ムー!」


 スチャッとムウがどこで覚えたのか右手を掲げて敬礼をする。

 軽いのが不満だったのか……まあ、良いか。

 そんな訳で俺は再度、沼地へ行く事にした。

 部屋から出て宿屋の出入口を通りかかる。


「あら?」


 当然ながらおかみさんの視線が俺の背後にいるムウへと向かった。


「ああ、薬学と魔法を駆使して手下を作ったんだ。これから、見るようになると思う。何なら納屋に預けても良い」

「ムー!」


 ペコっとムウがおかみさんに頭を下げる。

「まあ……利口ね。えーっと、これは魔物の中でも何処に入るのかしら?」

「一応、人造生命だ」

「人造生命ね……沼地のコーグレイは錬金術にも精通していたのね」


 その二つ名を名付けたおかみさんが俺に感心した様な声を出す。

 ああ、これだけで凄腕とか思われちゃうのか。


「これは確かに仲間なんて不要と思っちゃうわよね。なるほど」


 いや、割と欲しいですよ。苦楽を共にする仲間。

 今の俺って脳内おしゃべり空気を読まない我が道を行くドラゴンと、謎のキノコが仲間なんですよ?

 割と虚しい感じで悲しくなってくるんですけど?


『汝、本音がだだ漏れだぞ。巻き込んだ我も我だが。とはいえ、物怖じして冒険者に関わらん汝も悪い』


 く……これは文句も言えないしリアクションする訳にもいかない。


「新しく作った手下の実験に行ってきます」

「はーい、行ってらっしゃい。出来ればその子は納屋の方で寝泊まりしてほしいわ」

「わかりました」

「ムー!」


 ムウが無邪気な感じでおかみさんに近づいて、つぶらな瞳で見つめる。


「ま、まあ?」


 それから撫でてって感じで小首をかしげつつ、傘の部分を突き出す。

 おかみさんは恐る恐ると言った様子で傘の部分に触れて撫でる。


「ムウ……ムウウウ……ムウウウウ」

「あら可愛い。んー……利口みたいだし、部屋を汚さないなら……いえ、どうしようかしら」


 愛嬌が凄い良いな。

 納屋で寝泊まりしろっていう相手を部屋に入れさせるのを迷わせる位に愛嬌を振りまいている。


「試しに部屋で一泊……は許可するわ。綺麗に使うのよ」

「ムウ!」


 ありがとうとばかりにムウが一礼した。

 上手くやったもんだな。これがペット枠という奴か。


「そ、それじゃあ行きますね」

「いってらっしゃい。気を付けて……何かあったら呼び鈴で呼んでくれると助かるわ」


 そういやおかみさん、あんまり調子が良くないらしい。

 頑固な風邪を引いているんだとか。

 と言う訳でおかみさんの許可を得て俺達は出発した。


 ちなみにこれは後に起こる出来事なのだが、ムウはこの後宿屋でおかみさんの手伝いとして薪割りや掃除等をして、更に気に入られる事になったりする。そのお陰でムウの宿泊費は500ラグで済み、俺と合わせて2000ラグとなった。

 ちゃっかり宿泊人数を増やされて出費が増えている。

 色々と言いたいけど安く寝泊まりさせてもらっているので文句は言えない。



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