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十五話


「こっちも毒草類を高額で買い取っているアンタの店の方が気になるが?」


 なので話題を逸らす為にアルリーフさんの父親に言い返してみる。


「そりゃあこの村はその手の薬物が名産品なんだから当然だろ。後、村の畑に入ったら許されないぜ?」


 村単位で怪しげな毒草栽培をしているって……。

 アルリーフさんの話によると麻酔薬の材料らしいが、あんまり踏み込まない様にしよう。


『ん? あの畑か? アレは毒草では無く解毒効果の高い薬草が多く見えたぞ?』


 ヴェノの薬草知識が疑問を浮かべてるけど、そっちの畑じゃないんだろうさ。


「……そうか」

「ただ、何分危険な所に生えてる奴は冒険者に頼んでる」


 あまり知りたい話題じゃなかったなぁ。

 まあ、ここ三日の内に地図を購入して近くの村々とか地形は大分把握したんだけどさ。

 いい加減移動するか悩み中だ。

 と言うかアルリーフさんの父親が親しげなのは俺がお得意様になったからか?

 それとも危ない薬を嗜んでいる様に見える訳?


「お前も実は仕入れで来てんじゃねえのか? 良い奴を紹介するぜ?」


 うわ。勘ぐられてる。

 そんな闇の中に足を踏み込みたくない。

 アルリーフさんは大丈夫なんでしょうかねー?

 あんなかわいい顔して実は危ない薬を売り歩いていたら嫌だなぁ。


『綺麗な花には棘があると言うしな』


 ヴェノ、出来れば否定してくれ。


『姦計に騙されるのが英雄の恒例ではないか? 人間とは愚かな生き物なのでな』


 わからなくもないけど、出来れば想像の範囲だけでもアルリーフさんは綺麗でいてほしい。

 とりあえずアルリーフさんの父親の提案は断ろう。


「別にそこまで困っちゃいない。手頃な依頼だったから達成しただけだ」

「つれない奴だな。もう少し踏み込めばその面を駆除出来るってのに」

「お前は娘を劇物みたいに扱ってないか? 一体、彼女に何があるんだよ」

「それは内緒だ。へへへへ」


 って感じでもう手慣れた感じで金を受け取り、道具屋を後にした。



 それから……あんまり美味くない酒場に行って遅めの昼食を嗜む。

 すると酒場のマスターが壁に賞金首の張り紙を新しく張っている所だった。

 賞金首なんているんだなぁ。

 倒した事を証明すれば良い金になるらしい。


 ゲームのボス退治って感じで胸が躍るけど、今の俺は強くなる事を重視している訳で、そんな危険な事に足を突っ込むのは愚かだ。

 ただ、ヴェノ曰く、何処にいるのか目撃証言等の情報は重要なので目だけは通した方が良いらしい。

 なので杯を片手に賞金首の情報を見てみる。


「ん? ああ、アンタは……沼地のコーグレイか」


 もう俺は有名人になってる訳?

 おかみさんがおしゃべりだからか?

 というか沼地のコーグレイって……。


「沼地のコーグレイって何だ?」

「ああ、アンタはここに来てからずっと沼地の方へ行くだろ? だから毎日沼地に行くコーグレイって冒険者だから沼地のコーグレイさ」


 嫌な二つ名が付いている。

 こう、もっとかっこいいのはなかったのか。

 しかし、異世界ファンタジーや異能バトルモノって登場人物に二つ名が付いたりするけど、案外こういう安直な付け方なのかもしれない。


「……」

「気にしなくても良いだろ? 有名になればその分、仕事もしやすくなる。沼地に詳しいなら案内に誘われる事もあるだろうさ」


 え? それって冒険者に仲間として誘われる可能性があるって事?

 何かちょっと心が躍る。

 ってそれは良いんだが、酒場のマスターが何を張っているのか気になるので確認する。


「なんか新しい賞金首の情報か?」

「そうだ。こんな地方の村にまで速達で届けるなんてあの国も躍起なもんだ」


 張り出された賞金首を確認して吹きそうになるのを堪える。


 人化したドラゴン 懸賞額 30000000ラグ

 ○月の△日、セントユグド国の討伐騎士団が竜殺しの勇者と共に交戦。

 業火の如き炎を吐き、雷鳴を降り注がせる。

 ファイアドラゴン、あるいはサンダードラゴンだと思われる。

 竜殺しの勇者達はドラゴンを弱体化させる、人化の呪いを掛けてトドメを刺そうとした所、巧みな魔法を使ってドラゴンは逃走。

 このドラゴンは人間の姿で潜伏し、力の回復を狙っており極めて危険。

 近隣諸国はこのドラゴンの討伐に協力を要求する。

 竜殺しの勇者が引き続き追跡中。情報提供を求む!


 顔とか造形が載って居ない賞金首情報だ。

 ただ、特徴からして間違いなくヴェノだろう。

 というか強制憑依召喚の魔法は人化させる呪いって認識なのかよ。


『耳当たりの良い様に改ざんするのが人間であろう?』

「そんな危険なドラゴンが隣国に潜伏してるのかねー。しかし……こりゃあ随分と賞金額を奮発したもんだ。一獲千金の冒険者が躍起になって探すだろうね。ただ、内の村じゃねー」


 なんてマスターが呆れる様に呟いているけど……。


『まさか三日で手配書が回るとはな。これは十分に気を付けるべきだな』


 というか懸賞額が三千万ラグってとてつもなく膨大な額が掛けられてるんじゃないか?

 武具の代金とか結構値が張るけど、それにしても大金だって分かる。

 人化して弱体化しているドラゴンを殺せば三千万……欲望をぎらつかせる冒険者が何処からか嗅ぎつけて来そうだ。


 ……ヤバイな。

 今でこそ、奴等はヴェノがどんなドラゴンなのか判断が出来ていないけど、毒ドラゴンだってわかったら毒を使いこなす俺に疑惑の目が向かうかもしれない。

 出来る限り穏便に魔法を解く術を探さなきゃいけないな。


『奴等も魔力の流れなどで居場所を追跡する術を持っている可能性は高い。気を引き締めて行くのだぞ』


 誰の所為で命を狙われる羽目になったと思ってんだと言いたいが、ヴェノだけの所為じゃないか。

 俺達は揃って理不尽な連中の被害者な訳だし。

 そんな訳で、若干焦りを感じつつ平静を装いながら俺は酒場での食事を終えて宿に戻った。


 宿の部屋に戻り、室内を見渡す。

 異世界生活四日目……なんか宿屋の部屋なのに自分の家みたいな安心感を覚え始めている。

 連泊するってこんな風に馴れて行く物なのか?

 部屋の隅に調合機材が置かれているのを見ると、自室になってしまった様な錯覚を覚えるぞ。

 いつでも逃げられる様に準備しておいた方が良いと言うのに……嘆いていても始まらない。

 ここ三日の成果、俺自身のステータスを再確認しておこう。


 小暮幸久 毒使い Lv17

 所持スキル 憑依リンク 毒吸収 毒放出 毒合成 毒物目利き 毒付与 ハンティングセンス ハンティングマスタリー1

 エイミングショット トラップマスタリー1 コールファンガス


 思ったよりも所持スキルは増えない。

 ただ、作成できる毒合成の種類は増えつつある。


 中度麻痺と中度麻酔。

 それと軽度酸とか、軽度沈黙毒、それと軽度幻覚毒だ。

 毒付与でボルトに施して魔物に放った所、効果があると分かっているのは麻痺と幻覚毒か。

 麻痺は文字通り、相手を痺れさせる毒だ。

 これを受けると相手の動きが緩慢になって痺れて動けなくなる。

 効果が出るまで時間が掛かるのは凝縮した毒と変わらない。


 次に幻覚毒、こっちは即効性がそれなりにあるっぽくて、命中すると目眩を起こしたり、幻覚を見ているのか恐怖で逃げたりやみくもに暴れたりと魔物毎に症状が異なる。

 ヴェノが、もう少し方向性を定めるように毒調整が出来ると良いのだが、と愚痴っている毒だ。


 他に毒放出に球体以外に散布という項目が出て、毒の霧を展開出来るようになった。

 風上から放つと広範囲に効果が出ると思うけど、まだ試していない。

 不用意に使って村の方に飛んで行ったら危ないし。


 で、現在俺が実験で行おうとしているのは軽度軟化毒という、硬い皮膚や鱗を持つ魔物の守りを柔らかくさせる毒だ。

 現状だと相手に直接ぶつけても効果が出ない。

 しかも熱に弱く、熱すると毒素が消えてしまう短所を持つ。

 凝縮するにもLvが足りないのか、不可能となっている。

 地味に生成するのに時間が必要だけど、それなりの量を作れたので桶に軟化毒を出してから、村で出される無駄に硬くて筋張っている肉の調理前の物を購入して漬けてある。

 今夜辺りに宿の厨房を借りて焼いて実験する予定だ。


 って毒の話はこれくらいにしてハンティングマスタリーを習得した。

 どうやらヴェノの助言に従ってクロスボウの練習をしていたお陰で習得出来たっぽい。

 まあ、クロスボウの使い方にもだいぶ慣れてきたしね。

 その所為かエイミングショット……狙って意識を込めて放つとちょっと強めのボルトを放てるようになった。

 どうやらこれがアクティブスキルらしい。


 このスキルは使用すると魔力を少し消費する。

 トラップマスタリーは沼地で穴を掘って魔物を罠にかけて魔物を倒して見るのも悪くないと実験して居たら習得した。

 その時に作った罠で今日の魔物が掛かっていたっけ。毒にやられて既に事切れていた。

 毒放出で凝縮した毒を引いていたのが地味に効果があったっぽい。


 あ、もちろん人間は掛かって居ない。

 というか俺が正面から戦うには沼地の奥地に居る魔物相手では厳しい。

 ヴェノの警告で何度か撤退している。

 毒の沼に潜っても構わず突進してきたり、魔法で狙撃してくるかもしれない魔物なんて相手出来るか。

 まだクロスボウだって使いこなせている自覚は無い。


 そんな訳で罠を使って倒した。

 一応、倒した獲物は収納魔法で収めたけど……ヴェノがほとんど美味しく頂いている。

 こんな感じなんだが、色々と反省点こそあるものの割と順調なのではないだろうか?

 後は推測の範囲でマスタリーと毒生成の違いを分析してみた。

 マスタリーは練習する事で習得するけど、毒生成は練習無しで出来る。

 これは生まれ持った出来る事と修練の違いだ。

 この前、ヴェノが言っていた。毒蛇の毒牙は努力で習得する物か? と言う奴だ。

 生まれた時から使える訳だから努力なんて関係ない。

 毒使いが毒を使用出来るのは、そう言った所が関わっているのではないかと思われる。

 便利だとは思うし、中々に侮れないスキルだ。


『案外、汝も馴染んだ物だな』


 まあな。元がデスクワークが基本のSEだった訳だし、冒険者なんて体育会系の職業、すぐに嫌になると思っていた。

 しかし、やってみると案外上手くやれている。

 とは言ってもまだまだ格上の相手が多いし、ダンジョンで魔物を倒してLv上げる事を考えると厳しいものがある。

 追っ手の存在もある訳だし、出来る限り強くなっておきたくはあるんだけど……いい加減、一人で戦うのは辛くなってきたという自覚もある。


 ヴェノの援護で色々と助かるけど、数が多い魔物と遭遇すると撤退しなくちゃいけない。

 ゾンビドッグの群れとか如実だ。毒の効きが悪くて格上、沼に逃げなきゃ正面じゃ勝てる見込みがない。

 俺は強くないから、一人で出来る事には限界がある。

 Lvでごり押しするにはまだまだ沼地での戦闘は厳しいな。


 うーん……危険だとは思うけど勇気を出して冒険者のパーティーにでも入るか?

 沼地のコーグレイとか言われている位だし、俺が仲間を募集すればあの辺りの魔物や採取のおこぼれをもらおうと考える冒険者が居てもおかしくはないはずだ。

 ただ、二六歳って俺の年齢からすると熟練の冒険者っぽい雰囲気を勝手に感じさせてしまうっぽいので遠慮されたら困るな。


 アルリーフさんの父親……おそらく三十代だぞ。

 それなのにあんなに大きな娘がいる。

 現代日本の結婚適齢期と異世界の結婚適齢期の違いが恐ろしい。

 俺ってそんなに老けて見えないと思うが……まあいいや。

 一旦休憩してまた沼地に行くか考えよう。

 そうして今日も沼地で濡らしてしまったローブを陰干ししようとして……ふと気付く。


「カビてる……しかも、キノコが生えてる……」


 いつの間にかローブの裏地部分に赤い傘の付いたキノコが生えていた!

 まだヴェノからもらって三日目だぞ!

 こんなにも早くカビは侵食する物なのか?

 なんか凄いショックなんだが……こう、自分が不潔という意味で。


『よく干さないからであろうが』


 わかっていたけどさ。

 咄嗟に毒の沼に潜る時に羽織っている事が多いから乾かすのが面倒だったんだ。

 湿っぽい所に居たし、幾ら俺が毒使いだからって衣服まで毒に耐性があるって訳じゃないって事だよな。



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