十四話
じゃあ……他に出来る事として、毒合成を意識してみる。
毒凝縮の項目が浮かんで来て、もう一度確認すると見覚えのある凝縮項目が出現した。
特にこれと言って変化らしき物は無い様に見える。
『まて……生成という項目が出ておるからな』
何? 言われて項目を確認する。
すると合成内に生成という項目があるのに気づいた。
とりあえず確認してみる。
軽度毒
軽度麻酔
どうやら今の俺が生成出来るのはこの毒だけらしい。
微妙に出来る物が少ないな。
と言うか沼地の毒素は作れないのか?
いざって時に手持ちの材料で生成とか出来たら良いのだが……。
これはあれだ。俺自身の成長に期待か。
まだ転職した直後な訳だし、色々とやって行けば出来る事も増えて行くだろう。
『では本日もLvを上げる為に狩りに出るとしよう。依頼はほとんど達成したのだからな』
「そうだな……出来る事が増えた分、より大変になったと思うが……やっていくしかない」
なんて半ば独り言に聞こえかねないヴェノへの返事をしてから、俺はダンジョンから出て、いざって時は回復に使える毒の沼地内を警戒しながら周ったのだった。
ただ、出て来る魔物に関してはかなり有利に戦えるようになったと思う。
昨日は出遭わなかったけど、結構いろんな魔物が生息している。
テラコッタポイズンゾンビドッグというゾンビ犬の群れやカーキースネークなんて2メートルくらいの毒蛇とも遭遇した。
ゾンビドッグの方は毒の沼に浸かってラピッドフェザークロスボウで狙撃したら案外あっさり仕留める事が出来た。
ただ、昨日いたっけ? こんな魔物? 遭わなかっただけなのかもしれないけど。
カーキースネークの方は毒の沼が平気なのか俺に絡みついて来たけど、剣で頭を貫いたら倒せた。
思いっきり噛みついて来たけど痛いだけでなんともなかった。
多分、猛毒があったんじゃないかとは思うけど、毒吸収を持っているお陰で噛みつかれた痛みしかなく、回復までしたのでなんともない。
俺の毒ストック内にカーキースネークの毒が保管されるに留まっている。
むしろ判明したのは毒を受けると一時的に能力が上がるって事か。
俺のメインである毒吸収ってどれだけ万能なスキルなのかと呆れる位だ。
戦闘後のボルトの回収がやや面倒だけど、再利用できる限りは無くさない様にしていかないと。
で、ヴェノから手元の薬草を練り合わせて水で溶かすだけで作れる薬の作り方とかを教わった。
普通の人間でも傷の治療が出来る回復効果のある薬も出来ただけ、一応はマシか。
そんな感じで思いの外順調に転職後のLv上げは進んでいる。
「くそ! 奴らめ! やっと生活出来るようになったこの土地の要となっている世界樹の苗木を寄こせとかどう言うつもりだ!」
俺の視線では前に見た夢の男の仲間が会議の場で怒鳴る様に言い放って机に拳を叩きつけている。
「対魔物用兵器のエネルギーに私達が大事に育てた世界樹の力が必要ってことでしょ。私達から奪う方が魔物の王を倒すよりも御しやすいと判断したのでしょうね」
「あの魔物を倒せば魔物の驚異から世界は救われると本当に思いこんでいるなんて……愚かとしか言いようがない」
「その為の最小限の犠牲だと世界中に風聞してこの国に乗り込んで来ようとしているのよ」
「どうする?」
複雑な表情で開拓の夢を語った男に視線が集まって行く。
「俺達は俺達の国を守る為に戦わなきゃ行けない。エルフ達を返り討ちにする事は犠牲が多くなるけど出来るはずだ。だけど……そんな争いをしていたら魔物を支配している王に付け入られかねない」
「……嘆かわしい、そして愚かな戦いをしようとしているな」
そんな軽蔑の声が視界の主から響いて来る。
「わかってるさ。だから出来る限り少ない犠牲で、この困難を乗り越えて見せるんだ。人々が争うことなく生きて行く為に……綺麗事だって分かってる。それでも俺は、諦めたくない」
開拓の夢を語った男に同調するように仲間達も頷く。
「こんな無理な要望を出してくるのは彼等も追い込まれている証拠。自分たちの持つ世界樹が枯れ、手元のエネルギーが少ないから無茶な命令をしている。後少し持ちこたえれば交渉の場に引き摺りだせるはずだ」
それこそ、どんな手を使っても相手の切り札に必要な力を削げば良い。
と、開拓の夢を語った男は剣を掲げて言い放つ。
「後は如何に無理な事を言っているのか、そして不要な争いを起こそうとしているのかを世界の人達が気付く様に動けば活路は見える」
戦いを終わらせる為に剣を振るう決意を、みんなで固めている様に感じる。
「存分にやって見せるが良い」
「ああ、お前は普段通り、この地で見ていてくれ」
「ふん。我の縄張りを荒らす様な真似をしたら、貴様との盟約等破談になる。そうなったら好きにさせて貰おう」
「わかっている。さあ、これ以上の犠牲を出させない為に……行こう!」
世界はより複雑で、それでありながら愚かな戦いばかり繰り返す。
短い時間の中で目まぐるしく変わる状況を、視界の主は理解していた。
力だけでは解決せず、知恵だけでも起こる争い。
ままならないと嘆く声が聞こえた気がした。
転職して三日目の昼過ぎ。
依頼を達成しに村の道具屋兼、薬屋……アルリーフさんの父親の所に顔を出す。
「ああ、コーグレイか」
「あ、はい」
もう訂正するのも面倒なので聞き流す事にした。
で、何だかんだ言ってここからの依頼を受けている内に、お得意様みたいになって来てしまっていた。
まだ三日だけどさ。
「今日も沼地に行っていたのか? よくもまあ体が持つもんだ」
「解毒が得意なんで」
そう言って今日は毒の沼地の中で生成される結晶を持ちこむ。
ヴェノの話だと沼地の水から生成する事も出来るらしいが、ついでに採取と言った感じで持ってきた。
「ところでアルリーフさんは?」
ここ三日見ていないのだが。
「ああ、アルリーフは辺りの村々に薬を卸しに行ったよ。帰ってくるのは……三日後位だ」
「へー、そうなんですか」
行商もしているとは……働き者なんだな。
何処に酷い女要素があるのか見当も付かないぞ。
「なんだ? アルリーフが気になるのか? まあ、愛想が良いし面倒見も良いから冒険者にも受けも良い。自慢の娘だ」
確かに、顔も良くて優しい感じの子だった。
人気が無いはずもないか。
と言うか娘自慢するな父親!
あの嫌味は何なんだよ。
「この前、何か言い争っていましたけど、何かあるんですか?」
「俺が言ったとばらしたら喧嘩になるだろうが、そこはアルリーフから直接聞くべきじゃねえか?」
「確かに……」
「つーか、コーグレイ。お前は毎日、よくもまあ指定した物を持って来れるもんだ。何だかんだ言って難易度高い品なんだぜ?」
俺は逆にこの薬屋が扱う品に対して猜疑心が募っている。
ハイになる毒苔に始まり、中毒性の高い煙草の材料だったり、一時的に力が増強する代わりに負担が大きい薬の材料になる毒草だったりと怪しげな依頼ばかり出してるじゃないか。
後はLvが上昇した影響で作れる毒物が増え、毒生成の実験で作った物が丁度噛み合ったので持ってきた物もある。
即効性の鈍足毒……この毒を受けると相手の神経伝達が遅れるのか、動きが少しの間緩慢になる。
動きの速い魔物相手にクロスボウの矢……ボルトに毒付与して当てる事で戦いやすくはなった。
どうもこの店でも毒は扱っている品だったらしく、買い取ってくれたのだ。
で、金に関してなんだが……一応、今の俺はそこそこ金を得た状態だとは思うけど……武器屋を覗いてみて、目が飛び出るかと思った。
鉄の剣とかはまだ良いんだ。
それよりも上になると桁違いに値が上がる。
しかも剣のメンテナンスとかに使う油とかが地味に高い。
毒の沼地に逃げる戦いをしていたらアッサリと錆びてきたので泣く泣く研ぐ羽目になった。
「更に中級クラスの傷薬まで持ちこんで来るとなると、気にならないはずはないだろ?」
「まあ、作り方は知り合いから教わっているんでね」
転職後にヴェノの勧めで乳鉢と薬研、それと鍋とかを購入し、傷薬とかの作り方を教わった。
俺自身は毒で傷を癒やせるけど、調合して買い取りに出すのも依頼にあったりしたからだ。
ヴェノは元が毒ドラゴンだからか、探究心が豊富な影響なのか、薬の調合方法も知っている。
収納魔法で収納した際にある程度、大雑把に調合してくれたりするけど、細かいのは俺がした方が良いとヴェノの助言を受けながら薬を作ったりしている。
毒と薬は元が同じだからなぁ。
「コーグレイ。魔力を回復させる薬を直々に指名した依頼を出したがどうなんだ?」
「ああ、それなら昨日の内に作った」
ポンと薬屋のカウンターに注文通りの魔力を素早く回復させる薬……ポーションを置く。
沼地のダンジョンでアルリーフさんが採取していなかった毒草から作った物だ。
割と簡単に作る事が出来るけど、そこそこ高額で取引されている。
一昨日、アルリーフさんの父親に見せた時には面倒な調合をしなきゃ行けない薬を良く持っていたなと呆れられた。
それとなく探りを入れて見た所、分かったのはどうやら同様の効果を持つ別の薬と間違えている様だ。
そっちは面倒な製作工程を挟むとヴェノは言っている。
『簡単に作れる薬だと言うのに、気付かんとは愚かな……』
何でもこの薬の作り方はヴェノが自ら見つけた訳ではないとの話だ。
広まって居ないって事は何処かの誰かが秘匿でもしたのかな?
隠居した魔女みたいな奴が遺した書物に記された物とか。
どちらにしても薬作りなんてまともに知らない俺が学校の理科の実験でやった程度の技術でそれなりの代物が出来てしまっている。
やった事なんて毒草を乳鉢ですり潰してから煮たり焼いたり薬研で混ぜたり、布で濾した程度だ。
まあ……本来は素手で持ったらかぶれるとかもあったけど、其処は毒吸収で何事も無かった。
「じゃ、買い取る。次もよろしく……あんまり解毒出来るからって調子に乗らない方が良いぞ? 世の中にはどうしようもない毒物ってのも存在するんだからな」
「是非とも見てみたい物です」
俺の毒吸収のキャパシティを越える毒とか見てみたくもある。
限界を知るってのは重要だろう?
「そこまでの余裕、確かに仲間なんていらねえな」
「嫌味?」
広場とか酒場とかで依頼を受けた連中が仲間を募っている時に仲間に入り辛い所為でこうして一人、依頼を達成してるに過ぎないってのに!
「戦士のLv30以上の奴居ないかー? このタイガーオームの討伐依頼で募集中」
なんて感じで仲間を集めようとしている一行とかを何度も確認はしているんだ。
ただ……皆、それなりにLvが高かったりするし、低い奴等も耳当たりの良い職業を名乗っている。
しかもここは閑散とした村な訳で、人も少ない。
ここ三日で見た感じだと募集はすれど大体の面子が決まっている感じだ。
俺も仲間に入れてほしいなとチラチラと辺りで伺っているんだけど……毒使いです! なんて言えるはずもない。
職業を偽れば良いのか? それも微妙に出来ないチキンだ。
毒使いって耳当たりが良くないし、追われる立場だし……そんな訳で一人で出来る依頼で効率の良さそうな毒の沼地を中心として活動するようになってしまった。
しかも毒の沼地が温泉みたいな感じで、浸かっていると疲労が取れるので湯治感覚で通ってるし……。
ちなみに今のLvは17。
そこそこな速度で上がっていると思われる。
何だかんだ言って毒の沼地の魔物ってそれなりの強さを持っているみたいだ。
毒に対処出来ないと手も足も出ずに死ぬ位には危険な場所なんだそうだ。
瘴気の影響もあり、この閑散とした村にいる冒険者は滅多に行かない。それでも稀に行くらしいけど俺が遭う事は少ない。
だからあの辺りは採取出来る植物が多いし、魔物も沢山生息している。
そんな訳で……俺は他よりもLvが高い流れの魔法使いなんじゃないかと囁かれているらしい。




