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十三話

『でだ。汝はきっと知らぬであろうから転職とはどんな物であるかを伝授するとしよう』


 ヴェノが詳しく解説するとばかりに語り始める。


『人間共は産まれた時から職業の力を持っていて、その力によって出来る事が変わってくると言われている。人々の信仰が力となり、教会の像に宿る。像の力は人々に分配され、潜在的な力を解放し、更なる信仰を産む。これが職業の力の始まりの一節だそうだ。人間共が祈る事で力を合わせ、時に強大な力を成すと言う事だな』


 俺の知る宗教となんか違う。

 こう……俺の知る宗教って、どうしようもない運命とか理不尽に負けない為の心の支えだったり、地域に根付いた風習だったり、死後どうなるかの心の安定だったりする物だ。

 それに比べて、この世界の宗教ってもっと身近な感じだな。


『少なくとも冒険者と呼ばれる連中の信仰心はそんな物だ。驚異となる理不尽は英雄が退けてくれるとの話だな』


 この世界の人達からすると実際に授かる職業の力って奴の所為で凄く現実的な物になっているって事か。

 ここに俺の知る宗教が付属しているだけなのかもしれない。

 ゲーム的な転職があるのも色々と俺の知る認識と違う文化が根付くんだなぁ。


『異世界の宗教と言うのも中々に面白い物であるな。我の知識欲求が満たされる』


 先ほどまで不機嫌だったヴェノが軽い調子で答える。

 機嫌が良くなったのか。


『まあ、そこはどうでも良いとして、ここのシンボルは他と繋がりが無さそうなのでな……少しばかり干渉してみるとしよう』


 そしてヴェノは破壊された石像に触れるように指示してくるので、そっと触れてみる。

 ポーンと淡い……緑色の光が俺の触った所から出て波紋のように広がって行くように見えた。

 しかし……よくよく考えてみれば異世界生活二日目でLv14になった挙げ句、転職ってかなり早いんじゃないだろうか?


『どうなのであろうな。少なくとも我の知る範囲では汝は相当恵まれた伸び方をしたと思えるぞ』


 だよなー。

 結構アッサリとLvが上がって行った訳だし。

 まあ……ウルフとの戦いはかなり痛かったけど。


『ふむ……思いの外簡単に干渉出来るようだな。守りが浅いと言う訳では無いようだが……』


 なんて様子でヴェノが呟いていると俺の視界にアイコンが表示される。


 転職条件を満たしました!

 ポイズンアース→毒使い

 に、転職しますか?


 はいといいえが表示されるが……。

 なあ、いろんな職業が表示されるんじゃなかったのか?

 毒使いってなんだよ。これがポイズンアースの上位職って事なのか?


『む? 妙だな。初期職のアースの次に基本職が出るはずであるぞ。戦士とか魔法使いとか僧侶とかレンジャーになれると聞いた。偽りであったのか?』


 また推測での考えをするか?

 ゲーム風で言うなら転職場所が原因にありそうだよな。

 こんな毒の沼地にある朽ちた教会での転職な訳だし。


『そんな話は聞いた事が無いぞ。汝自体が我の影響でポイズンアースという奇妙な職業に就いているのが原因なのではないか?』


 確かに、それもありえる。

 昨日一日を使って職業の力を試した感じでは特殊な職業って感じだったしな。

 ポイズンアースの上位職である可能性はかなり高い。

 で……この毒使いって何が出来るんだ? と言うか転職って一回決めたらもう戻れないのか?


『どの職業も条件さえ満たせば転職可能だと我は聞いたぞ。魔物の変異と根本的に異なる部分だ』


 つまり戦士から魔法使いに転職も出来ると?


『うむ。更なる上位職に至るにはそう言った、幅広い経験が必要だと聞いたな』


 魔法戦士になるのには戦士と魔法使いを経験しなきゃいけないのか……そっちの方な訳ね。

 となると毒使いになっても損はなさそうだ。


『我も保証は出来ん。だが、ポイズンアースのままで居るよりは出来る事が確実に増えるはずだ』


 希少な回復アイテムを節約して最終的に使わないみたいな真似をして首を絞めるかの如く、正しい転職が出来るはずだといつまでも弱いままで居ては追っ手に殺されかねない。


『同ランク体の職業にスライド転職をしてもある程度、強さにボーナスが付いて、戦いやすくはなるそうだ』


 戦士のLv40から魔法使いのLv1に転職しても戦士としての経験が支えとなって魔法使いのLv20相当になるみたいな事かな?


『うむ』


 そうか……どっちにしてもやる事は一つ、今は毒使いに転職して力を蓄える事にしよう。


 はいを選択する。


 すると俺の周りに緑色の淡い光が発生して周囲を回り、散った。


 毒使いに転職しました!


 小暮幸久 毒使い Lv1

 所持スキル 憑依リンク 毒吸収 毒放出 毒合成 毒物目利き 毒付与 ハンティングセンス

 

 おお……色々と出たな。

 毒物目効きとかも実は気にはなっていたけど毒凝縮が毒合成に変わった。

 それと毒付与が地味に気になる。


『我も所持しておる。毒物目利きは文字通り毒物かどうかを敏感に判断出来る様になるスキルで凝縮の上位スキルが合成だ。毒付与は武器に毒物を塗るとも異なる一時的に付与する事が出来るのだ』


 ハンティングセンス……直訳だと狩猟の才能?


『魔法等も同様なのだが、まずセンスという資質が開花する。それからしっかりと修練を積み重ねて修得するとセンスからマスタリーに拡張する。そして魔法や攻撃スキルを習得するのだ。安易にLvを上げるだけでスキルは増えんぞ?』


 ああ、なるほど。文字通り才能って事か。

 じゃあ向いていないけどやりたい事を目指す場合はセンスがないと出来ないって事?


『そう言う訳でも無いぞ。しっかりと努力すればマスタリーを習得する事も時間は掛かるが可能だ。とは言え、其処まで努力して覚えたいなら、転職する方が良いだろうがな。そして、その中で才能の個人差がある。向き不向きは存在するのだ』


 ああ、資質の開花事態は横並びだけど生まれ持った才能はまた別って事ね。

 中々に嫌らしいな。

 ゲーム独自の公平性は異世界でも無い訳か。


『汝の持つ独自の概念は興味深いが、それは理想でしか無い』


 そこは……しょうがないのかもしれない。


『どちらにしてもだ。資質の開花に関してだが、魔法はしっかりとセンスを得ないと難しいぞ』


 魔法だけは例外なのか?

 まあ魔法と言えば才能ってイメージはあるけどさ。


『体の動かし方すらわからない者が努力してどうにかなると思うか? 火の魔法が使えればセンスが無くても努力すれば水の魔法を使える様になる……と答えればわかるか?』


 少しピンと来ないけど、なんとなくわかった。

 超能力を習得しようとしているのに手品の努力をしているみたいな、方向性が違うって事を言いたいのだろう。

 まあそこは保留するとして、ハンティングセンスってどんなスキルなんだ?


『文字通り狩猟する事の才能……狩りをする上で必要なセンスであるな。我の場合は足音を消し、物影から奇襲などをする行為も該当する。魔物ならば高頻度で所持する便利なセンスだ』


 ヴェノの説明だと魔物側しかないな。

 俺のゲーム経験とかだと狩り……弓矢とかの武器使用もここに該当するのかもしれない。


『なるほど、確かに弓矢は狩りの道具であるな。少なくとも剣よりは狩猟に重きを置いている』


 そして足音を立てず……潜伏のローブを装備する事で起こせた潜伏行為の理解が早まるって事なんだと思う。

 そう言った意味だと色々と重要な事に関わっているスキルに思える。


『ふむ……我の個人的見解であるが、この毒使いと言う職業はレンジャー寄りの資質を宿した職種ではないかと思う』


 確かに、どちらかと言えば出来る事が狩猟に重きを置いたスキル構成だろう。

 ステータスを確認……なんとなく早さとかが多めかな? って感じだ。

 まだ低Lvだからよくわからないけど。

 少なくとも魔法寄りでは無いと思う。

 とはいえ……毒濃縮とか毒放出を考えるとセンスとマスタリーの違いがどうもピンと来ない。

 簡単に出来る事と努力しないとどうにもならない事の違いが分かり辛いなぁ。


『毒蛇に例えれば分かりやすいのではないか? 毒牙は努力で習得する物か?』


 ああ、なるほど、生まれつき出来る生態って事ね。

 ……なんか嫌だな。俺は元々毒が使えますって……人間のカテゴリーじゃないぞ。


『どちらにしても汝のする術は変わらん。しっかりと鍛錬を積み、生き残る様に努力するのだ』


 はいはい。

 生きる事を放棄する様な奴はいないさ。


『差し当たって我が転職祝いをやろう』


 そう言って俺の目の前にクロスボウと矢筒が現れた。

 なんだこのクロスボウ? 弓の部分が三つもあるぞ。

 しかも軽いな。

 

 ラピッドフェザークロスボウ+4 品質 高品質 必要装備Lv 15

 付与効果 連射 セミオートリロード

 扱いやすさと連射性に重きを置いたクロスボウ。非力な者でも扱いやすい様に工夫されている。

 ただし、その分威力と射程に問題がある。


 アイアンフライボルト 品質 並

 付与効果 飛距離増加

 クロスボウ専用の矢。浮かび上がる鉱石を混ぜた合金のボルト。速度と射程に重きを置いている。


『使いやすくはあるだろうが矢の数に注意するのだぞ。出来る限り無くさぬようにな』


 まあ……まずは武器をしっかりと使いこなす事が重要なのはわかる。

 しばらくは練習として的当てをしてコツを掴まないといけないよな。

 しかし……必要装備Lvが足りないけど大丈夫なのか?


『この必要なLvと言うのは大まかな目安でしか無い。重要なのはステータスだ。汝が得意なフィールドは何処だ?』


 昨日の調査でわかったのは毒吸収のお陰で毒の沼地では自然回復する。

 しかもステータスも良い感じの影響が出ていると見て良い。

 つまりここでは多少の無理も利くので使えるとの判断か。

 なんだかな。


 とりあえずクロスボウを両手で持って構える。

 ……なんか、エアガンみたいな持ち心地。

 結構大きいし両手で持たないといけないけど、不自然な手触りって言うのだろうか。

 妙に軽いのが理由だと思う。

 ヴェノ、お前の持っている武器は何なんだ?


『だから珍しい品だから倒した人間共から没収したのをたまたま持っていただけに過ぎんと言っておるだろうに。何が幸いするかわからんな』


 一体ヴェノに装備を没収された連中がどんな連中だったのか判断に悩む。

 どんな人間だったんだ?


『貴族だったな。使いやすい装備で調子に乗って我に挑んだのだろう』


 ああ、楽がしたい、努力は嫌。良い装備があればドラゴンなんて容易いって感じで軽さ重視で良い装備を作って見かけたヴェノに喧嘩を売ったと。


『そうだ。我に無謀に挑んで来たので加減して吹き飛ばしてやったわ。後は意識を失わせて装備を剥いで安全そうな場所に放置したぞ』


 奪って良いのかよ。


『面白い品だったから我のコレクションにしただけだ。何が悪い』


 そういやドラゴンってコレクターな習性を持っているよな。

 何が幸いするかわからないけど、そんなコレクションをしないといけない類の品を使って良いわけ?


『命あっての物種であろうが。汝の生死が我の生死に関わっておる。収集欲など、全てが解決した後に満たせば良いではないか』


 確かに……言っている事は納得できるけど、ヴェノの収集欲はその程度で満足出来るのかね。

 俺だったら命よりも大事なオタクグッズをポンと人に渡したりはしないが……。


『命よりも大事ではないグッズなのだ。装飾品としての価値が強く、我クラスの存在を相手にこの武器で挑んだら無謀の一言で済むものばかりだぞ』


 そうですか……。


『面白いギミックがあるのだ。上下に振って見よ』


 ヴェノの言う通りにクロスボウを上下に振りかぶって見る。

 するとガチャンと音がして弓の部分が全部引き絞られている。

 ボルトは事前に根元の所に何発か収めないといけないみたいだけど……勝手にセットされたぞ。


 とりあえず試射とばかりに少し離れた壁に向かって引き金を引いてみる。

 バシュッっと音がして狙った所から1メートル離れた所に刺さる。

 凄く軽い半面、使いこなすのが大変そうだなぁ。


『何事も練習であろう? 弓を使うよりは簡単なのだから、それでしっかりとスキルを得てからでも問題は無いはずだぞ』


 いきなり簡単な方の武器を使って腕前が上がるのか些か不安ではあるが……まあ、下手に剣で戦うよりも良いかもしれない。

 少なくとも昨日の戦いを思い出す限り、俺は剣での戦闘がまともに出来ては居ない訳だし。

 剣技の心得のある奴を相手にしたら負ける未来が容易く想像出来る。

 そう言った点で言えば、逃げながら撃つだけで良いクロスボウは最適な武器か。



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