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十二話

『後はそうだな……』


 ヴェノが外に強調表示をしてから呟く。


『就寝する前に実験として得たスキルを試したであろう?』


 あ、ああ。ネズミを倒した奴な。


『あの時に放った毒を魔物の経路で何者かが踏みつけて、毒になり絶命した可能性だ』


 そんな馬鹿な……この世界の経験値の入手システムってどんなもんな訳?


『例外はあるが、あまり離れ過ぎると討伐者に魔素が届かなくなる……』


 なんて推測をしていると外の馬鹿騒ぎが大分落ちついて来た様だ。

 そっと窓辺に立って外を覗きこむ。

 宿の外の通路で寝る前に見たローズグレイソードホーンの亡骸を観客に見せている光景があった。

 見世物になっていたのか観客がそこそこ居て、チップを冒険者共に投げ入れている。

 しかも商人っぽい連中と商談していたみたいだ。


「なんか弱っている様に見えたから生け捕りにしたけど大成功だな」

「今夜はありがとうございましたー!」

「被害も最小限」

「いつもこんなだと良い儲けなんだがな!」


 これはローズグレイソードホーンを生け捕りにした冒険者が依頼人である商人の目の前で処分したって事なんだろうか。

 あれってまさか……。


『……ありえた様だな。どうやらあのローズグレイソードホーンを弱らせたのは汝が試射した毒による物と判断した方が良い』


 Lvの上がり具合からそう判断するのが無難か。

 しかし、沼地の毒を凝縮しただけでそこまで弱る物なのか?


『毒と侮るな。そもそもローズグレイソードホーンは毒の沼地に生息している魔物では無い。耐性が無く、解毒する前に毒が回り、弱っている所にかの冒険者共と遭遇して生け捕りにされたのであろう』


 運が良いのか悪いのか。

 まあ、よく考えてみればあの魔物の巡回通路で毒をばら撒いた訳だから状態異常に掛かる可能性はあったのか。

 どこまで順調なんだ俺? 逆に不安になってきた。


『渡りに船、幸運が舞い込んだと思っておくが良い。ところで汝、あそこにあるローズグレイソードホーンの亡骸の分け前を掠め取るのはどうだ?』


 やめておけ。誰が盗んだんだと騒ぎになるだろ!


『ふむ……全盛期の我だったら他者の目など気にはせんが、今は危険か。潜伏する上でも手を出すべきではない。失言だった』


 なんでそんな真似を提案したんだ?


『うむ。先ほどからローズグレイソードホーンの肉を捌いて売りだそうとしている様に見えたのでな。汝が掛けた毒で弱った獲物の肉を脆弱な人間が喰らって大丈夫か、と思ってな』


 げ!? それってやばくないか?

 一夜にして村が俺達の所為で壊滅とか洒落にならないぞ。


『そう思って掠め取るか提案したが……おお、この村の薬屋が出て来て肉に毒物が混じっておるのに気付いて注意している様だぞ。あの娘も出て来ている』


 アルリーフさんが? さりげなく声を掛けに行くかなー。

 どうしようか。

 ……声を掛けに行ったら疑われそうだ。

 俺は毒の沼地や瘴気とやらがある場所で平然としていた男だぞ?

 強力な魔物が毒を受けて弱っていた、なんて話をしている場所に俺が現れたら怪し過ぎる。

 知らずに熟睡していたとかにした方が良さそうだ。被害は未然に防がれた訳だし。


『我等は何だかんだ言って狙われる身、親切にしてくれた娘であれど、我等の事情に巻き込むのは迷惑であろう。汝が理解している様で何よりだ』


 あんまり実感が湧かないけどそうなんだよな。

 まあ、今は少しでも生き抜く強さを得るために色々と……がんばって行かなきゃ。

 その為には明日の活力だ。

 そんな訳で俺は冒険者から経験値を掠め取り、寝なおしたのだった。


 翌朝、適度な睡眠を取れて、俺はすこぶる調子が良い。

 ……昨日毒を沢山浴びたからではないと思いたい。

 そうして宿で出された朝食……朝から硬い肉とクズ野菜っぽいスープとは……。

 しょうがないのかもしれないけど、もう少し食事のランクを上げる事は出来ないだろうか?


「今日もうちで泊まるかい?」

「えっと、今日もよろしくお願いします」

「はいよ」


 と言う訳で連泊をする為に金銭をおかみさんに渡しておく。

 安くて助かるけど、いつまで滞在出来る事やら


「あ、最近、村では風邪が流行ってるからコーグレイも気を付けるんだよ」

「ええ、承知しました」


 風邪かー……移されたら嫌だな。十分注意しておこう。


『予防薬位なら我が作るぞ? そもそも汝が風邪を引くのか実に興味がある』


 俺をモルモットみたいに言いやがって!

 まあいい……本日の予定はダンジョンに行って転職とやらをする事だ。

 俺も学生時代はそこそこゲームをやった経験があるし、テーブルトークRPGやオンラインゲームだってプレイしていた。なので上位職に転職すると言うのはそれだけでこの先の活動の幅が開く事になると考えている。


『ふむ……異世界とはそのような遊戯があるのだな。テーブルトーク……ふむ、事が解決したら我も参考に作って遊ぶのも悪くは無い』


 なんか俺の知識を覗き見ているのかヴェノが呟いている。

 いい加減俺の記憶とかを覗くのはやめてもらいたいもんだ。


『暇なのだ』


 はいはい。


『ああ、そう言えば昨日討伐したミッドナイトブルーウルフの毛皮の処理が大分出来たぞ。後はしっかりとなめす事で売り物に出来るだろう。袋代わりにして汝が使うのも良い』


 何か色々といつの間にかやっている。

 暇だからって妙に手先の器用な真似をしてないか?


『退屈の解消法を知らねばドラゴンなどやってられんよ』


 何か勝ち誇った様な態度で言われてしまった。

 別に良いけどさ。

 しかし……ヴェノはミッドナイトブルーウルフの肉を食っていたんだよな?

 口恋しいから皮を舐めていたんじゃないか?


『だから汝は我を侮る様な思考をするのをやめんか!』


 どうやら図星の様だ。涎塗れのミッドナイトブルーウルフの毛皮って大丈夫なのか?


『汝……もしや毛皮の加工方法を知らんのか? いや、汝の知識から推測すると皮を剥げば即座に毛皮になると思っている様だな』


 え、違うのか?

 まあ俺の人生に毛皮を加工する、なんてイベントはゲームの中くらいだったから間違っている可能性はかなり高いんだけど。


『違うに決まっているであろう。まずは毛皮を剥いでからしっかりと洗う。毒は殺菌効果もあるから沼地の水とマルフィーナを絞って得た液体を使用した。そうしてから残された肉を我が舐め取り脱水処理をする』


 何かヴェノが毛皮を口に含んでチューっと水気を吸ったイメージだ。


『で、程々に水気を取ったら沼地の毒の一種と見つけた岩塩を砕いて毛皮の裏地に塗った。後はしばらく馴染ませる。ここまでやってやっと一区切りなのだ。まだまだ工程があるが現在はここまでしたぞ』


 微妙に専門的な説明をされた様な気がするけど、毛皮作りって大変なんだな。

 全自動でヴェノがやってくれたけど、中々に面倒そうだ。


『その辺りの道具や薬物を後で調達すればより精度を上げる事が出来る。後々覚えて損では無いぞ?』


 そんな事言われてもなぁ。

 と言うか工程を確認すると装備した途端、毒状態になりそうな毒毛皮じゃないのか?


『まだ大丈夫だ。後で井戸水でも収納しておくだけでどうにかなる』


 本当か?

 とは思いつつ、妙にテキパキとしたヴェノの毛皮の処理話は参考にはなった。

 そんなこんなで朝の内に村の役場前に行くと冒険者っぽい連中がチラホラと集まっている。

 やっぱり依頼内容の更新がされるのは朝なんだな。


 さて、俺が出来そうで教会とかを間に挟まずに稼げそうな依頼は無いかな?

 条件としては毒の沼地方面に行くついでに達成出来る物が良いんだが……。

 アルリーフさんも依頼を受けているんだろうか?

 また遭遇したら荷物持ちとして手伝いしたいね。

 なんて考えつつ……アルリーフさんを探したが居なかった。

 まあ良いや……きっと何処かで会えるだろう。


 そんな訳でヴェノの話では毒の沼地で生えている毒草の調達依頼をする事にした。

 薬草ではなく毒草なのが何か悲しい。

 ゲームの序盤に発生する採取依頼と言えば薬草だからな。

 しかも採取知識があれば割とすぐに終わる仕事だ。今回は買い取り量が固定のようだし……。


『我の収納限界はまだまだ余裕があるぞ? ついでに色々と採取しておけばこの先多少は楽が出来るのではないか?』


 まあ、腐ったり劣化する前に何かに利用できるならやって損は無い。

 今日の目的は転職な訳だし……この辺りの地形把握とこの世界の常識、その他いろいろを学ぶ段階だ。

 目的が定まったから、昨日と同じく毒の沼地目指して歩きだしたのだった。



 道中は昨日よりも楽に進む事が出来た。

 既に三度経験している訳だし、大分馴れた道になったのも大きい。

 一応、時々魔物と遭遇するけど蔓とカとカブトムシだから相手にならない。

 地味にLvが上がった影響なのか剣が更に軽く感じて、魔物も弱く感じる。

 これも経験と言う事なのかもしれない。


 さっそく毒の沼地に到着、ミッドナイトブルーウルフは……いないな?

 いたらまた沼戦法で逃げ伸びて見せる。

 しかも前回よりも強力になった俺の毒が火を噴くぜ。


 ただ、まあ……毒吸収のお陰なんだけど、沼地が俺にはかけ流しの温泉に見えて来てしょうがない。

 今日も帰るついでに一風呂入ってから戻っても良いかも。

 凄く世界を舐め切った行動である自覚はあるけど、悪い手じゃないはずだ。


『確かに……何だかんだ沼の毒素を補充できるので悪い手では無いな』


 なんて様子で適度に見つけた品々を採取しながら、アルリーフさんと昨日潜ったダンジョンに俺は戻ってきた。

 何だかんだ言って湿っぽい陰気な場所に見える。

 そんな訳で石造りの朽ちた祭壇っぽい所を確認する。

 ん? シンボルと言うか石像が砕かれているけどドラゴンっぽい様な気がするのは気の所為か?


『どうなのかは我もわからんな』


 こう言うのって聖母像とかシンボルじゃないんだな?


『そう言った品を設置していたりもする。それは教会の宗派によって様々だな』


 ちなみにヴェノを狙って来た連中の宗派は?


『アレは聖世界樹教と言ったか……元々エルフ共が信仰していた大樹を信仰対象にした物であるぞ。それと聖オーヴァール教会の合同部隊だ。あの国は二つの宗教が共存しておってな』


 聖世界樹教ね。

 へー……この世界って世界樹もあるのか。なんかロマンを感じる。


『ふ……世界樹等、エルフに搾取される哀れな植物でしか無いぞ?』


 何かヴェノが嘲笑った様に聞こえるのは気の所為か?


『気の所為ではないぞ。エルフと言う生き物は傲慢を絵に描いた種族でな。自らが森の恵みを独占する為に他種族を排斥してきた種族なのだ』


 俺も古典小説からのイメージだけど、確かにそう言った側面がある。

 しかも翻訳がエルフと言っているだけで地球の創作物に登場するエルフとは違う種族なんだしな。

 この世界のエルフってそんな種族なのか。


『うむ。森との共存を歌いながら、高度な魔法学で世界樹の恵みを独占し、挙げ句、世界樹が寿命を迎え次世代に移ろうとしている時に苗木から力を奪った。結果、世界樹は枯れ、住み処を失ったと知るや他種族に責任を擦り付けて、争ったという経緯がある。誠に愚かな種よ』


 なんだかな。

 よくそんな宗教が生き残っているな。


『極一部の者が辛うじて生き残った苗木を大切に育てたお陰で立て直す事が出来た。その者達は人間とも共存し、宗教として大々的に広まって生き残れたに過ぎん』


 ああ、まともだった連中が建てなおして現在に至ると。

 世の中クズばかりじゃなくてよかったじゃないか。


『……そのまま滅べば良かったのだ』


 命を狙ってくる連中だからかヴェノも敵意を隠さないか。

 普通に俺の命も狙って来ている訳だし、良い奴等って事でもないんだろう。

 そこは色々とあるのかもしれない。


『どちらでも良いではないか。今はこのシンボルを利用させてもらうだけなのだから』


 まあ、そうだな。

 確かに敵の生い立ちなんてどうでもいいか。

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