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十一話

 買い出しを終えた後、ぶらぶらと閑散とした村を出歩いていたら毒凝縮が終わった。

 明日、出かけたついでで試せば良いのかもしれないけど、試し切りとばかりに実験をしたい欲求にかられる。


『どちらでも正解であるぞ? 時間の無駄とも言えるし、自身の出来る事の把握でもあるのでな』


 うーん、どっちが良いのかね。

 今日やらなかったら明日やるだろうし、そんなに差は無いんじゃないか、とは思う。

 だが、なんとなく気になるんだよな。

 毒にも種類があるみたいだし……そういえば瘴気とかいう単語を聞いたな。

 瘴気と毒素って違いがあるんだろうか?


『瘴気は脆弱な人間だと耐えられない空気だ。毒素は毒であるな。ちなみに瘴気から生じた魔物にも毒は通じるぞ?』


 聞いた感じでは違いがわからないが、毒のスペシャリストである毒ドラゴンがそう言っているんだから、そうなんだろう。

 つまり俺は毒を使えても、瘴気は使えないのかもしれない。


『今後どうなるかはわからぬが、現状はそうであろうな』


 じゃあ、とりあえず確認に徒歩で行ける範囲で魔物を探してみるか。

 危険人物とかが居ても走って村に帰れば逃げ切れる範囲で探せばどうにかなるだろう。

 何だかんだ言ってヴェノの感知範囲は広いし。

 モスキートに刺されたのは俺の不注意って事だし。


『我に任せろ』


 そんな訳で、村近隣で魔物が居そうな所……アルリーフさんが迂回をした辺りの道を少しばかり入る。

 魔物の出て来る獣道ってのがあるらしいけど……なんて思っていると、道の途中で人が作った道とは異なる……足跡が踏み固められて作られたデコボコな道が横切って存在していた。

 おそらく、これが獣道なんだろう。

 凶悪な魔物と戦いたければこの道を進めば遭遇できる。

 確認のために左右を見てみる。


『む?』


 ピコっとヴェノが魔物を感知した。


 ウルトラマリンブルービッグマウス


 物凄く青い色をしたカピバラくらいあるネズミと鉢合わせした。

 既に狼と戦った経験がある所為か、若干心に余裕がある。

 見た目がネズミだというのも理由だろうか。


「ヂュ!」


 何か敵意ある感じで俺に向かって威嚇して近づいて来る。

 しかし、あんな小さな魔物が襲ってくるのか。

 魔物って目に付いた生き物を全て殺そうとする性質でもあるんだろうか?

 これが危険な魔物かな?


『悪いが汝が倒したミッドナイトブルーウルフよりも遥かに格下の魔物だ。あの娘が凶悪な魔物と言った相手では無いであろう。おそらく、警戒すべき魔物とも足跡が異なる』


 ヴェノが指定する足跡が強調表示される。

 一見すると鹿みたいな足跡みたいだ。

 昔、動物園で見た足跡に似ている。

 で、俺達の前にいるのはネズミ。

 まあ、毒の試し撃ちをするには丁度良い相手か。


『群れで来られると我も煩わしいと思ったりする事があるがな。ふふ……下等な人間も同じ様な物だ』


 こう……ヴェノって時々人間を蔑むよな。

 ドラゴンである自分を上位存在だと本気で思っているんだろう。


「ヂュー!」


 軽快なフットワークで接近してくるウルトラマリンブルービッグマウスに、接近されきる前に実験をしようと毒放出で濃縮させた沼地の毒素を濃縮した物を指定。

 俺の手の先から拳大の毒玉が放たれる。

 念の為に三連射! 一射目は拳大、二射目三射目は出せる量の限界を指定。


「ヂュウウウ!?」


 一射目を避けられ、油断したのだろう。二射目三射目が命中した。

 おお、二射目でそこそこスイカ大位の大きさで放てたぞ。

 弾速はそこまで出なかったけど、大きさが大きさだったからウルトラマリンブルービッグマウスは盛大に濃縮された沼地の毒素を浴びた。

 ビチャっと大きな毒の水たまりが出来上がる。


「ヂュ……ヂュー!」


 毒を被ったウルトラマリンブルービッグマウスはブルブルと全身を振るっている。

 それから怒りに似た叫びを上げて再度突っ込んで来た。

 まだまだ元気が有り余っている感じだな。

 思ったよりも効果は薄いか……。


『即効性はあると思うが、決定打にはなりきれておらんな』


 僅かに動きが鈍い様な気もするけど、即座に倒せる程じゃないってのがなんとも歯がゆい。

 スプレイグリーンモスキートみたいに絶命はしないか。

 多分、毒にはなっているんだろう。

 こう、ゴキブリに殺虫剤を噴射した時みたいに、必死に逃げ惑ってくれるとわかりやすいんだけどな。

 判断し辛いけど、ウルトラマリンブルービッグマウスの顔が紫色っぽく見えなくもない。


「ヂュー! ヂュ……ヂュ……ゼェ……ゼェ」


 このまま時間を経過させたら毒で死ぬかもしれないけど、絶命するまで時間が掛かるな。

 剣を抜いてしっかりと動きを見てからすり抜けざまに叩きつけるように切った。


「ヂュ――!?」


 スパッと良い手ごたえと共にウルトラマリンブルービッグマウスはアッサリと切り捨てる事が出来た。

 何か手に嫌な感覚が残る。

 ウルフの時も似た様に生き物を殺めた訳だけどさ……異世界に来て新たな体験が山盛りだ。


「さてと……」


 せめてもの情けではないけど、死骸は無駄にしない様に収納魔法で収納する。

 盛大に毒を浴びた死骸にどんな用途があるのかは不明だが、最悪ヴェノが食ってくれるだろう。

 それから危険な魔物に遭遇しない様に足早に獣道から離れる。

 割とその直後辺りだろうか、獣道の方を振り返ると……危険な魔物とやらがなんであるかわかった。


『ふむ……確かに、今の汝では荷が重い魔物であるな』


 ローズグレイソードホーン


 と言う名の剣のように鋭い角を持った……大きな鹿の様な魔物だった。

 山の主とか言いたくなる様な大きさをしている。

 大きな角を無視しても全長3メートルはあるシカ型の魔物だぞ。足も速そう……。

 あの剣みたいに鋭そうな角で突進されたら一瞬で殺されるだろうな。


『ちなみに今日得た情報から目算すると……汝が勝利するには最低Lv30は必要だ。ミッドナイトブルーウルフ共ではかなりの犠牲を出さねば敵わんだろう』


 あの狼が群れで襲い掛かっても厳しいのか。

 だとすると相当強いんだろう。


『しかもアレ一匹だけでは無い。何頭も経路にいるぞ。仮に汝が強くても、手を焼く事になる』


 うへ……あんなのが当然のように生息してる世界なのか。

 で、ヴェノが万全の状態で戦ったらアレはどの程度の強さ?


『我を冒涜しているのか? 一撃で仕留められるに決まっているであろう。本気になるまでも無い』


 真偽のほどは未知数だけどこんな魔法を掛けられてまともに動けない状態になっているのだから確かなんだろう。

 しかし……あんな魔物を狩る時が来るのだろうか?


『あの角や素材を目的に狩る者はきっと居るであろうな』


 素材は多少高値で取引されるのかもしれない。

 とはいえ、そんな無謀な真似をする気は無い。

 幸いあちらは俺達を認識しておらず通り道を歩いているだけだ。

 明らかに格上だし、無理に戦うべきじゃないと思う。

 まあ、この世界にはLvという概念がある訳だし、堅実に上げていけばその内倒せる様になるだろうさ。


『賢明な判断だ』


 そんな感じで俺はその場を後にした。

 こうして村に戻った俺は陽も完全に暮れていたので宿屋に戻って就寝したのだった。



 荒廃した大地を前に人々がクワや各々農業などで使う道具や、薬、魔法等を駆使して大地を清めようとしている光景が俺の目に映しだされて行く。

 そんな中で俺の目の前に若干眩しい光を宿した男……だと思う人物が笑顔で語りかけて来る。

 妙に目立つ剣を背負っている。


「俺達の夢は、この地を住みやすい場所……国を作るのが夢なんだ」

「そうか……立派な夢であるな」

「今まで虐げられ、住み処を追われた罪も無い人達が、人の住めない土地を開拓し、人の住める場所に変える。そのテストケースになる事で世界中の人々が奪い合うなんて馬鹿な真似をせずに生きて行く時代になって行く」


 何か壮大な夢を追っている。

 そう……俺には聞こえたが、それを実行できるだけの決意と仲間がいるように見える。


「俺はそんな時代を作って、皆を幸せにして生きたい。お前には……そんな愚かな夢をお前の縄張りで始めた愚か者を見て、何時までも覚えていて、気が向いた時に人々に語って欲しいんだ」

「なんとも……そこまで愚かな事を堂々と言えるものだ。しかし、愚者は時に世界すらも塗り替える偉業を成し遂げると言う。存分にやって見るが良い。だが、馬鹿げた事を言ったのだ。途中で投げ出す等と言う愚かな事をするのではないぞ」


 そんな……綺麗な夕日が印象的な……。



 突然バチッと何か全身に変な力が入って目が覚める。


『む? 汝、どうかしたか?』


 いや、何か体に変に力が入って足が攣ったみたいな痛みが……。

 異世界に来てから激しい運動をした所為かも知れない。

 筋肉痛とか嫌だと思いつつ起き上がって確認する。

 ヴェノは寝ないのか?


『人間とは生活周期が異なるのでな、何だかんだ言って我もまだこの生活に馴染んでおらんと言う事だろう』


 ドラゴンの活動時間がどうなのかは判断しかねるが、体もまともに動かせずに留まっていると言うのは中々に厳しいのではないだろうか?


『そこまでではないぞ? 汝の記憶を覗く事も出来るし、体が動かさないと言う事は消費も少ないと言う事だ。食料は汝が狩って得た肉があるので飢えるほどでもない。心配は無用だ』


 そうか?

 まあ指摘したい所はあるけど、本人がそう言っているんだから気にしない方向で行こう。


『それで汝……これを見るが良い』


 言われてヴェノが強調表示させる物を確認する。

 今回は俺のステータスだ。


 小暮幸久 ポイズンアース Lv14

 所持スキル 憑依リンク 毒吸収 毒放出 毒凝縮 転職可能 毒物目利き

 

 なんだ?

 いきなりLvが14まで上がっているぞ!?


『我も汝が飛び起きた時に確認して気付いた。一体何が起こったのか考えるべきだ。外の馬鹿騒ぎもいい加減気になっていた所だしな』


 確かにそうだ。

 しかし……本当休む暇なく事態が動き始めるなぁ。

 若干ウンザリとして来ているけど、命を狙われているんだから嫌がっても始まらない。

 外の馬鹿騒ぎねー……酒場が近いし、こんな物なのか?


 んー……出張でビジネスホテルに泊まった時に大騒ぎしている馬鹿の所為で寝付けなかった事を思い出してしまった。

 それに比べれば……まだマシか? 今にして思えばあの会社、ブラックも良い所だ。

 安いからって騒音が激しい所を斡旋しやがって。

 とりあえずありそうな事を考えてみよう。


 1、強制憑依召喚の影響。ヴェノの力が日に日に流れ込む様な魔法だった。


『ありえない話では無い。だが、それにしては突然であるな』


 確かに、根拠にするには同様に待機をしなくちゃ測定できない。

 仮定するだけで保留しておくべき案だ。


『2、昼間狩った魔物から得た魔素……経験値が汝と我とで別々に入り、時間差で我に届くはずだった物が汝に宿ったと言うのはどうだ?』


 まあ、ゲーム風で言うなら俺とヴェノはパーティーを組んで行動している様な物なのかもしれない。

 だけどヴェノは強制憑依召喚で俺に憑依した状態だ。

 そんな状態のヴェノに経験値が入ろうとして入りきらず、時間を掛けて俺に来てしまった、なんて展開もあり得る。


 ただ、俺が戦った魔物はどれもそこまで経験値が多い様には見えなかった。

 確かに冒険を始めたばかりの者には荷が重すぎる相手ばかりな気がするが、それでもここまでいきなり入る物なのか?

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