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十話

 なんて休んでいると腹が鳴った。

 思えば異世界に来てからまともに飯を食っていない。沼地に出発する時も腹が鳴っていたっけ。


『なんだ? 腹が減ったのか? なら娘と一緒に採取した際に見つけたキノコでも食うか? 実は少しばかり手元に残してあるぞ?』


 いや、なんでキノコを食わなきゃいけないんだよ。

 と言うか全部アルリーフさんに渡したんじゃないのかよ。


『当然であろうが。所謂手数料と言う奴だな。まあ、あの娘からすると軽く掠め取っていても余りある量を持ってもらったと思っておる。返しに行っても断られる程度しか着服しておらんし』


 ああもう……で、なんでキノコなんだよ。


『汝の毒吸収を使えば毒キノコであろうとも平然と食えそうだと思ってな。毒素を抜く事を前提とした栄養豊富なキノコが手元にあるのだ』


 いやいや、なんでワザワザ人里にいるのにキノコを生で食う前提なんだよ。

 金に余裕があるなら何処かで飯を食えば良いじゃないか。

 それこそ酒場とかでさ。


『情報収集は大事であるな。警戒は強めで行くのだぞ! さあ! 色々と見て調べて聞くのだ!』


 はいはい。

 そんな訳で少しばかりの休憩をした後、部屋を出て鍵を掛けて外食へと出かける。


「ちょっと出かけてきます」

「あいよ。あ、食事に行くのかい?」

「はい。情報収集も兼ねて」

「ならお向かいの酒場がお勧めだね。少し日が高いけど、暇してる連中が騒いでるよ」

「ありがとうございます」


 おかみさんに鍵を預けて宿から出る。


『む? 汝、アレは何だと思う?』


 宿屋から出ていきなり武器屋っぽい店をヴェノが矢印で強調表示している。

 良いから落ちつけっての! 暇だから出かけたいってだけなんじゃないか?


 紹介された酒場へと入る。

 うーん……雰囲気的には西部劇とかで出てきそうな酒場って感じだ。

 壁には賞金首の張り紙とか貼られている。

 やはりバウンティハンターとかいるんだろうなぁ。


 じろじろと見過ぎているのもどうかと思うので壁に掛けられたメニューに目を通す。

 異世界のメニューなんでどんな料理なのか文字で読めてもよくわからない物が多いなぁ。

 あ、日替わりメニューもあるみたいだ。

 これが楽か。


「いらっしゃいませ」

「日替わりを一つ」


 近くに来た店員に手を上げて自己主張して手招きして注文する。


「はーい」


 店員は愛想よく頷くと割と手早く厨房の方から食事と酒を持って来てドンと俺が座った席に置いて行く。

 日本よりも若干適当な印象があるなぁ。

 この辺りはやはり文化の違いか。

 異世界の酒……見た感じビールじゃなくエールっぽい物をとりあえず飲んでみる。

 んーなんとなく甘い風味があるけど……不味いな。


『安酒などこんな物だろう。そんなに良い酒が飲みたければ我の手持ちを少しばかり分けてやっても良いぞ』


 ドラゴンって物語とかだと酒豪だったりするけどヴェノも酒飲みなのか?


『我は嗜む程度であるな。どちらかと言うと甘い物の方が好みだ』


 甘党なのか。

 で、出された日替わりメニューは……分厚い硬そうな肉と付け合わせの煮野菜か。

 フォークで刺して食べてみる。

 うへ……思った通り硬い。

 日本の味付けを知っている分、口に合わないとは言わないが不味い。

 煮野菜も柔らかくはあるけど味はそこまで良くないか。


『汝の居た国は随分と良い食事をしているのだな』


 まあ、現代日本は何だかんだ言って食事に関しては良い国だって聞いた事があるし、しょうがないのかもしれない。

 まだ異世界での日々も始まったばかりだし、何か気に入ったメニューとかあるかもしれない。

 そう思いながら適度に肉を食って店員を手招きする。


「なんかデザートを一品頼める? そんな高いのじゃなくて良いから」

「わかりましたー」


 店員がテンポよく厨房の方へ行って、果物の盛り合わせみたいな物を持ってきた。

 確かにデザートだね。

 さすがにアイスとかは出て来ないか。


『お? ミルクを冷やして泡立たせて砂糖を入れたものか、我も食べたい』


 無い物ねだりをするなって。

 そんな訳で注文した物を食べてから果物を頬張り、適度なタイミングでヴェノに収納させて提供する。

 酒場内は冒険者っぽい奴がチラホラと酒盛りをしている様だ。

 声を掛ける機会が無さそうだし、変に印象を持たれたら危ないから今回は観察だけで済ませるか。

 なんて感じで適度に食事をして腹を満たした。


「ごちそうさん」


 っと、店を出て行く冒険者っぽい奴の真似をして料金をテーブルに置いて店を後にする。

 ふう……どうにか空腹は満たせたな。

 ただ、なんて言うか今まであんまり腹が減った感じがしなかったのはなぜだろうか?


 1……デスマーチの所為で疲労が限界突破していた所為で空腹を感じなかった。

 2……代理対戦の影響でヴェノの腹減り具合に合わせられている。


『3……毒吸収(弱)の影響で毒の沼地で空腹まで解消していた』


 勝手に脳内の選択肢を増やすな!


『我の責任にされてはたまったものではないからな』


 はいはい。

 なんて言うか……ドラゴンってもう少し荘厳が印象の生き物だと思ったけど、やりたい事をして、時々チャチャを入れるヴェノの態度を見ると好奇心旺盛な子供みたいだと思ってしまう。


『我を馬鹿にするのか!? 我は子供では無いぞ!』


 ああもう……ならもう少し落ちつけっての。


『しょうがないであろう。人の世など滅多に見る物では無いのだからな。我の知識欲求が自重してくれないのだ』


 しかも責任転嫁になって居ない言い訳までする始末。


『ふふ、我の好奇心を侮るなよ?』


 そんな誇れる様な物なのか?

 若干呆れつつ……何気なく空を眺める

 ……夕陽が眩しいぜ。

 さて、部屋に戻っても歯磨きして寝る位しかやる事が無いので適当に閑散とした村の散策でもするか。

 アルリーフさんにまた会えるかもしれないし。

 と言うか洗面用具が欲しいな。ヴェノは知ってるか?


『歯ブラシはあるぞ? 先ほどの店で売っているはずだ』


 ああ、そう。なら買っておいて損は無いか。

 買い出しも兼ねて移動をする。

 そのついでに依頼の途中で上がったLvを確認するか。


 小暮幸久 ポイズンアース Lv5

 所持スキル 憑依リンク 毒吸収 毒放出 毒凝縮


 ……毒吸収(弱)から毒吸収に変わっている。(弱)は何処へ消えたんだ?

 まあ別に良いんだけどさ。

 Lvも5まで上がっているし、成長の証しだろう。


『初期のアースはLv10になると転職出来るようになるとの話だぞ』


 となるとまずは10を目指してみるのが妥当か。

 ちなみにドラゴンは?


『魔物枠である我は根本的に異なるぞ。最初期はドラゴンベビー・ドラゴンパピーと段階を追う。成長に等しいから人間共のように転職を介さないな。やがて似た様に転職……変異と言うべきか。好みの派生をしたりするがな』


 へー……地球の生物よりも進化速度が早そうだな。


『それよりも新たに出た毒凝縮を調べんのか? 何が出来るのか把握するのは重要であるぞ』


 そうだな。ヴェノはわかるか?


『同名の能力を我も所持しているぞ。体内で生成した毒を濃縮するスキルだったはずだ』


 おー……さすがは毒ドラゴン。

 意識して発動させてみる。


 沼地の毒素

 瘴気の毒素

 マルフィーナの毒素


 スプレイグリーンモスキートの毒素は量が足りないのか暗転していて指定できない。

 他に毒キノコの胞子とか毒素が幾つか項目に上がっているが足りないっぽい。

 とりあえず指定してみるか。

 沼地の毒素を指示。


 どれくらい濃縮する?


 なんて文字とバーが浮かんでくる。

 パーセントで割合を調整できるみたいだ。

 とりあえず出来る限界を指定してみる。何かガクッと力が抜ける感じがする。


 ステータスを見ると魔力という項目が減少している。

 使用するのに魔力とやらを消費するようだ。

 二倍濃縮までパーセントを上げてから決定。

 すると指定した部分に砂時計のアイコンが出現した。


『濃縮に時間が掛かるのだ。余裕がある時にしておくと良いぞ』


 事前準備が必要って奴か。

 ただ、必要時間は沼地の毒素だとそこまで掛からないっぽいな。

 一時間程度だ。

 じゃあ今の内に買い物を済ませて……実験はどうするか。


『何事も試し打ちは重要であるな』


 ……問題は毒の強さと効く相手だ。

 毒の沼地周辺の魔物って毒耐性高そうだし……アルリーフさんが途中でガスマスクを外して歩いていたのでこの辺りまで来ると毒の沼の空気が来ないのではないだろうか?

 となると村周辺の魔物は毒耐性は低めかもしれない。


 道具屋兼薬屋で歯ブラシ等の洗面道具を購入。

 アルリーフさんの父親には必要な物があったから買いに来たと誤魔化した。

 残念ながらアルリーフさんは居なかったぜ。

 質に関しては日本基準で判断してはいけないな。無いよりマシ程度の代物だ。

 そんな感じで生活必需品なんかを購入。

 髭剃り用のナイフとかも売っていたけど、使うのが怖いな。


『顔を切るのが怖いのならば桶に毒放出で毒を出して失敗したら塗れば良いのではないか? すぐに傷が塞がると思うぞ?』


 ヴェノの指摘に何か悲しくなってくる。

 毒を顔に塗って傷が治ると思われるのは何か嫌だ。

 とは思うけど利用しない手は無いか……。

 自分で出した毒では回復しないとかなら沼地に行って髭をそれば良い。

 ……剃ったその場で回復して延びたら嫌だな。

 その辺りの基準はどうなんだろうか?


『面白い見解だな。回復魔法にも該当する、どこまでが治療範囲なのかの探究だな』


 ヴェノは知ってそうだけど、どうなんだろうか?

 ドラゴンの場合、髭剃りってあるのか?

 あれか、蛇みたいに脱皮……この場合鱗を交換したりしそうだ。

 例えば好みの異性に自らの格好を良く見せる為に顔に生えた鱗とかを剥いだりして良く見せる、みたいなドラゴン独自の生態系みたいな。


『鱗と髭を一緒にされては困るぞ。そりゃあ光沢とか形とか艶で判断はされるが、剥ぐのはさすがに無い。そうではなく、回復魔法等で治る範囲の話であろう?』


 ああ、そうだ。

 皮膚や毛の回復範囲がどの程度の物なのか知っておきたい。


『この辺りは研究が頻繁にされておるのだが、しっかりとした結果は出されていない事が多い。ただ、神経が無い部分の回復魔法は術者と掛けられた者との思考に差異があっても掛けられた側が納得する形で集束するとの話だ』


 つまり何かしらの不手際で毛を剃ってしまった場合、回復魔法でどうにかなると?


『既に毛が生えない様になってしまった所に生やすのは出来ずとも、間違って剃ってしまった箇所は生やせるそうだ』


 へー……じゃあ生えて欲しくないと思った所は回復されても生えないって事なんだな。


『一応はな。自身の体をしっかりとイメージしておかないと生えるとの結果もある。故に確かではない』


 なんとも曖昧だなぁ。

 まあ魔法という現象自体が不確かな気もするし、しょうがないのかもしれない。

 とりあえず、髭剃りは相談をしながら購入。

 髭剃りが使いやすく販売している日本のありがたみがこんな所でも感じさせる。

 ああ……後はトイレ……うん、ノーコメント。

 何にしても馴れていかなきゃいけないんだろう。

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