第十五話:逃走
すいませんっ!!
えっと…先週の金曜日と土曜日に学校祭があったもので、その準備やらで更新が遅れました。
言い訳は聞きたくないと思いますので、前書きはこのぐらいで……
それでは、期待を電子レンジでチンした人は、本文へどうぞ。
6月と言えば初夏。
ましてや今日は、まさに“球技大会日和”ってな感じの快晴だ。暑いったらありゃしない。
俺は今、体育館の外の通路に座り込んで、否、寝転がっている。
ここは木陰になっていて、木から、水蒸気やら酸素やらマイナスイオンやらが出ているはずなのだから結構涼しい。
「これから第三試合、3年5組と1年2組の試合を始めます! 礼っ!!」
涼んでいると、体育館の中から“おねがいしゃーっす!!”と、元気な声が聞こえてきた。
3年と1年が対戦だなんて酷だな、なんて思っていると、
「……冷たっ!?」
気持ちよく目を瞑って寝ていた俺の額に、何か冷たいものが当たって、勢いよく跳ね起きてしまった。
周りを見てみると、俺の左側にアリスが、ニシシ、と笑いながら座っていた。
「試合カッコよかったでエイタ! はい、コレあげるワ」
パンパンパンッ、と学校指定ジャージの短パンを掃って立ち上がると、スポーツ飲料のアクエリオスの缶を差し出しながら言った。
「おっ、おう! サンキュー」
俺は受け取ると、プルタブを開けて飲んだ。
プハーッ、と喉の渇いていた俺は結局半分ぐらい飲んでから飲み口から口を離した。
気づいていたのだが、俺が飲んでいる最中ずっとアリスは俺のことを笑顔で見つめていた。
「な、なんだよ?」
プハーッ、なんてちょっとオヤジ臭い声を聞かれてしまったことに恥ずかしくなった俺は、雲一つない空に視線を外しながら言った。
「だって本当にカッコよかったんやもん、エイタ! ほぼエイタの力で勝ったようなもんやん!!」
褒められてさらに恥ずかしくなった俺は、自分ではわからないけど、たぶん顔を真っ赤にしていると思う。
アリスの言ったように俺達2年5組はなんと試合に勝ったのだ。最終的な得点は……
26:23
3点差での勝利だ。
結局俺は後半、得点14アシスト2、と結構な活躍をしたと、自分でも思う。じ、自慢じゃないよ!?
195センチのブロックをダブルクラッチでかわしたり、連続レッグスルーからの速攻3ポイントシュートを決めたり、シュートフェイントパスでフリーだったギンジにパスしたりだとか、バスケ部顔負けのプレーをした。
試合終了後、ギンジからバスケ部勧誘を受けたのだが、いまさら部活に入るという気が起きなかったし、スポーツマンってガラでもないから断った。
ずっと立ってるのもナンだったから、今は左にアリス右に俺という位置で並んで座っている。なんとなく2人とも黙って座っていた。
しかしさっきからずっと、アリスがさりげなく俺に近づいてこようとするので俺もさりげなく離れる、を繰り返して合計1メートルぐらい右に移動したと思う。
急にアリスが近づいてくるのを止めた。
どうしたんだろう、と不思議に思って左を向こうとしたのだが、アリスのことだから笑顔で俺のこと見つめてるんだろうな、と頭によぎって思いとどまった。
すると不意に、チュッ、と俺の左頬に何か濡れたような物が当たった。
驚いた俺は、たぶんフニャけた顔でアリスのほうに顔を向けた。
そこにはすでに立って、顔を少し赤らめたアリスがいた。
「私先生に呼ばれてるんやった。だからじゃーね! 残りの試合もがんばるんやでっ!!!」
そう言い残して走り去ってしまった。
俺はしばらく考えて、アレがKだったことに気づき、顔から火が出るかと思った。
「が、がんばるぜ〜!!!!!!!」
もう誰も見当たらないアリスの走り去った方向に俺は叫んだ。
実に単純な男、鈴木栄太なのであった。
それから30分後、俺は幸の応援をすべく、第二体育館へ向かった。
第一体育館が校舎の東側にあるのに対し、第二体育館は西側にあるので、結構な距離を歩いた。
俺が体育館についたころにはもう第四試合、幸の試合が始まっていた。
邪魔にならないように急いでギャラリーに上がると、そこにはギンジがいた。
「おそいぞ〜、エータ!」
「ゴメンゴメン。で、どう? 試合のほうは??」
俺の質問にギンジは顎で、クイッ、と示すだけで答えた。
示した先には得点板があり、そこには9:3と表示があった。
一瞬目を疑ったが、その疑いを晴らすように幸がズドーンと強烈なスパイクを決めた。10:3になった。
その幸が俺達(俺?)に向かってVサインをして笑っている。
俺はそれに軽く手を振って答えた。そしてギンジに向き直ると苦笑交じりに言った。
「こりゃ、応援いらないぐらいだな」
「そーでもないさ。さっきのスパイクは今までのよりずっと強烈だった。たぶんエータが応援に来たからじゃないか?」
そんなわけあるかよ、と思い視線をコートに戻した。
するといつの間にやら13…いや、今幸がサービスエースを決めて14:3になっていた。
球技大会でのバレー競技は、15点マッチの2セット先取で行われている。
よって、2年5組バレーチームは1セット目のセットポイントをむかえている。
ピーッ、っという主審の笛が鳴り響き、一呼吸おいて幸がサーブを打った。
結構なスピードのあるそのボールは無回転で不規則な動きをしながら落ちていった。
そのボールを相手チームがレシーブしようとしたのだが、あらぬ方向に弾かれて飛んでいってしまった。
これで15:3。2年5組の圧勝である。
2セット目も15:5で圧勝だった。
幸がコートを縦横無尽に駆け回り、強烈なスパイクを決めていた。
俺とギンジはその様子を、半ば飽きれ笑顔で見守っていた。
試合終了直後、ドタドタ、とギャラリーに上ってくる音が聞こえた。その主は幸だった。
上り終えた幸は、きょろきょろ、と辺りを見渡して俺を見つけると笑顔で走ってきた、ものすごい勢いで。
突撃されるかと思ったが俺から1メートルぐらい離れた場所で、キキーィ、とでもいう効果音が聞こえてきそうな感じに止まった幸が言った。
「勝ったよ、エックン!!!」
「そ、そうだな。おめでとう」
「だから〜、ご褒美のキス頂戴っ!」
ふざけた冗談だと思った俺だが、唇を突き出して目を瞑っている幸を見て本気なのだと悟った。
よくドラマなどでキスをせがむブス女のようにキモいわけではなく、目の前の幸はむしろすごく可愛い。
しかし俺もこんな、他の生徒が見ている中でキスができるほど勇気があるわけではないので、呼吸を整えると、幸が目を瞑っていることを逆手にとって、一目散に逃げ出した。
数秒後、それに気づいた幸が全速力で追いかけてきた。
「待ってよ〜、エック〜ン!!」
「く、来るな〜!!!!」
その様子をギンジやら他の生徒やらが笑いながら見ていた。
俺は顔から火を出しながら逃げた。あぁ逃げたさ。
えっと、話進むのが遅いなぁ、と思っていましたが、一話一話の短さに原因があるのだと判明しました。
読者の皆様、怒らないでくださいね…
それでは、第十五話を読んでくださった皆様への無上の感謝を、次回まで。