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序
それは、夏一番の晴天、太陽の光がまぶしい家の中に設置されていた。
対戦型オンラインゲーム「エヴィル・クライシス」で俺は今、無双中である。
エヴィル・クライシス――《EV》。
それは、勇者側の目線か、悪者側の目線かを最初に選択し、その二つのサイドに分かれて戦う
対戦&オンラインRPGである。
対戦成績によって、ランキングも表示されるので、やる気も何度かアップする。
そして俺は、その《EV》内で、ランキング2位に《なっていた》。
――今は、5002位である。
データ破損か何かで、初期状態に戻っていた。
……以前俺が《EV》をやっていた時、PCが、落ちた、のである。
いや、普通に床に落ちたのだ。
――だからなのか、今俺はMMOではなく《VRMMO》の世界にいる。
今、眼前にいる《勇者》サイドの《敵》は、グラフィック――ではない。
「おらぁっ!!」
《勇者》が叫び声とともに剣を振り上げてきた。
切っ先が俺に向かって瞬速で飛んでくる。
目で追うことはできない。
空間を切り裂くように進む幅3センチの高速移動体を、同じもので防ぐことも不可能に近い。
だが、俺はもうそんなものは見切っていた。
《勇者》の攻撃など、所詮パターンは同じなのだ。
攻撃パターンではなく、威力任せなのである。
そんなものは、何度も見ていればすぐに分かるものだ。
簡単だった。
俺めがけて落ちてくる刀身を、一時的に俺の刀身で受け止め、姿勢を低くする。
あとは足を引っかけるのみ。
――剣技即席型カウンタ―《加重》。
「ぐぁぁっ!!」
奇妙な声をあげながら、《勇者》は地面に転がり込んだ。
「せあっ」
俺は、《勇者》に持っていた剣を振り下ろす。
…………《勇者》は光り輝くエフェクトとともに、一瞬で消滅していった。
「毎度お見事です、先生」
「…………先生じゃないっつの」
おそらく、勝っているだろう、と俺は思った。
俺が、何人も倒したおかげで。
『只今、《勇者》サイドが優勢です。』
女の声で、アナウンスが鳴った。
――俺は、そのとき悟った。
何が起きたのかを。
『ランキング1位の勇者サイド――《呉セルト》さんvs
同じく5位の悪者サイド《常闇のレン》さんの対決は、
《呉セルト》さんの勝利に終わったようです』
――二人とも俺の知り合いだった。
昔、まだパソコンが壊れる前、この二人とは戦ったこともあった。
《常闇のレン》には何度も勝っていたのを覚えている。
が、《呉セルト》に勝ったことは正直、一度もない。
《呉セルト》が相手側にいると、いつも負けるのだ。
――今回もおそらく《呉セルト》の影響だろう。