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廃棄物達の生存術  作者: ラプラス
7/8

ベルカの家出

第7話。

「ただいま」

 「おかえりなさい」

 玄関の鍵を締め、部屋に入ると、ベルカの声が返ってくる。家を出たときよりも幾分か機嫌がいいようだ。

 「ユウジさん、さっきはすいませんでした。失礼な態度を取ってしまって……」

 優慈はその言葉に面食らった。あからさまに不貞腐れていたのに、何があったのだろうか。

 「いや、こっちこそ。あれだけじゃ足りるわけないよね……」

 食料箱に手を入れ、缶詰を二つベルカに手渡す。

 「ユウジさん、これは……?」

 「食べなよ。もうしばらくは持つから。少しずつ慣らしていこう」

 ベルカは申し訳無さそうな表情で俯く。

 「ユウジさんごめんなさい。私、何もできなくて……」

 「想像以上の地獄だろ。生きてるだけで十分だよ」

 「この世界を今まで生き延びて、私のお世話までしてくださる……あなたこそ真の勇者です。アクサムへ戻った暁には、きっとあなたの存在は修道会にとって大いなる力となるでしょう」

 憧憬を込めた目で、ベルカは優慈を見つめる。

 優慈にとって、感謝を受ける――特に異性から――と言う行為は随分久しい出来事だった。

 「いや、そんなこと……とにかく、お腹すいたろ」

 慣れない感覚にしどろもどろになり、思わず目線をそむける。

 目線の先の食料箱に、優慈はどこか違和感を覚えた。缶の並びが変わっている気がする。

 「ありがとうございます。早くアクサムへ共に帰りましょうね」

 缶切りで蓋を開けつつ、ちょうど窓の外に登ってきた朝日のように、この絶望の底を照らすような笑顔で、優慈に微笑みかけた。

 「あはは……そ、そうだ。持って帰ったものがあるんだ」

 些細な違和感を笑顔で吹き飛ばされ、優慈はにやける顔を隠すためバックパックの方を振り向く。

 「服も何か術とかかかってるの? かかってないならそれだけじゃ寒いだろうと思って、適当に服を持ってきた。食べ終わった後に着てみて」

 「そんなことまでしていただけるなんて……重ね重ねありがとうございます」

 「また適当な服を見繕ってくるよ。気に入ればいいけど」

 ベルカに返答しながら、優慈は就寝の準備を始めた。ベルカに食料を渡した分、自分のカロリーを切り詰めなければならない。そのためにも、活動時間以外は睡眠に当てることにした。

 「じゃ、僕は先に寝る。おやすみ」

 「おやすみなさいユウジさん」

 寝袋に潜り込むと、空腹と疲労を引きずった身体は、優慈の意識をすぐにまどろみへと引き込んだ。

 

太陽が傾き西の空に沈み始めた頃、優慈が目覚めると、部屋の中からベルカの姿が消えていた。

 自分をくるんでいた寝袋を剥ぎ取り、バックパックとクロスボウを掴んで、玄関から飛び出る。途中、入口のドアの鍵がかかっていないことに気がついた。予想通りベルカは外だ。

 優慈が日が出ている間に外に出ない理由は、とにかく人と会わないためであった。

 この環境での他人とは、基本的に友好的な隣人や協力する相手ではなく、食料を奪い合う敵だった。

 ただ相手がそこにいる。それだけで残された貴重な食料が消費されていく。そして、相手も同じ考えを持っている。ただお互いが会っただけで殺し合いが発生する。そういう世界なのだ。

 そんな中、なんの力もないであろう少女が出歩くなど、自殺行為も同然だった。

 ただ殺されるだけならまだ幸運だ。慰み者になった挙句、ベルカ自身が『食料』になる可能性すらある。

 そうなれば自分は誰かに殺されるか、緩やかに飢えて死ぬかのどちらかしか残されていないだろう。

 ベルカの存在は優慈にとって最後の希望であった。ベルカを探すべく、優慈はアパートの階段を駆け下りる。

 いつも以上に周囲を警戒しつつ、優慈はアパートを中心に探索を開始した。家の影に潜み、通りの一つ一つを曲がり角から覗き込む。

 そうしながら、優慈は大通りを目指した。時たま『コミュニティ』の連中の車が通る、普段は優慈が避ける最も危険な場所だ。

 『コミュニティ』は『事件』発生当時、残された人々が真っ先に集結し、共同生活を行っている集団だ。自衛隊の駐屯地や警察署に残された武器で武装し、小規模ながら農業による食料生産も行っている。

 しかし、優慈にとってはこれもまた敵でしかなかった。『コミュニティ』が生産できる量の農作物では、彼ら自身が抱える人口でさえ賄いきれなかったのだ。

 必然的に、『コミュニティ』も優慈やその他の略奪者と同じく、食料を探しに街へ来る。しかも、銃火器で武装して。

 そして、『コミュニティ』に属していない人間は、皆等しく協力彼らに協力できない、つまり敵対している勢力だと認識されていた。

 『事件』から一年経った現在、彼らに受け入れられなかった人間は発見次第排除される。ベルカも、その例外ではないだろう。

 最悪の事態を回避するべく、急いで、しかし慎重に大通りへと向かう。

 アパートから800mほど歩き、狭い路地から大通りに突き当たる。

 通りに立ち並ぶビルの裏を通りつつ、建物の隙間から顔を出し、通りを確認しながら進む。

 そして、大通りのカーブを二つ曲がり、見通しの良い直線に出た頃、100m程先に見えるバス停のベンチに、人影が座っているのが見えた。

 クロスボウを構え、ダットサイトを覗き込み、倍率を上げる。赤い光点越しに拡大してレンズに映し出された顔は、間違いなくベルカのものだった。

 優慈は思わず上げそうになった声を抑え、バス停へ走り駆け寄る。足音に気付いたのか、青ざめた表情でベルカはこちらを向いた。

 「あの、ユウジさん」

 「帰るぞ! 早く!」

 優慈はベルカの手を取り、強引に引っ張ると、急いで裏道へと入った。

 「話は家に帰ってから聞く。とにかくこの場を離れるぞ」

 「……はい」

 優慈の声に気圧されたのか、萎れた表情で、黙ってベルカは付いていく。アパートに帰り着いた頃には、既に日が沈み、わずかに日が残るだけになっていた。

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