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廃棄物達の生存術  作者: ラプラス
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お目当ての物件

第6話です。新拠点の下見。

程なくして不動産屋にたどり着く。

 外観から見るに、侵入した形跡はなかった。食料調達が見込めない場所ならこんなものだろう、と優慈は独言した。

 周囲を見回し、人の気配がないことを確認した後で、侵入に取り掛かる。

 昨日、略奪者のグループの窓を割ったときと同じく、手際よく、大きな音を建てずにマイナスドライバーでドアのガラスにヒビを入れていく。

 やがてガラスに穴が空き、腕を通して内側からサムターンを回すと、施錠が解除される。割れたガラスが倒れて音を立てないように、慎重に、静かにドアを開け中へと滑り込んだ。

 懐中電灯で中を照らす。比較的狭い室内には、接客用の椅子が三脚、カウンターの手前に並んでいた。

 カウンターの上には中身が蒸発した茶碗が並んでいる。こういった『事件』の唐突さを表すものは珍しいものではなかった。

 カウンターの向こう側へと入り、懐中電灯を片手に事務所側を探索する。

 並んだ机の引き出しを一つ一つ開け、中を覗いていくと、ちょっとしたお菓子や雨などが入っていることがある。予想通り僅かな、しかし貴重な食料をバッグに詰めつつ、不動産情報の載った台帳を発見する。

 目的の立地は、最低でも二部屋以上の、エレベーター以外の登り口が複数ある、できれば非常口に近い建物。

 幸いこの世界で家賃を請求するものはいない。どんな高級マンションでも思いのままだ。この状況における数少ない利点の一つだった。

 ページをめくるうちに、条件に合致した物件を見つける。8階建てマンションの二階、3LDK。

 住所を見ると、今の拠点から2kmほどの所にあった。理想的な物件だ。

 鍵箱にぶら下がった無数の鍵の中から目当ての物を探し当て、不動産屋を後にする。

 次の行動は、新拠点の下見と、その周囲の偵察だった。優慈は目的のマンションへ向けて歩み始めた。

 

 裏路地の曲がり角をクロスボウを構えながらクリアリングしつつ、目的地の玄関ホール前の通りをチェックする。

 問題なし。ここまでの道のりで、人が住んでいる気配はなかった。しかし、このマンションに人が住んでいる可能性は十分に考えられる。

 玄関ホールの入り口を閉ざしているはずのもはや電気の通っていない自動ドアは手でこじ開けられ、開きっぱなしになっていた。

 ドアの溝を調べる。薄く埃をかぶっており、しばらく開閉されていないことが伺えた。

 だが油断はできない。もはや用をなさない自動ドアを無駄と割り切り開けっ放しにしているか、あるいはここの住人が、物資目当てに迷い込んだものを『狩る』ための罠としている可能性もありえる。

 優慈は再度気を引き締め直し、探索を再開する。

 玄関ホール内に目を向ける。入口から向かって右手に集合ポスト、左手に管理人室と思しき部屋、正面にはエレベーターと非常階段のドアが見えた。。

 管理人室のドアは、バールか何かで破錠した形跡があり、だらしなく開きっぱなしになっていた。

 管理人室の中を覗き込む。予想通り室内は荒らされていた。回覧板や書類が散乱している床を踏み越え、念のために引き出しや棚を探索する。

 予想通り目ぼしいものは何もなく、優慈は出遅れた自分の不運を呪った。

 口を開けたままのエレベーターの内部を一瞥し、なにもないことを確認すると、階段口のドアノブを照らす。

 ここもまた埃が重なっており、ドアノブは動かされていない事がわかる。

 正面玄関のドアノブが開閉されていないということは、ここが無人である可能性が高まった。本命の拠点開拓がうまくいきそうな自分の幸運に、先程の管理人室の空振りを記憶の片隅に追いやり、懐中電灯を消してドアを開け階段を上がる。

 一階分の階段を上がり、二階に到着する。やはりこのドアも最近開閉された様子はない。

 廊下に出て、もう一度鍵に付けられたタグを確認する。プラザハイム203号室。

 表札を確認しつつ、廊下を進む。207、206、205、203。

 予想通りドアノブは埃をかぶっている。鍵穴に鍵を差し込み回すと、錠が外れる音が聞こえる。

 室内に滑り込み、後手に鍵を締め、懐中電灯の明かりをつける。照らされた先には、不動産屋で見た間取り図通りに、廊下の左側にドアが二つ、右に一つ、正面に一つあった。

 抱えていたクロスボウを床に置き、室内を探索する。募集中の物件だけあって家具等は何も置いていないが、それらはマンションの別の部屋や近隣の家から持ってくればいいと考えていた。

 室内のすべての部屋を見て回ったところで、優慈はベランダに出ようとする。

 しかし、窓ガラスが割られ、内部に侵入した形跡があった。おそらく先にこのマンションを探索したものの仕業だろう。

 上の階から非常用のはしごを下ろして虱潰しに探索したようだ。隣の部屋との仕切りも破壊されている。

 他の部屋から割れてない引き戸を持ってこないとな、とつぶやき、外の景色に目を向ける。

 二階からの景色はそれほど見通しが良くなく、目の前の通りを見るのがせいぜいだった。

 しかし、ここで生活するには丁度いい場所でもあった。高い階で生活していると、使っている明かり等が目立ちすぎる。第一、エレベーターが動かないから昇り降りが不便だ。

 部屋のすべてを探索し終わり、床においたクロスボウを拾うと、今度は最上階へ向けて階段を上がる。途中のドアはも確認するが、開閉の形跡は見当たらなかった。

 六階分の階段を上がりきり、一つ深呼吸をすると、廊下から眼下の家を見下ろす。先程よりは視界が広がり、より遠くまで見渡せるが、やはり明かりは見えない。

 マンション内と周囲の家の安全を概ね調査したところで、優慈は今日の行動をここで中断することに決めた。帰りの時間を考えると、帰り着く頃には空が明るみ始める。

 階段を駆け下り、玄関ホールをくぐり通りに出ると、優慈は今の自分の家の方角に向けて歩き始めた。


 帰り道の途中、ショーウィンドウを割られたブティックを見つけた。

 『事件』の後では全く珍しいものではない、ごくありふれた風景だったが、そこでベルカのことを思い出した。

 そう言えば、ベルカの服がボロボロのままだった。もしかしたらあれにも何かしら術とやらがかかっているのかもしれないが、もしそうでなかったらあの格好では寒すぎるだろう。

 優慈はショーウィンドウから、割れたガラスに注意しつつ店内へと入った。

 荒らされた店内は、略奪者の目的が食料だったからだろうか、服にはほとんど手付かずだった。

 ベルカの体格を思い浮かべる。確か自分より頭一つ低かったから、150cm弱程だろうか。適当なサイズの服を探す。

 その時、優慈は重要なことを思い出した。ファッションセンスが皆無であることだ。

 学生時代から着るものには無頓着で、高校卒業後は自衛隊で色恋とは程遠い生活を送っていた。その後は引きこもりである。

 ベルカの気にいるような服が自分にわかるだろうか。そう考えたところで、そもそもベルカが異世界出身であることを思い出す。

 どうこう言われたら「これがこっちのスタイルだ」で押し通せばいいのだ。開き直った優慈は、サイズが合いそうなものを適当にバックパックに詰めた。

 一通り収穫したところで、再び帰路につく。少々道草で時間を食ったが、それでも日が昇る前には十分家に帰り付けそうだった。

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