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廃棄物達の生存術  作者: ラプラス
2/8

生き残るために必要な手段

第二話、優慈が獲物の家を略奪するシーン。


12/1 全体的に改行を入れて、読みやすいようにしました

やがて、優慈は目的地である、件の略奪グループが生活している一軒家が目に入った。

 優慈は、まずバックパックをそこらの物陰へ隠した。

 一軒家の偵察するべく、少しでも身を軽くするためだ。

 身を潜め、息を殺しなから、音を立てずに忍び足で接近する。

 時間帯はすでに深夜、相手が寝静まってることを期待しつつ、家の玄関口に張り付き、耳を澄ませた。

 

玄関の向こうからいびきが聞こえる。

 大方の予測通り、寝静まっているようだ。

 しかし、以前の収集で目撃した際にはこのグループは三人いたはずだ。しかし、果たして見張りも立てずに全員で寝ているなど、そんなに都合のいいことがあるだろうか。


 場所を変え、今度は裏口へ回り込み、再び聞き耳を立てる。

 先程より遠ざかったいびきの中で、それとは違う物音が聞こえた。

 音を立てないように、慎重に窓から家の中を覗く。懐中電灯の明かりに照らされ、二つの影がすりガラス越しに見える。椅子に座っているようだ。

 予想通り、見張りがいる。寝ている人数と合わせて、全部で三人。これは難問になりそうだ。

 再び優慈は家の周囲を回り、大体の家の間取りを把握する。平屋建ての一軒家。部屋は三つ。

 そして、先程の見張りのいた部屋の壁に張り付いたまま、優慈はチャンスを伺う。一度くらいどちらかが席をはずすタイミングがあるはずだと考えていた。

 

息を潜め、小一時間ほど待っただろうか。ついに、その時がきた。

 見張りの片方が席を立った。向かった方向からして、おそらくトイレだろうと優慈は考えた。

 時間はない。しかし、窓から見張りまでおよそ10m。優慈にとっては目をつぶっても当てられる距離だった。

 クロスボウを構え、窓ガラス越しに見張りに狙いを定める。まだこちらには気づいていない。

 クロスボウに取り付けられたダットサイトの赤い光点が見張りの脳天と重なる。

 すかさず優慈は引き金に掛けた中指を引く。

 その瞬間、長らく弦を噛んでいた弦受けが蓄えられたエネルギーを開放する。

 弓の弾力により弦は引き戻され、それに追従してつがえられた矢も照準の先へと引き込まれる。

 弦が開放されたエネルギーによって弓床から飛び立った矢は、ピシッという音とともに、窓ガラスにヒビを入れ、しかし割れて床に散らばることなく、室内へと侵入する。

 その音に見張りが反応したのが早かったか、それとも矢が見張りの脳を撃ち抜いたのが早かったか。

 クロスボウの矢は、予定通り見張りの頭を貫通し、見張りは長さ20インチほどの矢を頭からぶら下げたまま、だらりと脱力し、背もたれに寄りかかった。

 

命中を確認した優慈は、素早く弦を引き上げ、矢筒から弓を一本抜き、つがえ直した。

 次はトイレに立った見張りを始末しなければいけない。死体を見られたら間違いなく寝ている奴を叩き起こすだろう。そうなればチャンスはない。

 クロスボウを構え、家の周囲を回ってトイレへと通じる窓に移動する。

 

予想通り、トイレから水音がする。まだ用を足しているようだ。

 再度、しゃがんだままクロスボウを構える。そして、窓の正面に身を踊らせた。

 暗い室内に薄ぼんやりと人影が見える。すりガラス越しで表情は見えないが、それは優慈にとって関係のないことだった。

 窓越しに身を晒し、照準を覗き込み、狙いを合わせ、引き金を引く。この一連の動作を行うのに二秒もかからなかった。

 反応すらできなかった見張りの頭に矢は吸い込まれ、ドアに張り付いた血痕とともにだらりとへたり込むのが矢が通った穴から見えた。

 

再びクロスボウに矢を装填する。

 後は、寝ている一人を片付ける。物色している最中に物音で起きてこられたら面倒になる。

 その上、既に仲間を既に二人殺している。生き残った仲間が血迷って復讐に狂ったら、後々の行動が非常に制限される。

 後顧の憂いを立つためにも、優慈は残りの一人を始末するべきだと考えた。

 玄関へ舞い戻り、聞き耳を立てる。まだいびきが聞こえる。。先程の物音で目覚めていないのは幸運だった。

 窓から部屋を覗き込むが、カーテンがかかっていて室内は確認できなかった。しかし、中からいびきは聞こえる。

 優慈は、バックパックからマイナスドライバーを取り出すと、窓枠と窓ガラスの間に強引にねじ込んだ。

 ある程度入りこんだところで、ゆっくりと力を込めてねじ回す。すると、窓ガラスにドライバーをねじ込んだ部分を中心に亀裂が入った。

 ドライバーを引き抜き、同じ窓枠の辺の先ほどより少し離れた部分にまたねじ込み、回す。

 また窓ガラスにヒビが入る。すると、放射状に入った窓ガラスのヒビとヒビが交わる点ができる。

 その部分をドライバーで引き剥がすと、三角形に割れたガラス片が音もなく外れた。 優慈はその割れた穴から手を切らないように腕を突っ込むと、窓の鍵を内側から外した。


 そして音を立てないように窓とカーテンを開ける。

 寝室のようだ。奥のベッドで毛布を被り、何も知らずに惰眠を貪っている。

 再びクロスボウを構え、狙いを定める。月のない暗闇の中、お互いの存在に気づいているのは優慈だけだった。

 張り詰めた弦によって打ち出された矢は、予定通り就寝中の彼の頭に命中し、より深い眠りへと誘った。


 開けた窓から内部に侵入する。

 家の中すべてをクリアリングするまで油断はできない。クロスボウを構えつつすべての部屋を一周回る。

 侵入した寝室に死体が一つ。確実に死んでいること確認しつつ、廊下へ出てキッチンへ向かう。

 キッチンでは、天井の電灯の紐に結び付けられた懐中電灯が椅子にもたれかかった死体を照らしていた。

 続けてトイレへ。鍵がかかっていてドアは開かなかったが、床とドアの隙間から流れ出すどす黒い血の量から致命傷を与えたと優慈は判断した。


 最後の部屋へ向かう。クロスボウを右手だけで腰だめに構え、ドアノブを回す。

 刹那、勢い良く開いたドアに跳ね飛ばされた。

 怒号とともに、右手に包丁を持った男が飛び出して来る。

 優慈は尻餅をついた状態から起き上がり、突き出された包丁をとっさにクロスボウのフレームで受け止める。

 その瞬間、ドアに跳ね飛ばされたときの衝撃からか、優慈はクロスボウの矢が台座からはずれているのに気がついた。

 優慈はクロスボウから手を離し、後ずさって距離を取る。

 しかし、男はなおも激しく包丁を振りまわす。天井から揺れるキッチンの懐中電灯に一瞬照らされた男の顔は、憤怒と恐怖に満ちていた。

 男の表情に一瞬気を取られた瞬間、その左手が優慈の胸倉を掴んだ。優慈は右手で振りほどこうとするも、そのままバランスを崩し、テーブルへと背中から叩きつけられる。


 懐中電灯に照らされ、ギラリと光った包丁が優慈の顔へ目掛け突き出された。

 左手で男が包丁を持つ手を掴み、包丁の切っ先が優慈の頬に僅かにめり込んだところで両者の力は拮抗する。

 その瞬間、優慈は自らの胸倉を掴んでいる男の左手から右手を離し、相手の左目を目掛けて貫手を放った。

 中指が左目に刺さる。刹那、男の力が緩んだ隙を優慈は見逃さなかった。左手で包丁を一気に振り払う。男の手を離れた包丁は床に転げ落ち、夜闇に紛れ込んだ。

 続けて右足で金的を蹴り上げる。胸倉をつかんでいた左手の拘束が完全に緩んだ。

 腹筋を使ってテーブルから跳ね起き、その勢いを利用して優慈の頭が男の顔面にめり込む。

 そのままもつれるように男を押し倒す。今度は優慈が上のマウントポジションの状態になった。

 素早く優慈の腰に下がった鞘から鉈を抜き、男の顔を目掛けて振り下ろす。

 男は手で顔を庇おうとしたが、その行動に意味はなかった。鉈の重量と刃がかばった手ごと男の顔面に食い込んだ。

 再び優慈は鉈を振り上げ、怒号と共に男の顔面に振り下ろす。何度も、何度も。

 男の両手がその指と力を失い、力なく垂れ下がっても、優慈は鉈を振るうことをやめなかった。


 優慈が狂乱状態から我に帰った時、男は既に絶命していた。

 もとより見覚えのなかった顔はもはや原型を留めておらず、荒事は初めてではない優慈にとっても吐き気を催すものだった。

 込み上がってきた胃液を押しとどめ、肩で息をして荒い呼吸を整える。

 戦いの緊張と恐怖、高揚からようやく意識を取り戻した時、優慈は自らがやるべきことを思い出した。

 男の服で鉈に付いた血を拭き取り、鞘に収める。続いて、台所の床に転がったクロスボウと矢を拾い上げ、つがえ直す。

 今の騒ぎで誰も来なかったということは、他に仲間はいないだろうと優慈は考えた。


 クロスボウを構え、男が飛び出してきた部屋へ入る。子供サイズの家具が並ぶ部屋の中には、今度こそ誰もいなかった。

 今度こそ家の中の制圧は完了した。優慈は本来の目的である、食料の探索を開始した。

 天井からぶら下がっている懐中電灯を取り外し、台所の暗がりに向ける。ゴミ袋に詰められた空き缶が先程の戦いの影響で床にぶちまけられていた。

 視線を冷蔵庫に移す。ドアを開けると、電気の止まった冷蔵庫の中には、缶詰と水が詰まっていた。


 優慈はにやりと口角を上げた。バックパックを下ろし、戦利品を手早く中に詰め込み始める。

 パンパンに膨れたバックパックの口はどうにか閉め切った。

 さらに、まだ体温の残る死体にも手を付ける。

 四体の死体が身につけているジャケットやズボンのポケットをまさぐると、中からそれぞれ財布を発見した。

 中から紙幣と硬貨を抜き取り、無造作にポケットに突っ込む。

 もはや価値のなくなったそれに対する執着は、もはや失われた文明への執着、あるいは憧憬であった。


 その時点で、ようやく優慈は自分の服が返り血まみれである事に気がついた。

 家の中をもう一度探索し、手頃なジャケットとカーゴパンツを見つけると、着ている服をその場で脱ぎ捨て、新しい服に着替える。

 最後にもう一度家を見て回り、得るべきものが何もないことを確認したところで、優慈は来るときより随分重くなったバックパックを背負い、死体の残る家を後にした。

 

 優慈は帰路につく中で、今回の『狩り』の反省をしていた。

 まず、必要以上に急ぎすぎたこと。食料自体はまだ幾分か余裕があり、二~三日かけて偵察を続けることも可能だった。

 間取りも十分に把握していないうちに襲撃を行うべきではなかった。


 そして最大の失敗が、その状態で敵は三人という先入観を持っていたことだ。その結果が先程の格闘戦だ。

 今自分が生きているのはただ運が良かったからだ、と優慈は自省した。

 今この状況下では次があるとは限らない。たった今、自分が標的になる可能性も十二分にあるのだ。

 気を引き締め直し、優慈は自分の家への帰路を急いだ。

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