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落日  作者: まいこ
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始まり

血噴き肉弾ける生存譚

主人公はチート。

よろしくお願いします。

the day before 5 years


 その場にいる者達は、固唾を飲んでその光景を見ていた。

 半ば潰れ、完全に生物としての機能を失ったはずの肉塊。

 それが、動いている。

 ちぎれた四肢が再生され、表皮が現れ、生前の姿が現れる。


「ラット、だと?」


 誰かのつぶやきは、次の現象でかき消された。

 肉塊だったラットの体がピクリと震え、起き上がったのだ。

 キョロキョロとケージの中を見回し、鼻をヒクヒクと動かす。


「馬鹿な…」

「神よ…」


 世界が静かに、変わった瞬間だった。



the day before 4 years


 原発が世界から完全に撤廃された。

 最後の燃料棒が冷え切り、封印されるに至って世界中で歓声が巻き起こった。

 だが、破滅への足跡は、どこで付くかなど誰にも分からない。



the day before 1 year


 難病【進行性骨化性線維異形成症】

 40歳代で確実に死に至るとされる。

 遺伝的な病気とも言われているが、発症後の明確な治療法はないと言われている。

 

 枕元で、誰かが囁く。


「このままでは苦しんで死ぬだけだ。一つ最新の治療を受けてみないか?」

「ああ、受けるとも」


 俺はまだ生きていたい。

 大学卒業間もなく発症した。

 みるみるうちに体中が動かなくなった。

 友達は誰一人見舞いに来ない。

 親ですら、全く来ない。

 

 ふざけんな。

 彼女も欲しい。

 ギャンブルだってやってみたい。

 旨いもの、酒、楽しみたい。

 おしゃれだってしてみたい。

 旅行も行きたい。


 あきらめられるか。


「そうか。」


 短い返事の後チクリと刺す感覚があり、俺、三島裕司の意識は闇に落ちた。


the day before 6 months


 奇跡、とまで言われた。

 治療法確立のため研究に協力を、とも言われた。

 だが断った。

 お前らただ来て様子見て帰るだけだっただろう。

 あの誰だか分からない奴が、治してくれたんだ。

 どうやってか知らないけどな。


「お世話になりました」


 それだけ言って病院を後にした。


the day before 2 months


 実家との折り合いは付けた。

 お互い二度と関わらないという結論だ。

 氏名不詳の輩が医療費の一切を引き受け、親は正直ほっとしたらしい。

 俺のことは忘れて妹の加奈と三人、楽しく暮らしていたところに疫病神が帰ってきたという。

 最初は俺の完治を信じず警察まで呼びやがり、本人だと分かった後も薄気味悪いものを見る目で俺を見てやがった。

 自分の荷物を整理し、不要なものは全部売るか捨てるかした。

 二度と戻らない。

 そう決めて家を出た。


「結局、この瞬間まで『治ってよかった』も『お帰り』もねえのな、てめえら。」


 もういい子ぶる必要もない。

 アルバムの、生まれた時の写真からへその緒、毛髪、おくるみまで全部回収した。

 この家に俺がいた痕跡は全て削除した。


 俺の台詞にさすがに気まずそうにしていた三人。

 だが最後の最後まで、俺の快癒を祝う言葉はなかった。

 再就職は、比較的上手く行った。

 難病指定されていて、完治ではなく寛解扱いだったために、障害者扱いだった。

 そこを不安に思っていたのだが、逆に俺の状況に着目した雇用者がいたと言うわけだ。

 カジュアルな服装で働ける、緩い職場。

 雇用主は本業がパチンコ店で、いくつものチェーン展開をしているやり手。

 雇用先はグループ内の人材派遣会社。

 面白いもので、グループ自体に正社員として雇われ、配置先がグループ内の企業で変えられる。

 昨年まで景品等の仕入れ元、今年から警備、なんて配置転換があり得る。

 障害者枠で事務員として雇われ、このまま穏やかに暮らしていけると思っていた。

 


the day 

 

「これは…」


 黒装束の男が驚愕していた。

 目の前には犬の死体。

 そのケージには一枚の札。


 【失敗作 廃棄処分】


 その死体になっている犬は、しかしつい先ほど跳びかかって男に噛み付いたのだ。

 ボロボロに腐って崩れかけた死体だったのに。


「仕方ない、引き上げる。このサンプルは回収する」


 死体から肉片を回収し、施設から脱出しようとした。

 油断があったのか、運が悪かったのか。


「侵入者だ!殺せ!」


 男は驚き、一瞬立ち止まってしまった。

 この国は平和ボケしていて、いきなり殺すなどということはないと聞かされていたからだ。

 致命的な一瞬。

 いくつものマズルフラッシュ。

 ため息のような発射音。

 消音器付の小銃だろうか。

 うち2発が男の体を貫いた。

 致命傷ではないが、激痛が走り、動きが制限される。

 だが、逃げなければならない。

 ここでの研究は、異常だ。

 持ち帰り、知らせなければ。


 使命感だけで男は動いていた。

 奇跡的に、いくつもの妨害を躱して某所に逃げ込むことに成功した。

 傷の手当を受け、サンプルを外交官特権で持ち出す。

 行き先は、合衆国。

 

 空港の、ほんの一部の隙。

 男の持つサンプルは、四千年の歴史を誇る国の諜報員にすり替えられた。

 その諜報員は拙速を尊ぶあまり、サンプルに素手で触れてしまった。


 同時刻、某施設。

 廃棄処分の犬の死体を高熱焼却した職員は青い顔をしていた。

 手を押さえ、医務室に行き、噛み傷の治療をする。

 報告はしなかった。

 したら、自分も消毒されるのが分かっていたからだ。


 かくして破滅は拡散していく。


主人公は三島裕司くん。

なるかリア充。


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