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 元治元年(1864年)六月五日


 松坂隊の初勤務である。まずは禁裏回りの警戒と、各門を守る諸藩への挨拶に向かった。禁裏には九つの門があり、それぞれに藩兵が詰めている。土佐は清和院、肥後は寺町、追放された長州に変わり、堺町御門は越前藩が。仙台は下売立、備前は今出川、因州は中売立、阿波は石薬師。そして薩摩は乾御門。蛤御門は会津が守っていた。


 それらの門を回りながら、それぞれの警護の責任者と面会する。見廻組の与頭ともなれば扱いも丁重だ。なにせ俺たちは京都守護職、会津候の支配下にあるとはいえ、れっきとした旗本、将軍の直臣なのだから。各門の屯所に上がり込み、茶などを頂きながら、俺はトシにもらった石田散薬のサンプルを渡していく。


「これは打ち身や捻挫に効き目が良い薬なんです。新選組は激しい稽古で怪我をするとこれを飲んで癒しています。」


 そんな風なセールストークをすると、ほう、ならばぜひ、となってくる。オーバートークにならぬよう注意しながら誘い水をかけるのだ。江戸で作られているので注文がまとまったら取り寄せるつもりだと言うと、ならばうちは何袋、と予約が入る。それを一郎に書き留めさせて次に向かった。ここで注意が必要なのは土佐藩だ。土佐には小千葉道場の定さんが龍馬の本家、才谷屋を通じて薬を下ろしている。下手に荒らせば定さんが困るだろう。


 と、いう事で土佐では世間話のついでに石田散薬の評判を聞いてみる。すると中々だ、と言うので、今度京でも売り始めると言うと、知り合いに良く効く薬だと話しておいてくれるという。


 それまでは順調だったが乾御門の薩摩は少し違った。「何事も軍賦役の西郷どんに聞かねばわからん。」の一点張りだ。その西郷どんはすぐ近くの薩摩屋敷にいると聞いたので、そこを訪ねてみることにした。西郷どん、ってあの西郷さんだよね?


 薩摩屋敷で身分と名を告げて西郷さんに面会したい、そう告げると、奥の座敷に通される。そこでしばらく待つと、むっちり太った男がにこやかな顔で出てきた。


「どうもー。お役目ご苦労様ですねぇ。オイさんが西郷、あ、西郷吉之助っていうの。もうね、島流しにあっちゃって帰ってきたら軍賦役だもの。ほら、内の久光さまってちょっとアレだから。オイさんも困っちゃう。」


 あれ、もっと、こう重々しく、「オイが西郷でごわす。」的な感じじゃないの?


「あはは、ずいぶん言葉が。薩摩の人ってもっと訛りがきついのかと。」


「あんたねえ、オイさんも江戸やら京やら長いのよ? これでも。薩摩弁で話してたら通じないもの。松坂さんだっけ? 」


「あ、はい、松坂新九郎と言います。」


「なら新さん、新さんって呼んでいい? 一緒に京を守るんだから仲良くしないと。でしょ? 」


「ですね。」


「攘夷派なんてのはね、あったまおかしい訳。黒船と戦って勝てるわけないもの。オイさんの薩摩もびっくりするほどやられちゃって。ほんとばっかだよねぇ。こっちの話になるけど先代の斉彬さまはすっごく出来た人でね。今の久光さまはその弟なんだけど、それをひがんじゃってんの。殿様の父親なんだから引っ込んどけばいいのに出しゃばっちゃってさ。あ、新どーん、お茶ちょうだい! あと甘い物

ねー! 」


 びっくりするほどテンションの高い西郷さんに俺はやや気圧されていた。


「まあ、でも藩士の人もいろいろ大変ですよね。俺の知り合いもかっこつけて脱藩なんかしちゃって。今は攘夷かぶれやめてうちの親戚にくっついてあるってるみたいですけど。」


「若気の至り、なんていうけどね。ま、オイさんも人の事は言えないか。いや、言えないでゴワス、なんちゃって。」


「西郷さんもいろいろやらかしちゃった口なんですか? 」


「もうね、大変。前の殿さまがお亡くなりになっちゃって、そしたらいきなり目の仇だもん。島流しに会うわ弟たちは謹慎処分だわ、元から貧乏なのにさらにドン、だもの。ね、新どん? 」


 新どん、と呼ばれた逞しい男がお茶とお菓子を持って現れ、俺に挨拶をした。


「村田新八、と申します。松坂さん、京都見廻りのお役目ご苦労様にございます。」


「もう、新どん? そういうかたーいのは似合わないって。ね、新さん。この新どんもオイさんと一緒に島流し。もう大変だったよね? 」


「吉之助サァの言う通りでごわす。えっらい苦労して。けど吉之助サァはあっちで子まで作って、羨ましかあちゅうこつで。」


「それは言わないお約束でしょ。もう、オイさんだってそう言う事ぐらいしちゃうよ。」


「それで、新さん? 今日は何の用? 」


 まんじゅうをほおばりながら西郷さんはやっと本題に入ってくれた。


「実はですね、今日が俺らの初出勤なんですよ。なので各御門にあいさつ回りをしてたら、薩摩の人が、自分たちじゃわからないから西郷さんを訪ねろって。」


「ああ、ああ、そう言う事。薩摩はね、そう言う上下関係とか、年功序列とかうるさっい所なの。オイさんたちも若い頃はあれやれー、これやれーってよく言われたもん。でね、その代わり面倒ごとはぜーんぶ上に投げてくるの。もうね、オイさんもたいっへん。ほら、薩摩隼人っていうでしょ? あれ、基本的に頭のおかしい人だから。生麦で異人斬っちゃった有村俊斎とか、かんっぜんにイカレてるからね。あんなことすりゃ異人だって怒りますって。」


「ちょっと、吉之助サァ、俊斎の事は内密じゃって。」


「あら、そうだったっけ? 新さん、今のは内緒。ね? 」


「あはは、けど、生麦に関して言えば俺は正しかったんじゃないかなって。大名行列の前横切って斬られるのは当たり前だもの。気にいらないのはツケが幕府に来た事だけ。」


「まあね、こっちの理屈で言えばそうだよね。けどね、新さん。そう言う事をやってちゃ異国に相手にされなくなっちゃう。そして最後は軍艦がいっぱい来てドーンって。」


「うん、それもわかるんですけど、異国の人ももうちょっとこっちの慣習とかに理解がないと。あ、それよりも伊牟田! あっちは許しがたいね! 」


「へ、尚平知ってんの? 」


「清河の仲間でしょ? あれ、一回あったことがありますもん。」


「そうねえ、俊斎に尚平。それに井伊大老を襲った有村次左衛門。これがね、その俊斎の弟なの。もうね、薩摩には頭のおっかしい連中がいっぱい。オイさんが思うにね。薩摩人は薩摩から出ちゃダメ。ね、新どん? 」


「流石にそや言い過ぎほいならんですか? 」


「けどさあ、オイさん、薩摩の人間が事を起こすたび、胸がきゅうって痛むもの。寺田屋だってそうだったでしょ? 」


「まあ、そうかもしれんけど。」


「新さん、それに新どんも聞いて。ほっといたら薩摩は長州みたいになっちゃう。なんたって久光さまはものすっごい人間が小さいからね。今は公武合体、それも薩摩主導で出来てるから満足だろうけど、事があれば何しだすかわからないから。」


「薩摩も大変なんですね。ま、幕府もグダグダですけど。あ、そうそう、それでですね、薩摩隼人って言えばやっぱり武勇。そうなると怪我なんかも多いんじゃないかって。」


 そこでこの薬ですよ。とサンプルを西郷さんに渡した。西郷さんはその包みをこねくり回してみていたが、使ってみて考えるね、と慎重なお言葉。


「新さん。オイさんたちは大体ここにいるから。いなかったら新どんが。だから気軽に遊びに来てね? 」


「そうですね。是非。」


 そんな感じで用件を済ませた俺はみんなと合流して巡回を終え、屯所に帰った。


「新さん、新さん、ちょっと! 」


「なあに? 帰ってきたばかりで疲れてんだけど。」


「いいから、」


 只さんは帰ったばかりの俺の腕を掴んで奥に連れて行く。


「あのね、新さん。さっき会津から使いが来てさ、どうも新選組の捕縛した男がすごい計画を吐いたらしいんだ。」


「そうなの? 昨日は何も言ってなかったけど。」


「拷問とかしてようやくだって。で、そいつの話によれば、攘夷派、長州の連中を中心に京には二百ほど入り込んでるらしい。それで、禁裏を焼いて帝を長州にお連れするって。会津候も一橋殿も暗殺して。その会合が今日にも行われるらしい。」


「えっ、何それ。」


「できる出来ないはともかく、そう言う計画があるって事だよ。俺は組の半分を連れて会津の守りを固める。残りはここの警護。新さんは三条通りの方、長州藩邸の近くを。何かあって逃げるとしたらあそこだろうしね。新さんなら新選組とぶつかってもうまくやれるでしょ? 」


「判った。で、今から? 」


「まずは腹ごしらえをして、それからだね。」


「うん。」


 俺たちは飯を食い。しばし休んだ後で外に出た。町の方に向かうと外には提灯が。祇園祭を控えて町は祭り一色だった。長州屋敷は三条大橋のすぐ北側。その裏手には織田信長が死んだ本能寺。反対側は鴨川だ。その周りを適当にうろうろと練り歩き、しばらくするとイヤになって河原に腰を下ろした。


「あーもう、すっかり夜じゃん。」


「仕方ありまへん。お役目どす。」


「松坂先生、我々はいつになったら不逞浪士を斬れるので? 」


「んなもん、俺が知りたいっての。」


 とりあえずキセルに火をつけ一服する。二十五人、俺を入れて二十六人で暇してても仕方ないのだ。もういい加減真夜中、帰ろうかなっと思った時に、南側に松明の明かりが見えた。


「お、始まったか? 」


「たぶん、松坂先生、どうしはりますか? 」


「安次郎たちはここを。慌てて走ってくる奴は捕まえろ。手向かいするなら斬っていい。一郎、お前は五人ほど連れて俺と。三条大橋を封鎖する。」


「せやけど五人じゃ。」


「ばっか、人数が多けりゃ斬る数が減るだろ? いいから早く来い。」


 三条大橋まで出ると水色の羽織を着た新選組の姿が目に入る。彼らは近くの旅籠、池田屋を取り囲むと、そこに突入していった。


「よーし、いいぞ! 俺たちはこの橋を封鎖する。誰も通すな! 」


「「応! 」」


 先頭に立って何やら大声で叫び、突入したのは近藤さん。うわぁ、いいねえ、ワクワクする展開だ。そのうちに一人、二人と浪士が池田屋から吐き出され、それを追った隊士が斬りつける。俺がそれを見るのに夢中になっていると一郎が俺の袖を引っ張った。


「なんだよ、今良い所なんだから。」


「先生、後ろ、後ろ。」


 ん? と振り向くとそこには鬼の形相のトシがいた。


「何やってんだ、旦那。」


「あ、いや、近藤さんがあそこの池田屋に切り込んだから、俺たちは逃げ出したのを、と思ってね。」


「なんだと! 聞いたか野郎ども! 近藤さんを死なせるな、突入! 」


 トシたちは俺たちを押しのけて池田屋に向かっていった。その中には俺に笑いながら手を振るはじめちゃんの姿もあった。


「あの、先生? 僕らも加勢せんといかんのちゃいます? 」


「いいんだよ。トシたちだってあんなに居るんだ。邪魔しちゃ悪いだろ? なあ、みんな? 」


 うんうんと頷く隊士たち。そう、斬り込んで手柄を横取りした、なんて言われたらたまらない。そうこうするうちにぽろぽろと池田屋から再び浪士が吐き出された。


「邪魔だ! どけっ! 」


 白刃をきらめかせた浪士たちが走りながらそう叫ぶ。退く訳がない。何しろこっちはこの時を待ちわびていたのだ。俺は前に進み出てすれ違いざまに夢酔の刀で浪士の一人の腹を裂く。そのまま歩いて二人目を、と思った時に、そいつは隊士に斬られてしまった。


「へへっ、先生、お先に。」

 

 そう言ってニヤリと笑う隊士は次々と吐き出される浪士を斬っていく。講武所上がりの隊士たちは切り結ぶことをせず、避けて、そして斬り下ろす。始末がすんで、必死な顔で浪士と刃を合わせている一郎を囲んだ。


「ほら一郎、何やってんだ。そこだよそこ! 」


「あー、もう、そうじゃないだろう! 」


「そこでほら、あー、一拍遅い! 」


 暇になった隊士たちは浪士と切り結ぶ一郎にあれこれ文句をつけていた。


「ちょっと! 黙っとってください! 気が散りますやろ! 」


 浪士が刀を振り上げた時、一郎はその胴を抜いた。浪士はえっと言う顔をしてその場にくたくたと倒れ込んだ。はぁはぁっと肩で息をする一郎は橋の欄干から顔を出し、おぇぇっと吐き戻した。それに比べ、うちの隊士は平然とした様子で俺の周りに集まった。


「いやあ、初めて人を斬りましたが何やら、こう、クセになりそうな快さがありますな! 」


 この違いである。隊士たちはどいつもこいつも満足そうな顔をして、刀をぬぐっていた。


 そうこうする間に池田屋の方も片が付いたらしく、水色の羽織の新選組隊士がけが人に肩を貸して出てくるのが見えた。トシが何やら指示を出し、それを終えると怖い顔でこっちに向かってきた。


「トシ、そっちは片付いた? 」


「旦那、大概にしろよ? なんで加勢してやんなかった! おかげで近藤さんはあわや死んじまうとこだったんだぞ! 」


「だって、そっちの仕事取ったらまずいだろ? 俺たちはほら、こっちに逃げてきた奴らはきっちりと、誰一人通してないよ? 」


「ま、まあそれもすげえが。んで、他は? 」


「残りは長州屋敷の周りを固めてる。逃げるとしたらそっちだろうからね。」


「なるほど。んじゃそっちに俺も行く。ちっとこの件は大ごとだ。できれば誰も逃したくねえ。」


 わたわたとしている間に会津、桑名からの加勢もあり、現場は大勢の武士で密集した。


 トシは手早く隊士たちに指図して、俺と共に長州屋敷に向かった。そこではうちの連中に囲まれた一人の男がいた。


「違いますって、僕は怪しくなんかありませんから。」


「いいやお前は怪しい。俺の感がそう告げている。」


「感って! 僕は善良な対馬藩士ですよ! 」


 話の通じない安次郎と言い争っているのは見たことのある男。てか桂じゃん。俺は桂を逃さぬよう、さっと手を上げて取り囲ませた。


「よう、桂。久しぶりじゃねえか。いつから対馬藩士になったんだ? 」


「か、桂? どなたですか、それ、って、えーっ! 歳三さん? それに、うっわぁ、松坂さんじゃん。最悪。」


「最悪なのはお前。トシ、長州人は京から追放だったよな、だったらこいつは斬っちゃっていいんだろ? 」


「できれば口が利けるようにしといて欲しい。色々知ってそうだしな。」


「ちょっと、君たち。それが長年の友に対する言い分かね? もう、お母さん悲しい! もっと純粋な子に育てははずなのに! 」


「いつからてめえは俺たちのおふくろになりやがった。つか、旦那と兄弟とかマジ最悪なんだけど。」


「はぁ? 何言ってんの。それはこっちの台詞。もういい、トシがそんな態度取るなら桂はざくーっと斬っちゃうから! 」


 俺がそう言って刀に手をかけた時、物陰から一人の綺麗な女が飛び出てきて桂を庇うように前に立った。


「待っとくれやす! この人を、この人を斬らんといておくれやす! 」


「残念だな姉さん。そいつはわっるーいやつなの。見逃すわけにはいかなくてね。」


 その女はじっと俺たちを見てなぜか一郎に縋りついた。


「お願いや、あんたからも言うてやって。この人だけは斬ったらあかんって。」


「えっ、えっ、」


 突然綺麗な女に縋りつかれた一郎は動揺を隠せずに目を泳がせた。そして顔を真っ赤にしてこう言った。


「ねえ、先生、一人くらいいいんちゃいます? 池田屋にいたっちゅう訳でもないんやし。」


 頭を掻きながら一郎がそう言うと、みんなはぁぁ、っとため息をついた。その隙に桂は女を置いてささっと逃げてしまう。


「あ、逃げやがったあの野郎! 安次郎、追え! この辺りを封鎖だ! 」


「はい! 行くぞみんな! 」


「くっそ、普通自分の女置いて逃げるか? まだそう遠くにゃ行ってねえはずだ。きっと物陰に隠れて震えてやがるに違いねえ。」


「ならばあぶり出すか。」


「あぶり出す? どうやって。」


「いいから見てろ。」


 そして俺はすうっと息を吸い込んで大声で呼ばわった。


「かーつーらーァ! お前、包茎なんだって!? 」


 それを聞いたトシや一郎、そしてそこの女までがぷっと噴き出した。


「ち、違う! 僕は包茎じゃない! 」


「いたぞ! 」


「お侍はん、包茎はあんまりどすえ。うちの旦さんは包茎やない。ただ、ちょっと小さくて早いだけで。」


「はは、なるほど。桂! お前は包茎じゃないけど早漏で短小らしいな! 」


 再びそう呼ばわると桂は真っ赤な顔でこっちに走ってきた。そしてその女を盾にするようにして対峙する。


「い、イク、余計な事を言うんじゃない。僕は早漏なんかじゃないんだ! 」


「うそつけ。おめえは早漏野郎。あーあー、その女も可哀想に。」


「う、うるさい! 僕は包茎でも早漏でも短小でもない! 」


 トシが桂を引き付けているうちにと、俺は位置を変えて女に当たらぬところから抜き打ちに斬りつけた。だが桂は女を守るように一郎に向けて突き飛ばし、自らは飛び去って俺の一撃を躱した。お、すげえ。


 桂はそのまま走り去り、鴨川に飛び込んで流されていく。


「ぼ、僕は早漏じゃありませんから! うっぷ。包茎でも短小でもないですから! 」

 

 桂は町の人々に訴えかけるようにして叫び、時折沈みながら流されていった。


「まあ、これでよかったやないですか。ねえ、イクさん? 」


 一郎が振り返ると、そこにイクと呼ばれた女の姿はなかった。


「つか、一郎さんよ。あんた、女に慣れてねえにもほどがあるぜ? もしかして、童貞? 」


「な、なにを言いだしはるんや! 僕は、僕は、童貞なんかやない! 」


「はい、童貞決定っと。じゃ、旦那、俺は後始末があるから帰るぜ。今日のお礼は後程な。」


「ああ、薬の方も頼むよ? 予約取ってんだから。」


「ああ、任しとけ。」


「さ、俺たちも帰るか。童貞に夜更かしは毒だからな。」


「はい、先生。ほら、童貞、行くぞ? 」


「そっか、一郎は童貞か。道理で童貞クサいと思ってたんだよな。」


「ふふっ、童貞。」


「僕は違う! 違うんやぁぁ! 」


 一郎の声が夜空に甲高く響いた。世に言う「池田屋の変」の夜はこうして過ぎて行った。



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