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 夏の暑い盛りも過ぎたころ、亀沢の道場に薬売りが訪ねてきた。この日は俺が道場の留守を守り、親父殿、健吉、鑓次郎は講武所にいた。


「んで、なんなの? 忙しいんだけど。」


「まあまあ、そう言わずに。見るだけでもおねがいしますよ。 」


 仕方がないので稽古を他のものに任せて薬売りの相手をする。


「こいつは俺の家に代々伝わる薬で、打ち身なんかにゃよっく利く。一日、一匁いちもんめ熱燗あつかんにした酒で飲めば痛みもすっ跳ぶってもんさ。道場なんかにゃピッタリでしょ? 」


 まだ若い、たぶん俺よりいくつか年下のこの男はそう言って、紫色の粉薬を見せた。


「ねえ、なんか危ない色してるけど飲んで大丈夫なの? 」


「旦那も言うねえ。うちじゃこいつを二百年近く商ってんだ。卸先おろしさきも四百件はくだらねえ。大丈夫に決まってんだろ? 」


「まあ、それならいいけど、で、いくら? 」


「旦那、今日のところは銭はいいよ。代わりと言っちゃあなんだが俺に稽古をつけてくれねえか? 」


「稽古? 剣術の? 」


「そう、俺は十人兄弟の末っ子でな、こんな行商なんぞは切り上げて、世に出たいと思ってる。その為には剣の一つぐらいできねえと。」


「まあいいけど。そこそこはできるの? 」


「ああ、今までもいろんな道場で稽古してた。遠慮はいらねえさ。」


「そっか、なら俺が相手するよ。」


「ありがてえ。」


 適当な防具を薬売りに付けさせて立ち会う事にする。薬売りのスタイルは今はやりの竹刀打ち中心ではなく、古風な刀を意識した物だった。


 中々に鋭い打ち込みではあったがまあ、それだけ。龍馬よりはマシかな。とはいえ薬代代わりと思い、真面目に相手をする。根性は龍馬よりはあるのか中々参ったとは言わなかったので、面倒になって組打ち、投げ飛ばした。


「ちょっと、新さん! やりすぎです! こいつ、泡吹いてますよ! 」


「あっちゃあ、まずったかな。」


 とりあえず防具を外して座敷に担ぎ込んで横にならせる。しばらくすると薬売りは目を覚ました。


「ごめん、だいじょうぶ? 」


「は、ははは、流石は天下に名高い男谷道場だ。俺も多少は自信あったんだが。」


「もう少し横になってたほうが良いよ。頭打ってるし。」


「うん、悪いけどそうさせてもらう。」


 薬売りにもらった薬を本人に熱燗で飲ませる。ちょうどいい毒見だよね。しばらくすると薬売りは眠ってしまったので道場に戻り、貰った分の薬をみんなに配った。


「打ち身のひどいときはそれを飲むといいらしいよ。一日一匁、熱燗でぐいっとね。」


 門弟たちは不審な顔でそれを手に取る。そのうちの一人が、あ、これ知ってる。と言い出した。


「新さん、これ、石田散薬ですよ。怪我によく利くってんでうちの爺様がよく飲んでました。」


「あら、じゃあ安心だね。」


「ちょっと、何だかわかんないものを俺たちに? 」


「いやいや、ちゃんと薬売りに飲ませて毒じゃない事は確認してるからね。」


「本当かなあ。」


「俺、悲しい! みんなが俺をそんな風に見てたなんて! 」


「だって俺、背中にでっかいクモ入れられたことあるし。」


「俺はおたまじゃくしの入った水を飲まされたことがある。」


「俺はザリガニを剣術道具の中に入れられたことがある。もうね、くっさいの! 」


「ははっ、そんな昔の事を持ちださなくても。」


「新さんがまともになったのはほんとこの数年だからね。怪しんでも無理はないっしょ? 」


「むしろ怪しまれない、と思う方がおかしいですからね。」


 さんざん言うだけ言うと門弟たちは後片付けを済ませて帰っていった。もう、良かれと思ってやったのに。みんなひどいんだから。仕方がないので座敷に寝かせた薬売りを起こして、俺の離れに連れて行く。


「律っちゃん! 律っちゃん! 」


「はーい。」


「悪いけど風呂沸かしてくれる? 一応お客さん。」


「いいよ、旦那。」


「どうせもう暗くなるし帰れないだろ? 今日はうちに泊まっていけばいい。汗くさいし。」


「くさかねえよ! 俺はこれでもそういう所は敏感だからね! 」


「はいはい、とにかく上がれって。親父殿が帰ってくるとまた面倒な事になるから。」


「んじゃ、甘えさせてもらう。」


 不貞腐れた口ぶりで薬売りはそう言った。


 風呂から上がり、すっきりした格好の薬売りは中々にイケメンだった。律に頼んで飯と酒を用意してもらい、それを食いながらぼつぼつと話をする。


「俺は歳三、土方歳三だ。多摩の石田村の百姓だな。」


「ああ、俺は松坂新九郎、講武所で剣術教授方やってる。で、こっちが妻の律っちゃん。」


「講武所? どおりで強えはずだ。」


「律と申します。」


「ああ、こりゃどうも。なんせ百姓なもんで礼儀作法は目をつぶってくれねえか? 」


「ええ、そのような事は新九郎さまも、わたくしも気にかけませぬよ。」


「んで、あんたは剣術覚えてどうしようっていうの? 」


「ああ、俺の事はトシとでも呼んでくれ。あんたにゃ世話になりっぱなしだからな。んで剣術っていうかなんでもいいんだ。とにかく俺はなんかやりてえ。このまんま薬売りじゃ生まれてきた甲斐がねえからな。かと言って学問はちょっと、腕っぷしには多少の自信があるから剣をってこった。」


「なるほどね、俺も部屋住みだったからその気持ちはよくわかるよ。ましてうちは旗本でその五男。何かしようにも家の名前があるからね。」


「そうだな、お侍の部屋住みってのは俺らのように商いも出来ねえ。それもきついな。」


「そそ、でもさ、トシ。剣術習うにしても昨今流行りの竹刀打ちじゃ何の役にも立たないからね。もうね、講武所にもそういうの多すぎ。竹刀打ちばかり強くて、刀を持たせたらなにも斬れない奴ばっかりでさ。」


「まあ、刀が使えても人を斬っちゃ死罪だからな。だったら世間から認められる竹刀打ちをってのもわかる話さ。」


「まあね、でもさ、今は黒船騒ぎで世がどうなるかわかんないじゃん? 万が一、その時に戦えるよう講武所が出来たんだよ。」


「なるほどねえ。お上もきちんと考えてるって訳だ。」


「何がどう転がるかはわかんないけどね。いくさとなれば人も斬れない剣術じゃ意味がないさ。」


「もっともな話だな。俺はね、旦那、誰かと思いっきり戦ってみてえんだ。んで、何かを守れりゃそれが一番。けど戦う相手も守るべき何かも見つけられねえ。それが悩みだな。」


「うちはね、男谷の家は公儀の為に。それだけだよ。その辺ははっきりしてる。他がどうなろうが俺たちは公儀の為に働く。それだけさ。」


「そっか、うちのあたりも天領だ。お上に恩がねえ訳じゃねえ。俺は単なる百姓に過ぎねえがいつかお上の為に、うん、そう考えるといいかもしれねえ。なんかすっぽり収まった気がする。」


「そうそう、そんなもんだって。あんまり気張っても意味ないしね。剣術の事なら俺も力になれるさ。それに薬を売るなら桶町の千葉道場に行くといいよ。」


「桶町って言うと小千葉? 」


「そそ、あそこの定吉先生に俺の紹介、そう言えば無碍にはしないさ。稽古の相手も丁度いいのがいるかもよ? 」


「そっか、悪いな、いろいろと。」


「ここに来て俺が居なけりゃ律っちゃんに。外に泊まる事はないからね。」


「ああ、わかった。奥方、そん時は頼む。」


「ええ、新九郎さまと仲良くしてくださるならそれで。」


 その日はうちに泊まって、明け方トシは帰っていった。いろんな人がいるもんだ、と思いながらふと気が付いた。


「あーっ! 」


「どうされたのです? 」


「あ、いや、何でもない。」


 土方歳三ってどこかで聞いたと思ったんだよね、新選組の副長じゃん! で、新選組って志士とかばっさばさ斬ってたよね。っていうか薬売りがなんで? もしかしたら同姓同名かもしれない。完全にイメージ違うもの。


 九月になると龍馬が江戸にやってくる。だがその龍馬は一向に桶町の千葉道場には顔を出さず、土佐藩邸に籠りきりだ。さなの機嫌が日に日に悪くなる、そう定さんに泣きつかれた俺は、様子見に土佐藩邸に行ってみることにした。


 門番に身分と名を名乗り、取次をお願いする。講武所の教授方、と名乗ると姿勢を正してかしこまるのだ。なんか偉くなったみたいで気持ちいい。


 しばらくして出てきた男は体格のいい、顎の突き出たどことなく鯉を連想させる顔の男だった。うぱっとか言いそう。


「松坂殿、であらせられるか? それがしは武市半平太たけちはんぺえた。此度の遊学の監督を務めておりまする。して、坂本に御用が? 」


「ええ、その野暮用なんですけどね。」


「失礼ながら坂本とはどのようなご関係で? 」


「ああ、前に塾が一緒で。象山先生の五月塾。俺はそこの塾頭でして。」


「なんと! あの佐久間先生の! これは失礼を。つきましてはその、それがしに少しばかりお話を。」


「別にいいけど、龍馬の奴、どうしたの? 」


「何かは判りませんが誰も取り次ぐなと。奥の部屋に閉じこもってしまいましてな。」


 それ完全にニートだからね。


 その武市さんに案内され、座敷に通される。そこに険しい顔の男が茶を持ってきた。


「ははは、この者は以蔵、岡田以蔵おかだいぞうと言いましてな。それがしの土佐の剣術道場の門弟でござる。講武所で剣を教える松坂殿の来訪と聞き是非にと言うもので。」


「あはは、どうも。」


「武市先生。わしは、講武所っちゅうのの実力ば知りたいがぜよ。」


「無礼を申すでない。」


「けどせっかく江戸まで出て来ちゅうに、江戸の旗本の業前も知らんじゃ意味ないちや。」


「松坂殿、非礼は承知の上、我らに一手御指南頂けませぬか? 」


「そりゃあいいけど、終わったら龍馬を引きずり出すの手伝ってくれる? 」


「ええ、それはもちろん。なあ、以蔵? 」


「わしらもアレには手を焼いちゅうぜよ。」


 そんな話となり、藩邸の道場で防具を借りてそれをつける。まあ、二人とも普通。以蔵と言うのが結構根性があって何度も挑んできたが竹刀を何度か打ち落としてやると降参した。


「……ここまで違いがあるとは思いもしませんでした。まさしく井の中の蛙でありましたな。」


「武市先生、わしがもっと修行して強くなるきに! 」


「うん、そうだな。我らはこれからだ。」


「んで龍馬は? 」


「ああ、あっちの奥の部屋に。案内いたします。」


 何度か廊下を折れてその奥の部屋にたどり着く。


「龍馬、客人だ。」


「なんちや! 誰も取り次ぐなち、言うたじゃろ! 」


「まあそう言うな。」


 武市さんはガラッと襖を開けた。中には布団にくるまってガタガタ震える龍馬の姿が。


「よう、久しぶり。」


「し、新九郎さん? アギ! なんちゅうもんを取り次いだんじゃ! 」


「はいはい、ほら、みんな待ってるからねえ。定さんもさなも。」


「ち、ちっくと待ってくれんか! 」


「待たない。」


 そう言って後ずさる龍馬の額を掴みアイアンクローをかける。


「お願い! お願いやき! あばばばば! 」


 懸命に振りほどこうと足掻いていた龍馬はついに気絶した。


「ほら、武市さん、以蔵さんも手伝って! 」


「あ、ああ。して、こやつをどちらに? 」


「こいつはねえ、小千葉道場の娘に手を付けて婚約までしてんの。なのに見苦しく逃げ回っちゃってさ。」


「うむ、それは許せませんな。土佐の名誉にかかわる。」


「最低じゃ。」


「でしょう? だから桶町の道場に連れて行ってやらないと。」


「左様な事であれば我らも手をお貸しいたしましょう。以蔵、そっちを。」


 両脇を武市さんと以蔵に支えられ、気絶したままの龍馬は桶町の道場に引きずられていく。


「まあ、そういう事情なんで、藩邸に逃げ込んでも入れないで欲しいんだ。」


「娘に手を付け責任も取らず、土佐の男としては許しがたく。もちろん藩邸には入れさせません。」


「龍馬は昔っからこうじゃき。一人でいいもん食べちょって、見せびらかして、引っ叩かれると姉さまに言いつけちょって。少しは痛い目見るがええんじゃ。」


 鍛冶橋の土佐藩邸から桶町の千葉道場はすぐそこだ。今か今かと待ちかねていた定さんが龍馬を見てにやりとする。丁度目を覚ました龍馬が定さんを見てがくがくと震えた。


「うふふ、龍馬、お帰り。わしもね、すっかり待ちくたびれちゃった。」


「せ、先生、そがいに話を急ぐもんじゃないちや。」


「うんうん、急がないよ。ここには龍馬たちの部屋も用意してるから。ゆーっくりお話ししようか。」


「ち、ちくと待って! アギ、ほれ、何ぞ言うてくれんと! 」


「千葉先生。不束な男ですがどうかよろしく。」


「ちっがーう! そうじゃないち! ほれ、わしゃあ公費できとるんぜよ? 藩邸で暮らさなきゃいかんなが? 」


「うむ、そこは俺が手続きをしておこう。おまんは千葉道場で世話になるっち。」


「そ、それはいかんぜよ! 藩の規律っちゅうもんがあるきに。な、以蔵? 」


「武市先生がええ、言うとるきに。なんちゃ問題ないぜよ。」


 その時後ろには気配を消したさなの姿があった。龍馬、うしろ、うしろ!


「いうてもわしゃあ、修行に来とるぜよ。おなごの事なんぞで惑う訳にはいかんちや。」


「もう、惑う必要などないのですよ、龍馬さん。」


 げっと龍馬が振り向いたときには時すでに遅し、さなは龍馬の頸動脈をがちっと締め上げていた。


「さ、お話はここまで、あとは二人で。」


 あっという間に気絶した龍馬はさなにずるずると引きずられていった。武市さんと以蔵は目を見開いたまま、ぽかーんと見ていた。


「ささ、皆さんお手をわずらわせました。どうぞ、中でお茶でも。」


 晴れ晴れとした顔の定さんはそう言って俺たちを招いた。


「トシさーん、トシさん! 」


「なんです? 」


 定さんに呼ばれてひょっこり顔をのぞかせたのはトシこと土方歳三だった。


「あ、旦那じゃねえか。どうしたんだ? 」


「うん、ちょっと野暮用でね。」


「んで、そっちのお二人は? 」


「まあ、まあ、座って。こちらのお二人は土佐の、えーっと。」


「武市半平太にござる。」


「岡田以蔵。」


「そう、武市さんと岡田さんね。でね、こっちは薬売りのトシさん。打ち身とかによーく利く薬売ってんのよ。ほら、土佐の人って荒々しくて逞しいから怪我が絶えないんじゃないかって。」


「ほう、拝見してもよろしいか? 」


「ええ、俺の家で二百年作り続けた石田散薬、効き目はばっちりですぜ? 」


 トシはセールストークをはじめ、土佐の二人は興味深げに見ていた。


「ふむ、稽古をすれば怪我は付き物だからな。一袋もらおうか。」


「毎度。」


 武市さんはトシに一朱金を一枚支払った。けっこうするのね、薬って。


「で、お二人は江戸は初めて? 」


「ええ、此度ようやく遊学の許可が下りましてな。」


「だったら、剣術も学ばないとだよね。どう? うちなんか? 北辰一刀流。場所も近いし良いとおもうな。」


 今度は定さんが営業を始めた。


「そ、それがですな。その、坂本の奴が千葉道場だけはダメだというもので、我らは鏡心明智流の士学館へ入門を。」


「えー! 士学館なんて、昔、練兵館との喧嘩をわしと兄者で収めてやったとこなのにぃ! 」


「そうなの? 」


「そうよ、新さん、弟子の取り合いかなんかでもめちゃってさ、もう、大変だったんだから。」


「はは、その、坂本がですね。」


「あいつほんとに許せないね。営業妨害だもの! まあ、わしも弟子の取った取られたでもめるのはやだから諦めるけど。」


 土佐の二人は悪い事してないのに身を縮めて申し訳なさそうにしていた。


「あ、お二人が悪い訳じゃないの、こういうのは縁もあるからね。でも龍馬は悪いよね? そうでしょ! 」


「うむ、坂本の振る舞いは確かに! それがしはあの者の兄貴分として必ずや責を。」


「うん、うちの娘、傷ものにして捨てたりしないようよーく言っておいてくれる? 」


「必ずや。では、それがしはこれで。以蔵。」


「ごちそうさまやった。」


 二人はそういうと逃げるように帰っていった。


「武市半平太に岡田以蔵ねえ。土佐の連中ってのは風変りだな。」


「そんな事よりトシさん、」


「ああ、判ってるよ、先生。」


 トシは袋から五十文を定さん渡した。え、グルになって商売してんの? 


「これがね、結構儲かるのよ。トシさんのところの薬、効き目は確かだしさ。こないだなんか玄武館に行ってそこにいる奴全員に買わせたもの。」


「ああ、あんときは先生のおかげで一発で売り切れだ。実家の兄貴も大層喜んでくれたぜ。」


「おじさんもウハウハ。あの日だけで一両は儲けたもんね。」


「へえ、うまいことやってるね。」


「旦那も力貸してくれりゃ分け前は弾むぜ? 」


「そうだよ、トシさんだって苦しいんだし、協力してあげなきゃ。あのね、新さん、こういうのはうまくやるの。まずは新さんが講武所で薬を配るでしょ? 」


「うん。」


「で、効き目があるから当然次もってなるよね。」


「だろうね。」


「その時にさ、うちを紹介するって運び。で、トシさん。」


「なんだい? 」


「あんたはね。普通の薬とちがって色のついた紙に包んだ奴を用意するのよ。」


「なんだってそんなめんどくせえ事を? 」


「バカだねぇ、ここが大事なとこじゃない。その特別に作った奴をわしが売るわけ。北辰一刀流の道場の為に作られた特別な石田散薬としてね。そうすれば物の値段のわかんない旗本連中はありがたがって買っていくって寸法よ! どう? 」


「なるほど、仮に石田散薬を知ってる奴がいたとしても、こいつは特別製だから値が違って当たり前、そういう事か。」


「そうそう、倍ぐらいにしてもわかんないよ。しかもさ、お旗本にしか売らない、そういう建前にして、こっそりそこらでも売ってやる。そうすりゃきっと喜ばれるよ? 」


「けど中身は一緒だぜ? 」


「昔からいうでしょ、病は気からって。違いなんかわかりゃしないよ。」


「さっすが先生だな。うし、俺はさっそく色違いの紙に包んだ奴を用意する。」


「高そうに見える奴だよ? 」


「ああ、任しとけって。んで、できたら新九郎の旦那に。それでいいな? 」


「うん、できるだけ早くね。取り分は値上げ分の三等分で! 」


「おうよ。さっそく行ってくらぁ。」


 うーん凄いね、二人は。実にビジネスライクに生きている。


アギ……武市さんのあだ名。アギ=あご。あごが張っていたみたいですね。肖像をみると魚っぽい顔ですが。

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