STATE1 もしかして俺、死ねないの・・・? その2
「にしても、あの空を飛んでる意味不明なキメラみたいなの何? 俺ミミズ嫌いだからあいつの顔見てるだけで非常に不愉快なんだけど・・・。」
「キメラ?」
「・・・?」
外でカシイは首を傾げているフュイナ、ヘレナと共に空を見上げ、生き物を観察していた。
先ほどフュイナとヘレナが飼っている番犬、”ムシトリドラゴン”のピーちんに勢いよく威嚇され腰を抜かしたカシイは、この先この国で生きていくためには生き物の生態と種類をできる限り多く知っておくのが重要だと感じ、こうして空を見上げたまには草原に視線を下ろし、生き物の生態をフュイナとヘレナから聞いているのだった。
「? カシイ君が言ってるキメラっていうのはよくわからないけど、あれは”ゼブラルドラゴン”って言って、あの三頭で何でも食いちぎることが出来るって言われてる神獣よ。
普段は吠えてるだけで友好的にあっちから私たちに近づいてくるけど、苛立っている時に近づいたら食べられちゃうって言われてるの。」
「相変わらず・・・、きも、い。」
(いやいや、あんなもんあっちから近づいて来たら失神ものだわ! 食べられる前にテクニカルノックアウト確定だよ!! それとヘレナちゃんその気持ちよーくわかる・・・。)
カシイは今日何度目かわからない冷や汗を掻き草原を見渡す。草原には、カシイが先ほど教わった、鹿と似た体型をした”ガゼーデ”が複数の仲間と草を食んでいた。それを見て、ふとカシイは思う。
(・・・、あの草原の先って、どうなっとるん・・・?)
カシイがいくら目を細めても見えるのは草原だけ。見渡す限り草原。境界線の向こうまで草原と思わせるほどの草原率。今まで特に気にしてなかったが、よく見てみると確かに不思議にしか思えない程の立地だった。
カシイはフュイナにこの立地の事を聞こうと思いフュイナの方を見ようとする。
すると、目の前になんとも小さい女の子ヘレナが、まるでカシイがフュイナに頼み事をするのを知っていたかのように目の前に立っていた。
「お?」
いきなりの事で面を食らったカシイだが、ヘレナはまったく表情を崩さない。
「この先、は、なんも、ないよ・・・?」
「え・・・?」
ヘレナの言葉に、カシイは首を傾げる。
(はて、俺は心で思っていたことを口に出していたのかな・・・?)
そんなことは決してないが、そう思っても刺し支えがないくらい、ヘレナの行動は虚を突いていたのだ。
「ここから中央都、行くため・・・には、家にあるテレポサーバ、使って行く・・・。」
「テレポ、サーバ?」
(な、なんだテレポサーバって・・・? テレポって言葉は、テレポートって意味なのか? ってことは・・・。)
「ま、まさかテレポートして行くってことぉ!?」
「テレ、ポート・・・?」
ヘレナがカシイのテレポートという言葉に対して首を傾げている中、カシイは先ほどの驚愕が吹き飛ぶほどの驚愕の顔を浮かべていた。
(2016年現在、量子テレポートという定義だけは過程として成り立ってあるが、単なるテレポートという事象自体はやはり実現できず、未だ存在すら危うい超能力扱いとされてる。しかしまさか、こんなところで実現してるなんて・・・。)
「? カシイ兄ぃ、だいじょぶ?」
「ん? あぁ、大丈夫だ、うん。」
「あーーーーーっ!!?」
カシイはヘレナに対して笑いながらヘレナに言うと、フュイナが大きな声を出して叫ぶ。何が起きたのかと、ヘレナとカシイの二人がフュイナの方に視線を移す。
「どうした、の?」
「もう、3時・・・。」
フュイナが泣きそうな顔をしながら、時間をヘレナに伝える。その言葉でヘレナがハッとしたような顔をするのをカシイは見逃さなかったが、はてさて何がそんなにまずいのかカシイにはわからない。
「なんだ? なんかまずいことでもあったのか?」
するとカシイのその言葉に、フュイナがさらに泣きそうな顔になる。
「早くしないと・・・、今日の分のノルマ終わってないの!」
(? ・・・ノルマ??)
「あ、ノルマ、テレポサーバ、使って、森で今日の火種と、供物の採集。」
またもや知っていたかのようなヘレナの口ぶりに、カシイは気にも留めずに首を傾げる。正直言って、火種を集め、どこかに供えるためであろう供物を探すなんていつの時代の野蛮人だよと思っているが、気になったのは、フュイナの過剰な反応である。この反応は明らかに異常だった。
「で、どういうこと・・・?」
カシイは取りあえず、何が起こっているか詳しく事情を聞いてみることにした。すると答えはフュイナの口からでなく、ヘレナの口から出てくる。
「3時、これから森は、危ないものばっか・・・、危険。普通、1時に行って、3時帰ってくる・・・。」
「なるほど・・・。」
要は元々1時に行く予定だった採集を行わず、3時になった現在でそのことに気が付いたというわけだった。しかし今行っても、先ほどのような危険な動物がウヨウヨといるから森に入るのが危険だということ。
カシイは右手で頭を掻いた。
「私、行ってくる・・・。」
するとカシイの横を通り、フュイナの横を通って家に向かっていくヘレナ。一瞬のことで唖然としているカシイは、即座にまずいと感じた。
しかしヘレナは家に入ろうとするとき、フュイナとカシイがいる場所に振り返って精一杯の大声で言う。
「だい、じょぶ! 私は、あの子達、友達だから!!」
「だめよヘレナ!! 戻ってきなさいっ!!!」
フュイナはヘレナの言葉に怒声に似た声で引き留めようとしたが、ヘレナはそれを聞かずに家に入っていく。そしてそれを追うようにしてフュイナが走っていくので、カシイもそれに続くことにした。
家に入りすぐ右手側に走っていったフュイナを追っていくと、地下に続く階段があり、それを下っていく。少し長い階段通路は、カシイの足音と、フュイナの足音が響く。ヘレナの足音が聞こえないことからしても、間に合わなさそうなことは、カシイ自身肌で感じていた。そしてその予想通り、階段を下った先でフュイナと共に息を整えながらあたりを見回しても、ヘレナらしき人影が見えない。
「ヘレナ・・・はぁ、はぁ。」
「これは・・・。」
フュイナは息を切らしながらその場でしゃがみ込み、カシイは置いてある機械に驚愕していた。
正方形の形をした、2mはあろうかというほどの大きさを誇る機械。その機械は、まるでLED電球のようにその正方形全体が真っ白に光っており、まぶしいと表現するしかなかった。
しかし微かに見える。その正方形の機械の扉が閉まっていき、中にヘレナが入っている。
(これが・・・、テレポサーバ!?)
カシイが驚愕で動けなくなっている間に、テレポサーバの扉が完全に閉まってしまう。ガシャン! という音が聞こえたのちに、掃除機で吸い込むような音が鳴り響き、そして一瞬でテレポサーバ全体から発されていた白い光が、飛び散るようにして突然消える。
瞬間的に静寂を取り戻した地下は、テレポサーバからの光が消え、薄暗い背景になる。フュイナは項垂れ、カシイは固まっていた。
「・・・・・・これは、どうするかフュイナ・・・。まずいよな?」
「まずいって問題じゃなく! 完全にやばいよカシイ君っ!!? どうしよう、ヘレナ行っちゃった!!!」
フュイナは焦るように(実際焦っているが)勢いよく立ち上がり、目の前のテレポサーバに向かう。
「ヘレナちゃんが言ってた、お友達ってどういうことだ?」
疑問に思ったことをフュイナに聞いてみる。フュイナはテレポサーバを起動しなおす準備をしながら、その詳細を話した。
「基本的に、採集はヘレナと一緒に行ってるんだけど、私が供物採集してる間に、ヘレナが火種採集してて、その時によく”ガゼーデ”や”ムシトリドラゴン”とかの獣たちと親しく触れ合いながら採集してるのよ。驚くことにね、その中には神獣がいたりもするからすごいったらもう。本人が言うにはあの森の動物とは全員お友達になったって言ってたのよ。」
(それはもうすごいとかの領域じゃないよな・・・。)
「じゃあ、そんな危険じゃないんじゃないのか?」
カシイがそう問うと、フュイナは苦虫を噛んだような表情をする。
「いえ、あそこの森の獣たちは、3時以降になると急に凶暴化するのよ。原因は分からないんだけど、習性なのかしらね・・・。だからあそこに3時以降侵入するのは危険なのよ。それをあの子ったら・・・、早く助けに行かないとまずいことになるの。」
フュイナは起動準備してる中、表情を暗くし、落ち込んでしまう。カシイもこの話を聞き、危機感を感じていた。
「じゃあ、このままじゃヘレナちゃんは・・・。」
(最悪死んじまう可能性だってあるのか・・・?)
フュイナは小さく、コクンと頷いた。
カシイは立ったまま顔を床に向け、項垂れるような格好になる。実際問題、ノルマとやらを終わらせる余裕を無くしてしまったのには自分に責任があると、カシイは感じていた。
(俺のせいだな、俺がこの人たちに迷惑さえ掛けていなければ・・・。くそっ!)
カシイは顔を勢いよく上げる。するとタイミングよく、テレポサーバが起動した。ゴゥンゴゥンという音がした後、テレポサーバの扉が開いた。
「よし、これでいける! カシイ君ちょっと待ってて! 今ヘレナを連れ戻しに行ってくるから!!」
そう言ってフュイナが勢いよくテレポサーバ内に入ろうとしたとき、フュイナの手をカシイは強く握る。
「え・・・?」
食い止めようとして握った左手は決して離さないようにして、カシイはフュイナをテレポサーバ内から引き出すように引く。
そしてフュイナを出した後、カシイはテレポサーバを見つめ言った。
「俺に、行かせてくれないか・・・?」