STATE1 もしかして俺、死ねないの・・・? その1
「カシイ君は、なんであんなところに倒れてたの?」
先ほどカシイと名乗った男と、大人びた女性、ヘレナと呼ばれていた少女は、食事のため、三人で食卓を囲み食事をしていた。そんな中女性は、カシイに向かって、そんなことを聞く。しかし、そんなことは、本人もさっぱり分からないわけで、
「いや、あんなところと言われても、どこに倒れてたかすら分かんないし・・・。」
カシイは困ったように引きつった表情で返す。よくよく考えてみると、死んだはずの自分がこの摩訶不思議アドベンチャ―世界に強制送還された理由がよくわからないままのカシイだが、やはり考えないようにしているらしく、先ほどよりはすっきりしているような顔立ちになっている。
「・・・不思議。カシイ兄ぃ、路上に、倒れてた・・・。」
ヘレナの言葉に、カシイはさらに引きつった表情を浮かべる。
(路上て・・・。行き倒れみてぇじゃねえか・・・。てかなんだよカシイ兄ぃって・・・。)
急に黙り込んでしまったカシイに対して、女性は少しバツが悪いような表情を浮かべた。女性は、話題転換を試みようと、ヘレナの頭に手を乗せ、表情を明るくする。
「そ、そうだ!! まだ名前、言ってなかったものね!! 私の名前は、フュイナ。フュイナ・アルビナ・エルパーソンで、この子はヘレナ・バルテラ・エルパーソン。私の妹よそう言えば・・・、カシイ君って勝手に呼んでたけど、カシイ君で、よかったよね?」
「ん? あぁ、別に構わないけど・・・。あの、ちょっと質問が。」
カシイがそう言って手を挙げる。フュイナは笑顔でその先を進めるが、カシイは正直、この質問を投げかけるのに迷いを生じさせていた。
「・・・・・・ええっと。正直言いづらいんだけど・・・、」
ヘレナとフュイナは同時に首を傾げた。
「ここ、一体どこ・・・?」
「「・・・はい?」」
二人は、突然のことに呆けた顔をしてカシイを見やる。その視線に、カシイはだから言いたくなかったんだと言わんばかりに羞恥していた。
「まるで目の前にアホがいるようだっていう顔するのやめて!? 自分でも意味分かんねぇ質問してると思ってるからっっ!!」
「だってそうでしょー!? いきなりここどこって、頭おかしくなっちゃった人かと思ったじゃん!!」
「キチ、ガイ・・・。」
(なんで事実を言っただけでこの言われ様!! いや確かにそうなるけれども!!)
カシイはすごく失敗したような苦い顔を浮かべて頭を抱える。
すると、その様に少々悪気を感じたのか、フュイナは焦った顔でカシイを見た。
「あ・・・、ごめん。いやそりゃあ、あなたがあんなことを言ったのが原因だけど、そんな困った顔されると・・・。」
「私、も・・・、悪かった、です。」
「い、いやいいけど・・・、質問、答えてくれないかな?」
カシイはそう言って謝りだしたフュイナとヘレナに対して片手で止める様促し、改めて催促。そうすると二人は顔を合わせて心底不思議がったような顔をしたが、今度は即答した。
「ここはセルバート聖国・ゼルキア区。セルバート聖国の一番右端にある区画よ。」
カシイは冷や汗を頬に流した。先ほど考えないようにしようとしていた事柄が、カシイの思考に、執拗に浮かんできた。
(やっぱりここは俺の知らない場所・・・。ということは、つまり・・・、俺はあっちで自殺した後、何らかの手段でここに運ばれた・・・? いや、俺は自殺したって今思ったじゃないか。・・・なら、それって・・・。)
カシイはそこで、信じがたい想像を思い浮かべようとした。
「カシイ君? どうしたの?」
しかしフュイナの声で思考が絶たれ、カシイは視線をフュイナに合わせる。
「あ、ああ・・・。大丈夫、ありがとう。」
(さっきも決めたじゃないか・・・、今は止めよう・・・。考える時間ならいくらでもあるはずだ、きっと・・・。)
カシイはそう考えると、席を立ち、外を見る。外は相変わらず空が青と橙で二分されており、ドラゴンやらなにやら分からない生物が、群れを成して飛んでいくのが見える。
「? どうしたのカシイ君? 外なんか見て・・・。」
「いや、ちょっと、外に出てみたいな、と思って・・・。ごちそうさま。おいしかったよフュイナさん。」
そう言って食器を流し台に置き、フュイナに再度向き直った。
「玄関、どこ?」
「ああ、出たところを右に曲がって、突き当りを左に」
「そっか、ありがとう・・・。」
即座に礼を返すと、カシイは早足で玄関に向かう。
「カシイ君!! 外に出るのはいいけど、気を付けてね!! 外には」
バンッッ!!!
しかし、フュイナの忠告を聞くこともなく、カシイはすぐさま玄関のドアを開ける。
すると・・・、
「ギギャアアアアアアアァァァァァァァァァッッ!!!」
そこには、自分の三倍はあろうかと思われるサイズのドラゴンが、口を大きく開けて、カシイに対して大声で鳴いていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
ガチャンッッ!!
カシイは、黙ったままドアを閉める。頬には大量の冷や汗を垂れ流し、全身がシバリングしているようにガタガタと震えていた。
「外には私たちが飼ってるムシトリドラゴンがいるから! 勢いよくドアを開けたりして脅かしちゃったら食べられかねないからねっ!!」
「先に言ってよフュイナああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?? あああああ怖かったああああああああぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
カシイはその場でしゃがみ込んで勢いよく涙を流していた。