STATE3 待っていたチュートリアル その2
早朝5時13分。
外は変わらずに青と橙に二分され、夕日と青空を両方見渡せる。
そんな中、カシイはフュイナとヘレナの家から少し離れた丘に立っていた。
と言うにも、昨日は疲れからか休むことにしたのだが、予定よりも相当早く目が覚めてしまったので、気になっていることを消化したくて外に出たのだ。
「朝も夜も全く変わんない空ってどうよ・・・」
カシイは早速左手を薙ぎ、メニュー画面を開く。最早手慣れたもので、早々に装備欄を開くと、その光景を再度眺める。
「また見ても、やっぱりすげぇなぁ・・・」
そこからカシイはいったん止まり、長考を図る。
まず調べるところと言えば―――
(全装備の確認を、するか・・・)
そしてまずは、片手剣の欄へと指を這わせる。
片手剣だけでも眺めると相当の数があり、上の種類別の個数を見ると、三桁にまで達していた。
「・・・・・・・・・・・・・・」
(まずは、どの装備にするかを決めよっか・・・)
カシイはそっと、全種類での最も威力が高い武器に焦点をあてて操作を開始する。
まず1つ目。
「片手剣の・・・、"神器・ローウェンハイム"か・・・」
カシイがローウェンハイムの名前をタップし、ステータスを確認する。
ステータス的には多いのか少ないのかが全く分からない。攻撃力が2810と書いてあるのが果たして本当に高いのかどうか分からない。しかし、重さの欄には910と書いてあり、一番最初に出した双剣の重さと比べると、明らかにこちらの方が重いことに気が付く。
「これは、うん。持てないな・・・」
持てないものは仕方がない。取り敢えずウィンドウの右上にある×ボタンを押し、ローウェンハイムのステータスウィンドウを消す。
「・・・じゃあ、一番弱い武器って、どんな攻撃力してんのかな・・・?」
当然の疑問を浮かべるカシイは、威力が一番弱い武器に焦点を置き、片手剣の武器"ヒノキボウ"をタップしてステータスを眺める。
「うわぁ・・・、月と鼈じゃん・・・」
カシイの目の前のウィンドウには、攻撃力50と書かれたステータスが表示される。重さも1と、誰でも持てるような、言えば本当に最弱と言ってもいい武器。これで大体の武器スペックの見方が分かってきたというもの。
そしてカシイは、いよいよやる気を出すかのように、大きく息を吸って吐いた。
「すぅ・・・、はぁ・・・。よし! やるぞ!!」
取り敢えずの目標はさっきのように、現在装備できるもので最強のものを、種類別でみるというものだ。相当時間がかかること請け合いなのだが、ここは我慢するしかないだろう。
「恐らくは、重さってのは俺のステータスの筋力にそのまま関係するとか、そんなもんだろうな。ステータスに重さとか言った欄がないから、そうとって構わないんだろうな・・・」
自分のステータスの欄にウィンドウを変えそう呟くカシイ。
ステータスには HP 32 、 SP 100 、 STR 60 、 MAT 55 、 DEF 50 、 MDF 50 、 AGI 40 、 LUK 10 とゲームで言う基本的なスペックが記載されている。しかし、重さという欄が何処にもない。
「ならやっぱまずは、片手剣から調べよう・・・」
カシイはそう言うと、集中するようにウィンドウを睨みだした・・・。
――――――
―――
―
午前7時35分。
カシイが青い顔をしながら、ウィンドウから顔を上げる。目を細くしているその顔は、さながらSEのような顔を彷彿とさせる。
「お、終わったぁー」
約二時間の死闘。武器を全て確認し、どれが現段階装備できるもので一番強いかを選定し、ついでに自分の防具の方も全て確認した。それを考えれば、二時間で本当に足りたのだろうかと思わなくもないが、兎にも角にも終わったのだ。
カシイはそう思いながら大きな大きなため息を吐く。
「えっと・・・、確認すると―――」
カシイは、あらかじめ置いておいたメモ用紙に視線を移す。
メモ用紙にはそれぞれ、自分が現段階で使えそうな種類別一番強い武器をメモされていた。
片手剣: "溶剣・アヴェンジャー" 重さ58 攻撃力420 付加効果: 火属性攻撃+60%付与
大剣: "峰剣・バサラグラス" 重さ60 攻撃力710 付加効果: なし
長刀: "影憂光永" 重さ60 攻撃力410 付加効果: 光属性攻撃+30%付与
刀: "晩刀・周作" 重さ59 攻撃力440 付加効果: 雷属性攻撃+50%付与
短刀: "ボウイナイフ" 重さ30 攻撃力400 付加効果: 一回攻撃したらHP500リジェネ効果
銃: "M1911A1" 重さ45 攻撃力350 付加効果: 貫通攻撃付与、強制5秒スタン攻撃付与
槍: "スポットランス" 重さ60 攻撃力445 付加効果: なし
斧: "ゾーイアックス" 重さ60 攻撃力660 付加効果: 貫通攻撃付与、時々混乱攻撃付与
杖: "スペアスタッフ" 重さ55 攻撃力110 付加効果: 全攻撃魔術威力+50%
弓: "神器・ホーリーアロウ" 重さ10 攻撃力1980 付加効果: 矢威力+100%・DEF-80%・MDF-80%・LUK-60%・AGI+60%・光属性攻撃+100%付与・全魔術構成時間-50%・敵から受けるダメージ+100%
「・・・・・・」
カシイはしばしメモの欄を見ると、丘の向こうを遠い目で眺めることにした。
「これさ・・・、ひとつだけ、神器ってあるのに・・・、特殊効果怖いよっ! なにこれっっ!!?」
"神器・ホーリーアロウ"
ベアトリスの過去の話に出てきた、マーマロープ・グレッシュバーンが持っていたとされる弓。弓装備の中では恐らくトップクラスの威力を持ち、放たれる弓の威力が倍になるという、まさに神器にふさわしい武器。弓装備の頂点に位置する神のような武器。
しかし、カシイはこの弓を見て、最初に不吉な言葉を頭に浮かんでいた。
"表裏一体"
まるでそうであるように、良い部分もあったら当然悪い部分もある。
そう、ある意味この武器は、良い意味でも悪い意味でもバランスが取れているのだろう。
しかしこれはまさに―――
「極端っ! 極端すぎるっっ!!
攻撃力も中々いいし威力が実質2倍になるし重さが驚異的に軽いしAGI上がるし攻撃したら光属性つくし魔術構成の時間半分になるし流石神器だよっ!? でもさ! 全体的に守りが絶望的だよ!!? DEF、MDF-80%とLUK-60%ってお前っ!
これ素直に言えよ! 当たったら終わりって言えよあぁっ!?? LUK-60%というところで多分相手へのクリティカルダメージも見込めないし! なにこの背水の陣!? なにこの脳筋武器っっ!!?」
要はこの武器、受けて耐えるのではなく、隠密性、ないし回避のみで攻撃を耐え続けることを主軸に置いた武器なのだろう。この武器を装備した時点で相手の攻撃を受けると、8割ほど自分の防御を無視したダメージを受け、さらに記述から察するに、それのさらに2倍のダメージを受ける計算となる。
つまり、ダメージを受けても耐えられるという思考が、完全に排除された武器。
一撃受けたら終わるということ―――
「・・・これは、ちょっとやめようかな・・・?」
しかし、カシイには、このメモでダントツである攻撃力が、未だに諦めきれないカシイの未練を繋ぎ止めている。
取りあえず、メモに書いた装備を一度出してみようと思い、カシイはウィンドウから躊躇いがちに弓装備欄のホーリーアロウをタップした。
ブォォンッッ!!
出してみると、中々どうしていい形をしていた。
まるでドラゴンの鱗や爪をそのまま埋め込んだかのような弓の装飾は、かなり興味をそそられる作りをしている。それに全体を光らせているようなミント色をしていて、真ん中付近の持ち手は、きちんと持ちやすいように茶色のグリップが施されている。
そして驚きなのはその軽さ。最強の弓であるのにもかかわらず重さが10という表記に対して若干の不信感を抱いていたカシイは、羽のように軽いその弓を、振り回すように扱う。
総合的にはぜひとも使ってみたいと、心中ゾクゾクとしたカシイ。
「ぐぐっ・・・」
そしてカシイには、未だに諦めきれない理由がもう一つ存在していた。
それは―――
(俺、今までやってきたRPGとかFPSとかって、弓がもし使えたら絶対弓使ってたんだよなぁ。)
生前、入っていた部活は弓道部とアーチェリー部の掛け持ち、部屋に帰るとゲームで弓を扱い、小さい頃は新聞紙と輪ゴムで弓を作って遊んでいたカシイ。今まで弓があれば使うというのは、半ばプライドに近いノリだったのだ。
しかし今この状況でのこの弓は話が全く違う。
「でも、これだもんなぁ・・・」
ならば武器を違うものにして頃合いで変えるとか、危なくなったら途中で武器を交換しろよとか、そう考えるだろう。普通ならばそうするだろう・・・。
しかしカシイは違う。いままでのプライドがそうさせるわけにはいかなくなる。
FPSゲームで同じ銃器しか使わないように―――
RPGゲームで同じ武器しか使わないように―――
それはまるで呪いのように、目の前にあればそれを使うしかなくなってしまう。
そして、カシイは気付いているのだ。この弓をメイン武器として一度使ってしまえば、自分は今後メイン武器としてこれしか使ってこないんだろうと―――
「・・・・・・いやいや、もうこれしかないでしょ・・・」
カシイは答えを決める。
手に持つホーリーアロウを、力強く握りしめるように。
「・・・まぁ、当たらなければね、どうということは・・・。それに俺にはセーブとロードが出来るんだっ」
あらかじめ見ていた防具から、弓が使いやすいかつ防御力が出来るだけ高い今段階で装備できる防具を装備し、ホーリーアロウと、そしてサブ要員として、意味がないと思いつつもリジェネ効果で回復が見込めるボウイナイフを装備した。
「これで・・・、よしっ!!」
右肩に銀色の肩パッドをつけ、黒色のシャツの上に水色のコートを着用しつつ、下はおうど色のズボンを穿く。靴は膝まで届きそうな黒いブーツで、頭には青いゴーグルを着用している。
腰には、少し大きめの短刀"ボウイナイフ"。背中には背負うように青い色をした弓"神器・ホーリーアロウ"。
何とかそれらしい服装となった。
「準備はこれでいいな。」
カシイがゴーグルの隙間から出ているアホ毛3本を揺らしつつ自分の格好を見てそう呟くと、遠くから何とも高いソプラノ調の声が響いてきた。
「ユウヤくーん!! こんなところにいたのぉー?」
フュイナの声だ。
そうカシイは思い、フュイナの元へ歩き出す。
「ちょっ!? ユウヤ君っ!? なにその恰好っ!!?」
「あぁ、これは・・・、まぁ要は、本気出したってこと。」
「えぇ??? 意味が分かんないよー!」
そうしてカシイは、フュイナとヘレナの家へと戻っていく。
現時刻は7時54分。
セルバート聖国へは、この日10時30分に、フュイナとヘレナと白瀧を連れて出るつもりである。
カシイは、振り返って先ほど自分がいた丘を見やる。青と橙が彩る空には何ともぴったりな、美しい緑であった。
「さて・・・」
(行くかっ!! セーブとロードができる、現実ゲーム開始だっっ!!)