STATE3 待っていたチュートリアル その1
「つまり、この魔術って本来は体内魔術だったってことか・・・」
「そういうこと。だからユウヤ君がその魔術を使えてることが、本来はおかしいの。普通なら発現するなら体内魔術としてなはずだし。どういうことなんだろう?
それにしても、この子可愛い~!」
フュイナが空中に左人指し指を這わしているカシイを見ながらそう言い、いつの間にか白瀧を抱き抱え、毛を一心不乱に撫で回している。
その優しくかつ忙しない動きで、白瀧は最早言葉もない。
「きゅる、きゅるるぅ~」
「白瀧、気持ち、よさそー」
とりあえず左手で自分にしか見えないメニューウィンドウを操作するカシイ。とりあえずはセーブをするためSTATE3に記録を済ませ、その後は一通りを眺めるように確認する。
「なっ―――」
そこでカシイは目を見開いて唖然した。その声は大きく、フュイナとヘレナがビックリしたようにカシイを見る。
「どう、したの? カシイ兄ぃ?」
しかしその声は届かず。
カシイはひたすらに、電子マップを眺め続ける。
それもそうだ。
今カシイが見ているのは装備の欄。その欄には、衝撃的な光景が広がっていた。
(欄のどこにも、空欄が・・・ないっ!?)
装備欄には、個々の武器にあわせて窓が用意されていた。おそらくそこに、種類別に手に入れた装備などを入れるのだろう。
しかしカシイの個々のウィンドウは隙間が全くないぐらいに、装備品が乱立している。
(これさひょっとして、いやひょっとしなくても間違いなく・・・)
「装備が・・・、初期フルコンプ状態っすか!?」
さすがに少し混乱を見せるカシイ。
しかしこの摩訶不思議チート状態を知ってか知らずか、ヘレナは首を傾げていた。
「そうとわかれば、さっそく確認だっ! よっしゃあこれもう初期最強武器装備確定っすよ先輩っっ!!」
「ねぇヘレナ。ユウヤ君、大丈夫かな・・・? 私、心配になってきたよ。早計かな?」
「お姉ちゃん、大丈夫。その心配は、十分に、遅い、から・・・」
「失礼なっ! 俺は通常―――」
カシイはそこで、タップして詳細が表示された装備を見る。そこには、些か見逃せない項目があった。
それは―――
「重さ・・・?」
そう。つまりはこういうことだ。
装備したけりゃ持ってみろよ、と・・・。
「やってやろうじゃねぇかぁぁっっ!!」
「・・・ヘレナ。もうダメみたいね・・・」
「カシイ兄ぃ、壊れ、てる。もう少ししたら、治るかな・・・?」
最早遠い目をしている二人は、もう放っておこうと言うように、黙って白瀧を撫で回す。
「ちょ、もう妾を撫で回すのはやめ、はうぅ」
抵抗しようとした白瀧は、しかし2つの力に押さえつけられる。しかし満更でもないように、好きなように撫で回される。もう諦めたのかもしれないが、気持ち良さそうな顔は、いやがってないことの現れだろう。
「ちょっと、出してみるか」
カシイはウィンドウをタップし、重さ890と書かれた"神器・ツインガブリオン"という名前の短刀を出してみることにした。
ブォォンッ!
音と共に、カシイの前に現れたツインガブリオンは、明らかに双剣であり、その長さはせいぜいサバイバルナイフの3倍程度。綺麗な橙色をした柄に、宝石が散りばめられた鞘。抜き身はさぞ透き通るような色合いをしているのだろう。
―――しかし、
ドスンッッッ!!
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「落ちて、きた・・・?」
(重っ!? いやいや! 手に収まるように出てきたのに! 掴もうとしたら重すぎて手離しちまった!?)
下を見るとなんと、ツインガブリオンの下の床から少しのヒビが入っている。まさかここまで重いとは思っていなかったカシイは、苦笑いを浮かべるしかない。
「な、ユウヤ君っ!? い、いきなり空中から武器がっ!??」
「っ!? 何事かっ!?」
「おー、カシイ兄ぃ、マジック、すごーい」
そう、カシイしか電子マップウィンドウが見えないのだ。フュイナ達には突然武器が降ってきただけにしか見えていない。
「いや、これは、その・・・」
とりあえず返答に窮したカシイは、出てきた武器を即座に装備欄にしまい、その場からツインガブリオンを消した。
「すごい、カシイ兄ぃ。次は消すマジック・・・!」
「いやいや! マジックにしては種も仕掛けもなさすぎでしょ!? ユウヤ君っ!! どうなってるの!?」
「・・・、ふん」
フュイナがカシイに問い詰め、ヘレナが羨望の眼差しを向け、白瀧はそっぽを向いて傍観。かなりカオスティックな光景にカシイは目を回しそうになりながら、左手を薙いでメニュー欄を閉じた。
「さ! まぁ今日はもう遅いし、休むか!」
「ちょっとユウヤ君っ!!?」
(とりあえず、疲れてるのは事実だし、明日考えることにしようか・・・)
カシイがそう考えて、地下室をあとにしようとした。
その時、袖が引っ張られる感覚がある。振り返ってみると、そこにはヘレナがいた。
「カシイ兄ぃ、ありがと・・・」
その笑顔はとても暖かく感じられて、カシイはそれに対して、自然に笑い返していた。
「ちょっとユウヤ君! 無視すんなぁ!!」