表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無双剣士の異世界魔王討伐  作者: 紫 魔夜
第一章 冒険の始まり
9/132

魔法

第八話。今回も定番のものが登場。

 宿屋に戻った狼刀(ろうと)は、ドルフィンを連れ、天軍師(てき)のいる屋敷へと向かった。

 町の中央にある一番大きな屋敷である。

「さあ、倒すわよ!」

「あぁ、行こう」

 それぞれの武器を構えて、二人は屋敷の扉を開けた。中から飛び出したのは、大量の虫。視界を覆い尽くさんばかりの大群だ。

 狼刀は攻撃を(かわ)しながら、竹刀を振るって、虫を消滅させた。ドルフィンは攻撃を受けながらも、身体より大きなトライデントを振り回して、虫を薙ぎ倒している。

 しかし、大群は一向に減らなかった。


 ◇


「キリがない!」

 減らないことに耐えきれなくなったドルフィンは奥の手を使うことを決めた。後ろに下がり、距離を取る。

 奥の手は、発動まで少しばかりの時間が必要だ。やるなら、狼刀が敵をひきつけている間しかない。

 杖を天高くかかげ、詠唱を始める。

()ぜろ ()えろ ()()くせ 優雅(ゆうが)に 情熱的(じょうねつてき)()(おど)れ ()魔力(まりょく)(かて)として (にじ)(ほのお)具象(ぐしょう)せよ」

 屋敷を取り囲むように、魔法陣が展開される。

「ロート、よけて! こいつら一気に片付けるから」

 狼刀は軽く頷くと、後ろに下がり、木の陰に隠れた。

 ゆっくりしている暇はない。狼刀が射程外にいることを認識して、ドルフィンは魔法を発動させる。

爆焔大魔法(エルマニリス)

 魔法陣から虹色の爆焔が噴き出した。激しい爆焔が屋敷を包み、虫を焼き尽くす。直接喰らわなかった虫達も、熱に当てられ溶け落ちた。

 爆焔の中で、屋敷が崩れていく。

 魔法により発生したすさまじい熱によって、周囲の建物や木も少し溶けていた。

 ――予想よりも威力が強い。狼刀にもダメージを負わせてしまっているかもしれない。

 ドルフィンはそう思って狼刀の方を向き、驚愕した。

 狼刀の周囲の建物や木が、わずかだが溶け出している。狼刀のいる場所も、多少はなにかあるだろう。なのに、狼刀は何事もないかもごとく――驚いて固まってるようにもみえるが――その場に立っていた。

 ドルフィンは状況を理解して一言。

「すごい……」

 そう呟いた。


 ◇


 狼刀は、状況が理解できずにいた。

 ドルフィンが何か呟いたと思ったら、突然、屋敷がまるで(・・・)爆発したかのように崩れ、虫達が次々と消えていったのである。

 その後、遅れて現れた炎が屋敷を包む。包み込んで燃えし、焼け落とす。これが、この世界における魔法。

 狼刀はそう理解した。

 メラメラと燃える赤い炎は建物を容赦なく焼き尽くす。木製の屋敷ではないのだろうに、火の勢いは衰える気配がない。

 狼刀は思わず声を発していた。

「すごい……」

 と。


 爆焔が屋敷を焼き尽くして消える。

 そのタイミングを待っていたかのように、それ(・・)は、瓦礫の中から出てきた。

「すごいとは、誉め言葉ですかね?」

 そのセリフは、どちらの発言に対してのものなのか。あるいは、どちらに対してもなのか。それ(・・)以外には知る由はない。

 それ(・・)は、シルクハットに燕尾服、右手には杖。紳士のような服装をしており、瓦礫の中から何事もなかったかのように出てこなければ――それこそ、町で普通に生活していたら――人間としか思えなかった。

「それにしても。いきなり、爆焔(ばくえん)魔法で屋敷ごと燃やすなんて、ひどいじゃありませんか」

 爆焔魔法とそれ(・・)は言い切った。爆焔というと齟齬(そご)をきたすような気がしたが、魔法ということで狼刀は納得した。

 それ(・・)が不気味な笑みで、狼刀を見つめる。光の灯っていない暗い瞳と目が合った。狼刀は金縛りにあったかのように動けなくなってしまう。

「まあ、今回はその力に免じて引きましょうか」

 それ(・・)は、深々と頭を下げて、消えた。


 その夜。アレスコでは宴が開かれた。天軍師を退けた二人は町を救った英雄としてもてなされた。釈然としなものを感じながらも、二人は宴を――少なくとも表面上は――楽しんだ。

 そして夜が明けた。


 狼刀は、早朝――町の人やドルフィンが目覚めるよりも早く町を出た。目的地があったわけではない。ただ、あの町にはいたくなかったのだ。

 西へ向かって歩いていると――北側と東側は海だったからというだけだ――狼刀は洞窟を発見した。丸いドーム状の洞窟だ。どこかに繋がっているというわけではないだろう。どちらかといえば、重要アイテムの眠るダンジョンといった趣だ。

 吸い込まれるように中へと入っていく狼刀は、立て札に気づかなかった。

「ミーに何かようデースか。人間」

 洞窟の中央に、蜷局(とぐろ)を巻いた巨大な蛇が鎮座していた。

 狼刀は蛇の問いに答えることなく、斬りかかる。大蛇は微動だにしない。けれど、狼刀の竹刀は届かなかった。体に群がる大量の蛇によって、動きを封じられたのだ。足を取られ、狼刀は地面に倒れてしまう。

「ミーの子供たちデース。あっという間に、立派な戦士に成長したのデース」

 狼刀は、竹刀で抵抗を試みるが、数の前に終始押され気味であった。次第に、体の自由が利かなくなっていき、意識が遠のく。痛みはないが、体には力すら入らなくなっていた。

「はっ……」

 自嘲気味に笑って、狼刀は静かに目を閉じる。

 思い出すのは、自分の最初の死についてだ。


 結城(ゆうき)狼刀は高校二年生。剣道部に所属しており、その実力は全国レベルだった。

 趣味は、テレビゲーム――特にアクションRPG――とアニメ。

 特別裕福ではないが、貧乏でもなく。家族の仲も悪くない、そんな家庭で過ごしていた。

 死の要因となったのは、ゲームをしながら「死んだら異世界に転生できるかな」と言った狼刀にたいして妹が、「やってみれば?」と、言ったことである。

 売り言葉に買い言葉。「やってやる」と言い残し、狼刀は二階にある自分の部屋の窓から飛び降りた。

 そこまでの記憶を取り戻した。


 願いは叶っていた。そう思ったとき、狼刀は四度(よたび)異世界へ旅立った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ