襲撃者達
第五十九話。その目的はいかに。
ステイマーが王の間へと姿を現した頃、すでに地下牢獄へと襲撃が始まっていた。襲撃者は、隠し扉を破壊し、暗い道をものともせずに、突き進んでいる。
突然の襲撃だが、クエラは驚かない。
元よりこのような非常事態のために守っているのだ。ここで務めを果たさねば、クエラはいる意味さえなくしてしまう。
「おや。番人がいましたか」
襲撃者は、雷を纏った神官だった。
「俺はフォルゴレ。神官ゆえに家名はない」
神官――フォルゴレは剣に雷を纏わせ、持ち上げる。
「自分はクエラヴォス。あなたと同様に家名はありません」
クエラヴォスは張り合うように答え、剣を構えた。
「でも、ここは通しませんよ」
命に変えても、とは思うだけで口にしない。
それでも、その決意だけはしっかりと固めて神官と相対した。
◇
「捕らえた神官たちは地下牢獄であったな?」
やっとのことで追いた狼刀に、セイントが声をかける。
「はい。地下牢獄です」
「わかった」
狼刀が頷くと、セイントは並走をやめた。
両手で剣を持っていて走りにくいようにも見えるが、狼刀よりははるかに早い。
「先に行かせてもらうぞ」
「お願いします」
頭を上げたころには、セイントの姿は見えなくなっていた。
「速いなぁ」
鎧を着て、大きな剣を持った状態でもそれだけの速さなのだ。追いつくことは不可能だろう。
だからといって、狼刀は歩かなかった。
少しでも差を縮めようとして、速度を上げる。
その目の前に、鎧が立ちふさがった。
「――――」
声にならない声を上げて、鎧は持っていた槍を振り下ろす。
狼刀は二本の刀で受け止めた。
「くっ……」
重たい一撃ではあるが、そこに力強さは感じられない。
狼刀は槍を弾き返した。
鎧が後退りする。そこへ間髪を入れずに突きの一撃。
刀は通らずに、弾かれる。
「――――」
距離が開いて仕切り直しとなったところで、別の声になりきらない叫び声が狼刀の耳に届いた。
振り返ると、そこには槍を振り下ろさんとする鎧が一体。
狼刀は横に転がって振り下ろしを回避した。
「――――」
「――――」
二体の鎧が、狼刀を挟み込むように動き出す。
「…………」
狼刀は立ち上がらずに、膝立ちで鎧の動きを観察した。
鎧を着た人の動きではない。だが、鎧が勝手に動いてるという動きでもなかった。この世界に存在するのかはわからないが、鎧を着たロボットと言われれば一番納得出来るかもしれない。
「――――」
距離が近かったほうの鎧が槍を振り上げた。狼刀は槍が振り下ろされる前にその足を払う。
鎧は体勢を崩し、そのまま後ろに倒れた。
鎧は金属音を響かせながら手足をばたつかせるが、起き上がれない。
「なるほど……」
もがく鎧を見下ろしながら、狼刀は笑った。
「――――」
もう一体の鎧の振り下ろす槍を受け止め、押し返す。弾くのではなく押し返すことで、鎧の重心を後ろに傾けたのだ。
派手な金属音をたてて、鎧は床に倒れた。
じたばたと足掻く二つの鎧だが、立ち上がる気配はない。立ち上がれないのだと、狼刀は理解した。
「――――」
新たな鎧が現れる。それも一体ではなく、廊下の両側に三体ずつの計六体。槍を持った全く同じ形の鎧だ。
その鎧は、狼刀が初めてデュース城を訪れた時からあるものだった。それも、この場所だけではない。
城の至る所にある、鎧のオブジェだと思われていたものだ。
「ったく。きりがないな」
その数を思い出し、狼刀はため息をこぼした。
◇
王の間に残った神官はハーティルが展開した魔法を破壊すべく、攻撃を重ねる。だが、斬りつけるだけの単調な攻撃で防砦魔法は破れない。
「無駄だよ」
「そうみてぇだなァ」
魔法の破壊を諦めたのか、神官はハーティルと向かい合う。
「ザルク・イーガンだ。手短に死んでくれやァ」
床を蹴って、ザルクが飛んだ。
「邪教徒風情に負けはしない!」
ハーティルは防盾魔法を発動し、錫杖を構えて神官を迎え撃った。
鉄と鉄が激しくぶつかり合う。
「イーガン、だと?」
戦う二人には、ミソロギの小さな呟きは聞こえない。
「……わかりました」
戦う二人と考え込む一人には、サマルカンドの会話は聞こえていなかった。
「オラオラオラァ!」
ザルクは二本の武器を激しく振り回す。
「くっ……このっ……」
ハーティルはその攻撃を魔法の盾と錫杖で防いだ。
だが、ザルクの攻撃は止まらなかった。
後ろに引いた右手から放たれる鋭い突き。
その攻撃を錫杖で打ち払い、振り下ろされる左手の攻撃は魔法の盾で受け流した。
がら空きになった胴に錫杖を突き刺す。
ザルクは右手を引き戻し、攻撃を受け止めた。
そうなれば隙が生じるのは、ハーティルのほうだ。左手による攻撃は防げない。
後ろに飛んでも、躱しきることは出来なかった。
「くっ……」
腹部が浅く斬り裂かれる。
ハーティルは錫杖で反動をつけて、距離を取った。
「回復魔法」
傷は回復魔法を使えば一瞬で治る程度の浅いものだ。魔力の関係もあるから無制限とはいかないが、この調子ならまだ戦える。
問題は敵に攻撃が届かない点だ。
今の短い攻防の中で、ハーティルは実力差を痛感していた。自分が力尽きるほうが先だろう。ハーティルはそう考えていた。
その予想は間違っていない。
ただしそれは、ハーティルが一人で相手をしていたのならばだ。
「譲渡魔法」
ミソロギが魔法を発動させる。ミソロギとハーティルの体が僅かに光った。
「僕の魔力をあげます? 魔力は気にせずに存分に戦ってください?」
ミソロギが丁寧に魔法の説明をする。
それを聞いて反応を示したのはハーティル――ではなくザルクだ。口角を上げて、ミソロギへ向かって走り出す。
「なら、てめぇからやるだけだァ」
ザルクは腕を交差させて、飛び込んだ。
「無駄だよ?」
ミソロギは想創聖書から大きな盾を取り出して、その攻撃を防ぐ。
城壁の盾。
狼刀から見せてもらったものを再現したものだ。あくまで複製品でしかないので本物には劣るが、ザルクの一撃を受け止めるには十分だった。
「ちぃっ!」
追撃を諦め、ザルクは離脱をはかる。
その退路を厚みのある柵が塞いだ。城壁の盾の側面から伸びる柵は、生き物のようにうねりながら、徐々にザルクを囲い込む。
なお、本物の城壁の盾にはこのような仕掛けはついていない。
これが、想像さえできれば――無から想像するのは不可能に近いが――どんなものでも作り出すことが出来る想創聖書の真骨頂だ。
「くそっ」
中でザルクが破壊を試みるも、城壁の盾と伸びる柵はびくともしない。
「逃がしはしないよ? 僕の役目は時間稼ぎだからね?」
ミソロギはにっこりと微笑む。
彼はハーティルの力を知っていた。知っているからこそ、彼が活躍するために必要なことを理解出来るのだ。
「あ?」
ザルクの動きが止まる。
「任せてください」
ハーティルは清水を床に置いた。ザルクを中心として六角形を作るように、すでに五つは置かれている。
清水が仄かに光を放ち、光の線が溢れ出す。光の線は繋がり合い、床に大きな魔法陣を描き出した。
「逃げますよ? 王様?」
ミソロギが振り返る。
そこに、サマルカンドの姿はなかった。
「どこへ?」
疑問だ。けれど、今はそれを探求している場合ではない。近くにいないのならば、居場所を考えるのは後回しだ。
「疾風 旋風 暴風 心の奥底 真実の愛を求め 我が魔力を糧として 身も心も切り裂く風を呼べ」
ハーティルが詠唱を終えた時、ミソロギは王の間に残ってはいなかった。
「風刃大魔法」
魔法陣から風が発生し、渦を巻くようにしてザルクを閉じ込めた盾を包み込む。舞い上がり、天井まで届いた風は、内側へと進行方向を変えた。内側へと向かった風は、城壁の盾に衝突し、その表面を削り出す。
ザルクの攻撃では傷一つつかなかった盾を、風の刃は確実に削っていった。
城壁の盾だったものの破片が竜巻から飛び出す。
それも一つではなくたくさんの数が、全方向に向けて。
「防盾魔法」
ハーティルは等身大に展開した魔法で自分に向かってくる破片だけは防いでいた。




