ドラゴンと姫
第七話。RPGの定番? が登場。
洞窟の中は意外にも明るく、たいまつや周囲を照らす魔法みたいなものは必要なかった。必要だとしても、持っていないし、使えないのだが。
ゴツゴツとした荒削りな洞窟ではあったが、分かれ道はなく、トライデントを振り回しても通行に支障がないくらい道幅が広い。
多く出てくるのは、土竜や石竜子が大きくなったような魔物。他には地面から生えてる土の手のような魔物がいた。一つ一つは弱いのだが、仲間を呼び、増殖するのだ。
狼刀は竹刀、ドルフィンはトライデントを使い、ほぼ一撃で撃破していたが、数が多いのだけは大変だった。
宝箱のようなものはない。
通路以上の意味はないのだろう。
少しでも早く抜けようと狼刀が足を早めると、三叉路が現れた。二手に分かれているのでない。丫の字に分かれたまさに三叉路だ。
「さて、どっちに行くべきか」
「右よ。右」
立ち止まってゆっくりと考える狼刀と、一瞬立ち止まりすぐに結論を出して進んでいくドルフィン。
ドルフィンを無視していくわけにもいかない狼刀は、仕方なく、ドルフィンの後ろをついていく。しばらく進むと、奥から唸り声のようなものが聞こえてきた。
「ボスがいるのかよ……」
狼刀は強敵の予感にため息をこぼす。
「グルルルル……」
巨大な石竜子のような見た目で、背中には小さな羽を生やした――ドラゴンと呼ぶのがふさわしい――緑色の魔物と遭遇した。
ドルフィンは慣れた調子で三叉槍型の武器をドラゴンに突き刺す。道中、他の魔物にしてきたのと同じように。
だが、結果まで同じように、とはいかなかった。
「グルアアアア」
ドラゴンは怯むことなく、口から雷を放ち反撃してくる。ドルフィンは、翼に雷を喰らいながらも、突き刺さったままのトライデントを引き抜いた。ドラゴンから距離を取ったところで、着地する。
しばしにらみ合う両者。
その沈黙を破ったのは、狼刀だった。
「ドルフィン。トライデントを地面に突き刺して離れててくれないか」
ドルフィンは狼刀に策があることを理解したのか、言われた通りにトライデントを地面に突き立てた。
それを確認した狼刀は、ドラゴンに向かって走り出す。ドラゴンがどんな攻撃を用意してるかはわからないが、雷以外ならかわせる自信が狼刀にはあった。懸念材料であった雷への対策した今、狼刀がドラゴンに向かって突っ込んでいくのは、無謀ではない。ぶっつけ本番ではあるが。
ドラゴンは向かってくる狼刀に向かって、雷を飛ばす。雷は狼刀に真っすぐ向かっていき、頭上を通過した。その間に狼刀はドラゴンに肉薄し、トライデントが残した大きく深い傷跡に、竹刀を差し込む。
「グ、ルアァァ……」
わずかに呻き声をあげ、ドラゴンは消滅した。
「今、何が起こったの?」
ドルフィンはトライデントを回収し、狼刀に尋ねる。
狼刀は、避雷針についてドルフィンに説明した。避雷針。一般的には建物に雷が落ちないように設置するものである。といっても、異世界においては説明したところで理解はされない――はずだった。
「あー、誘雷柱の原理かぁ」
ドルフィンは納得したように頷く。名称は違うが、原理は同じだろう。異世界恐るべし。
ちなみに、この誘雷柱というのは天空民特有の技術であり、他の場所では基本的に通じないということを、狼刀は知らない。
異世界人と天空民達の誤解を解ける人間は、いなかった。
さらに言えば、雷が狼刀に当たらなかったのは誘雷柱――避雷針として機能したからではない。ドラゴンが外しただけ、つまり運が良かっただけだ。
もう一度同じ状況になった時に、同じようにいくとは限らなかった。
「あの」
少女の声が、ドラゴンのいた場所の奥から聞こえていた。少し遅れて、闇の中から少女が姿を現す。
黄色いドレスを纏い、鮮やかな赤髪には、銀の髪飾り。その姿は、少女というよりは姫といった方がふさわしいかもしれない。
「助けてもらってありがとうございます」
少女――もとい姫は、二人にお礼を言うと、一人で狼刀たちが来た道を歩いて行った。
狼刀とドルフィンはしばらく呆気に取られていたが、急いで姫の後を追いかける。
しかし、日が傾く頃になっても姫に追いつくことは叶わなかった。最初の城まで、いけるところは全て探したがどこにもいない。
諦めた狼刀は、日を改めて、先に進むことにした。
火の町アレスコ。鉄を打つ音と中央にある大きな屋敷が特長的な町だ。当然、現在は魔王配下の魔物によって支配されている。
といっても、他の町のようにいきなり襲われることはなかった。翼が癒えきっていないドルフィンを宿屋において、狼刀は情報収集を行った。
その結果、わかったことは四つ。
一つ、火の町アレスコ。ここを支配する魔王軍の幹部は、呪術に長けた天軍師を名乗る魔物だということ。
二つ、天軍師というのは、屋敷に住んでいた人の愛称であり、魔物が勝手に使っているだけということ。
三つ、町の住人は基本的に行動は制限されておらず、反乱を起こすことすら容認されていること。
四つ、この町にある唯一の絶対規則は不出。一度入ったものは決して出ることが許されないということ。
未確定情報ではあるが、実際に反旗を翻した人がいたのだとか。