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無双剣士の異世界魔王討伐  作者: 紫 魔夜
第一章 冒険の始まり
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ヒロイン登場

第五話。ついにヒロインが……?

 そして夜が明けた。

 狼刀(ろうと)はお礼の品として、城壁の盾というアイテムをもらった。あのゴーレムの一撃を一度だけ防ぐことが出来る硬さらしい。とても重くて、普段から装備して戦うということは出来なさそうだが、狼刀の頭には一つの使い道が浮かんでいた。


 柵に囲まれた荒野の一角・天空民(てんくうみん)の町ワラフス。狼刀は再びこの町を訪れ、機械で奇怪な巨大鰐――エンペラーダイルと対峙していた。

 エンペラーダイルは、どことなくホッチキスを思わせるような(あぎと)を薄らと開く。

「狩りに時間はかけない主義でな。我が必殺技を見せてやろう」

 エンペラーダイルはチェーンソー型の両手を地面に突き刺し、回転させた。繰り出されるのは、猛スピードの突進だ。

 狼刀はその攻撃を(かわ)しはしなかった。城壁の盾を突き出し、受けて立つ姿勢を取っている。

「そんな盾ごときで、我が必殺技を防げるものか」

 エンペラーダイルはその大きな顎で盾に噛みついた。が、エンペラーダイルは盾の硬さに負け、口から血を吐き出し後ろに倒れこむ。さらに、痛みのあまり、手で口を抑えようとして、よけいに傷口を広げた。

 魔物でも血がでるのか、などと的外れな感想をいだきつつ、狼刀はその隙を見逃さない。無防備にさらされた腹部に竹刀を突き立てる。

「あ、がが……」

 エンペラーダイルは悲鳴をあげ――口全体が大きなダメージを負っていたので声になりきっていないが――消滅した。

 狼刀は、遅れてやってきた吐き気に口を押えた。


 少し休むことで――吐き気はしたが吐瀉物(としゃぶつ)はない――落ち着いた狼刀が、改めて町を探索すると、あることが判明した。

 住人が一人もいないのである。建物が見当たらなかったことから予想していたことではあるが。

 狼刀は、村の最奥――(ほこら)のような場所にたどり着いた。

 木で造られた小さな祠と石の台座。その台座の上に、お供え物のような形で、橙色の石が置かれていた。手に取って観察してみるが、石の正体はわからない。

 ふくろにしまわず、台座に戻すと、真上から声が聞こえてきた。

「あんた何よ」

 狼刀が見上げると、翼を生やした裸足で白――少女がいた。

 狼刀は無言で正面を向く。

「なんで無視すんのよ」

 狼刀の反応がお気に召さなかったらしい少女は、狼刀の目の前に降りてくる――謎の石の上に。

「あっつ!」

 少女はその石の熱さに驚き、飛び上がり、コントロールを失ったように狼刀の後方に墜ちた。

 狼刀は少女に近づくと、そっと手を差し出す。少女は起き上がり、狼刀の手を取ることなく立ち上がった。というより、背を向けていたので、差し出された手に気が付かなかったのだろう。狼刀は、少女が振り返るよりも早く手を戻した。

 少女は狼刀を見つめ、改めて問いかける。

「あんた何よ」

「俺は結城(ゆうき)狼刀だ。魔王討伐の旅をしてる。君は?」

 狼刀は簡潔に自己紹介を行い、少女へと問いかけた。少女は値踏みするように、狼刀を観察してから答えた。

「あたしはドルフィン。偉大なる天空民、最後の生き残りよ」

 天空民。看板に書いてあったことと一致している。

 狼刀は改めてドルフィンを見た。

 背中から翼が生えていること以外は普通の少女と何一つ変わらない。裸足なことと白いワンピースのような恰好ということが、異世界(ここの)基準では、変わってるといえば変わっているようにも思えるが。

 栗色の髪の毛や黄色い瞳は、出会った人が少ないので珍しいかどうかはわからない。まあ、異世界にしては少し地味な色だというくらいだろうか。

 それに、どこかで……

「この町に巣くう魔物を倒してくれたことには感謝するわ。それで、この秘宝になんか用があるの?」

 狼刀の思考は、ドルフィンの面倒そうに、かつ空中から見下すように、高圧的に放たれた言葉によって中断させられた。

 対して狼刀は、臆することなく――正しくいうなら動揺を悟られないように――ドルフィンと向かい合う。

 時に質問し、時には下手(したて)にでることで、彼女から情報を聞き出した。

 この町には、かつて多くの天空民が暮らしていたこと。

 いまこの地を支配している魔王が動き出す前に、すでに滅ぼされていたこと。

 謎の石――天空民の秘宝・(ひでり)の石が、海の魔王とおそれられていたグラアイスを倒すために、古代の天空民によって生み出されたものであること。本来は杖の先などにつけて使うもので、直接手で触れるものではないことや本来の力があれば海を干上がらせることも可能だということ。

 その説明を受けて、狼刀の頭には一つの使い道が浮かんでいた。しかし、問題はどうやって使うかである。

 狼刀は杖など持ってない。

「杖ならあるわよ。天空民(あたし)しか使えないけど」

 解決した。

「なら、協力してほしい。魔物に支配された町を救うために」

「わかったわ」

 一応断られたときの交渉手段も考えていた狼刀だったが、徒労に終わったようだ。ドルフィンにも、人並みの正義感はあるらしい。

「さあ、行きましょう。ロート」

 どこか楽しそうな、天空民の少女・ドルフィンに連れられて、狼刀は町を出た。


「ところで、どこに行くのよ」


 何とも頼りない。

 とはいえ、ドルフィンがいないと旱の石――もとい旱の杖が使えないので一緒にいくしかなかった。

 ドルフィンがヒロインかぁ。なんか、もっと、ヒロイン力ある方がよかったな。まあ、ラッキーイベントはあったけど。でもなぁ。

 狼刀はそう思った。


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