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無双剣士の異世界魔王討伐  作者: 紫 魔夜
第二章 邪悪な神々
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神と人

第三十四話。神の目的とは、果たして。

 静まり返った地下闘技場。その天井の一部が落下した。天井には落ちた分の、大きな穴が空いている。だが、落ちた先にあったのは瓦礫ではない。

 もっと言えば無機物ですらない。

「何のつもりだ? アポロン」

 ボロ布を羽織ったリヴァルは、仰向けに倒れながら声を発した。

 右手は再生していないが、流血は止まっている。背中に血だまりが出来ていないことから、背中の傷も同様の状態だろう。

 やがて、リヴァルの問いにリヴァルの口が動いて、答える。

「貴様に死なれては困る。それだけだ」

 左目が青に染まった。視界まで青くなったりはしないが、見える世界は僅かに変化する。

「あの人間は何者だ」

 青い左目を閉じて、リヴァルは続けた。

「知らぬ」

 神官を倒せる人を探している時に見かけたような気はするが、声をかけたわけでもないし、実質的には初対面だ。

「貴様のことを知っていたようだが?」

 青い目を輝かせ、アポロンが問いかけるが、リヴァルの答えは変わらない。

「知らぬ」

 むしろと前置きをして、リヴァルは赤い瞳を細める。

「お前の知り合いじゃないのか? アポロン」

 彼の対応はアポロンの持つ力を理解しての対応だ。戦っていて思いついたのではなく、明らかに準備をして待ち構えていた。

 魔力感知をすり抜けたことといい、ただの人間とは思えない。

「さあ、知らぬな」

 本当に知らないのか、それとも答えたくないのか。それはリヴァルにはわからない。そもそも、リヴァルがアポロンについて知っていることは多くなかった。

 ただ、一つだけ言えることがある。

「契約を破っただろう?」

 他でもないリヴァルと交わした契約だ。

「未遂だ。今も貴様に宿ってるのがその証拠だ」

「都合のいいことで」

「貴様にとってもそうだろう?」

「だが、俺を支配しようとしたのは事実だろう?」

「何が言いたい?」

 左目を閉じたり開いたりしながら、リヴァルとアポロンは会話を続ける。

「俺の質問に答えてもらおうか」

 リヴァルはゆっくりと左目を開けた。

「一つだけだ」

「わかった」

 リヴァルは左目を閉じ、右目も閉じる。

 リヴァルがアポロン――神話に語られる神の同類たる光輝神アポロン。契約を交わし人の身に宿ることで、現界しつづける存在。

 契約については、目標を達成する。どちらかが死ぬ。どちらかが契約違反を違反をする。そのどれかに当てはまることで解除されるとアポロンは言っていた。

 死なれて困るというは契約の解除が困るということだろう。けれど、解除されてもアポロンは神界に戻るだけのはずだ。現界したければ、新たな契約を結べばいいはずであって、困るというのは理解できなかった。

「なら」

 そのことを聞こうとしたとき、リヴァルは階段を下りてくる気配を感じた。

 左目を開けて、アポロンに対処するように促す。

欺瞞魔法(イチシーソ)

 リヴァルの体が地面と同じ色に変わっていく。盛り上がりは多少不自然だが、色で見分けることは出来ないだろう。

 うつ伏せであったならば、天井と同じように穴を開けられたのだが。

 リヴァルは目を閉じて息を殺し、ただ気づかれないようにと願った。

 闘技場にやっていた誰かは、一直線に進んでいき、立ち止まる。また歩き出すと、そのまま出て行った。

 完全にいなくなったのを確認してから、リヴァルは目を開け、アポロンは魔法を解除する。

 改めて左目を閉じ、リヴァルは問いかける。

「神界に戻るのは不都合なことなのか?」

 左目を開けるが、アポロンは返事をしない。

「答えろ。どうなんだ」

 左目を閉じ、リヴァルが催促する。

「その通りだ」

 アポロンは短く返事をした。左目は閉じたままだ。

「俺は禁忌を犯し、追われる身だ。だから神界に戻ることはしない」

 左目を閉じたままアポロンは続ける。

「それ以上を訊くな。教える気はない」

「わかった」

 リヴァルは左目を開けた。

「ところで、目は関係ないんだな」

「そうだな」

 アポロンが答え、リヴァルが笑う。

 その笑い声がどちらのものか本人達以外に判別はつかない。だが、本人たちもどちらかなんて気にしていなかった。

 ひとしきり笑ってから、リヴァルは立ち上がる。

天使のような(・・・・・・)気配を感じた。さっさと去るか」

「いや、ほとぼりが冷めるのを待ったほうがいい」

「仕方ない。人間のいうことに従うさ」

 ため息をついて、リヴァルは左手を上げた。

欺瞞魔法(イチシーソ)

 リヴァルの姿が兵士長のそれから、兵士のそれに変わる。特徴的な顔や髪は変え、体格は魔法的に違和感を与えかねないためそのままに。

 図体が大きいだけの一介の兵士の完成だ。

 リヴァルは左目を閉じて、歩き出した。

「閉じる必要はないぞ」

 瞳の色も魔法で変えているのだ。むしろ、何もないのに片目を閉じているほうが不自然だろう。

 リヴァル立ち止まり、左目を開く。

 赤でも青でもない。紫色の瞳が怪しく光った。

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