準備を整えて
三十一話。戦いの前には準備が必要。
「くそっ……誰か、誰かいないのか」
「誰でもいいんだ……」
「城にあの人より強い人! なんて……」
「強い人、強い人、強い人……」
城の大広間で目を覚ました狼刀は、王の間へ向けて走り出した。
リヴァルに会わないように、人にぶつからないように、周りに注意を払いながらも、走る。王の間の手前まで到着すると、狼刀は横から走ってくるだろう人物を待った。
やがて、こちらに向けて走ってくる青年――スクラヴォスを見つけ、声をかける。
「すいません。ちょっといいですか?」
「え?」
スクラヴォスは驚いたように周りを見回して、こけた。彼が転ぶのは避けられない展開なのだろうか。もしかしたら、狼刀がいなくても転ぶのかもしれない。
「大丈夫ですか?」
狼刀がスクラヴォスに手を差し伸べる。前回とはちょうど逆になる形だ。
「あ、ありがとうございます」
「いえ。それよりも、一つご相談したいことが」
スクラヴォスがその手を取って立ち上がると、狼刀は不敵に笑いかけた。
「相談ですか」
「ええ。実は、兵士長のリヴァル・ジャドレイに裏切り疑惑があるんですよ」
「まさか……いや、それよりあなたは?」
「この城を救いに来た勇者だ」
「勇者……?」
「信じなくてもいい。ただ、チャンスをくれないか?」
「聞いてから考えます」
スクラヴォスは狼刀を見据える。真っ直ぐな瞳は、リヴァルよりよっぽど信頼が置けそうだ。
「俺は神官を倒して地下で情報を聞き出します。そこに兵士長が来た時の行動を見て判断してください」
少し考えてから、スクラヴォスは小さく笑った。
「いいでしょう。一度だけあなたを信じます」
迷いながらでも頷くということは、心当たりのようなものがあるのだろうか。と、確認するのは後回しだ。
「そのセリフはぁ、聞き飽きた――」
「俺が相手だ! 神官!」
王の間に飛び込み、ブラストの言葉を遮るように狼刀が叫んだ。ブラストは狼刀を睨みつけ、王や兵士達は驚いたような表情を浮かべている。
「なんだぁ? てめぇはぁ?」
「俺は結城狼刀。お前を倒す男だ」
竹刀と刀の変則二刀流。攻略法は確立済みだ。
「上等ぅ!」
ブラストの初動は変わらない。
「減速魔法」
魔法を発動することも、狼刀がゆっくりと動けば魔法が効いたと思って、肉食獣のような笑みを浮かべることも。
「勝負あり、だなぁ」
悠々と錫杖を振り上げるその動作も、全く同じだ。
「ああ、その通りだ」
「なぁ……!?」
演技を止め、素早く錫杖を巻き上げる。飛んでいった錫杖の行方など、気にする必要はない。
「ぐっ」
ブラストは武器の回収することなく、狼刀に殴りかか――る前に狼刀が、両手に持ち替えた竹刀を振り下ろした。
ブラストは気を失い、倒れる。
「生け捕りでお願いします。王様」
「わ、わかった」
王は驚きつつも、兵士達に指示を出して神官を捕らえさせた。
「地下闘技場へ運んでください。あ、イソリさんもお願いします」
「はい?」
知り合いを見つけて、狼刀は声をかける。
イソリは何が何だかわからないといった表情だが、説明は後回し。
「それから、リヴァル兵士長殿と、回復なされたらセイント近衛兵長に来てもらってください」
「わかった。誰か、リヴァルを呼んでまいれ。それと、ミソロギ先生に」
王は狼刀のいうことに従った。狼刀のことは全く疑ってないようだ。
「お願いします」
やれることは何でもやる。死なないためには、やるしかないのだ。
地下闘技場。
裏切り者のリヴァルによって二度、殺された場所だ。次、殺されれば狼刀は死ぬ。そんな、ある意味当たり前のことを考えながら、狼刀はブラストと対峙していた。
二人きりというわけではない。今は何もしないが、待機している人がいる。彼らの動きは今後の展開次第だが、狼刀の目的はブラストに降伏を促すことではなかった。
「リヴァル・ジャドレイについて教えてくれ」
尋問だ。とはいえ、磔にしているだけで刀を突きつけたりはしていない。
「リヴァル・ジャドレイかぁ。そいつぁ大神官のぉ弟だぁ。兄弟喧嘩のぉ末、出てったぁらしいなぁ。どっかでぇ、野垂れ死んでぇんだろぉよ」
意外と言うべきか、ブラストはつらつらと話し出した。
「でぇ? それがぁどぉした?」
「気にするな。もう一つ。お前の使える魔法、分裂魔法について教えてくれ」
「何故ぇ知ってぇやがるぅ?」
ブラストが顔をしかめる。見せていないはずの魔法なのだから、当然といえば当然の反応か。
「俺の力だ」
全くの嘘ではない。
「それで、生物の複製は出来るのか答えてもらおうか」
「はっ、出来ねぇよ。外見ぁ出来てもぉ中身のねぇ人形にしかならねぇからなぁ」
吐き捨てるように、ブラストは呟く。
「いや、十分だ」
狼刀は不敵な笑みを浮かべた。




