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無双剣士の異世界魔王討伐  作者: 紫 魔夜
第二章 邪悪な神々
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生きているからこそ

第十六話。助かってこその人。

「くそっ……誰か、誰かいないのか」

「誰でもいいんだ……」

「城にあの人より強い人! なんて……」

「強い人、強い人、強い人……」

 エース城の大広間を慌ただしく行き交う人々。その中心で狼刀(ろうと)は目を覚ました。

「そこの旅の者」

 背後から声がかけられる。

「突然、すまない。私は兵士長リヴァル」

 その展開は変わらない。

「腕に覚えがあるなら、この城を守るために協力――」

「わかりました。案内してください」

 狼刀はリヴァルの言葉に被せるように返事をした。

「おお、ありがたい。では、王の間へ」

「行きましょう!」


 ◇


「なぁ? まぁだ、かかんのかぁ?」

 ブラストからの四度目となる催促。

「しばし、お待ち願います。今兵士たちが」

「そぉのセリフはぁ、聞ぃき飽きたんだぁよ?」

 王のセリフを遮るように、ブラストが立ち上がった。三回目までは文句を言いつつも大人しくしていたが、仏の顔も三度までということだろうか。

「いねぇんなら、無条件降伏だぁ。いいかぁ?」

「お、お待ちください。すぐに、すぐに兵士が」

 王が玉座から降りて、懇願するように頭を下げる。そんな痛ましい光景を、兵士達は黙って見ているだけだった。

「そぉじゃねぇんだよぉ!」

 ブラストは声を荒げると、錫杖を大きく振り上げ。

「お待ちくだされ」

 リヴァルの声を聞き、ピタリと動きを止めた。

「約束の御仁をお連れした」

 ブラストの瞳が、リヴァルの横にいる狼刀を捉える。じっとりと値踏みするような視線だ。

「なんかのぉ間違いだろぉ? こんな奴がぁ最強ぉ」

 呆れたように呟き、ブラストは錫杖を狼刀に突きつける。

「怪我じゃぁすまなぜぇ? おうちにぃ帰んなぁ」


 肝心の狼刀はブラストのほうを向いてはいなかった。


「その前に、剣を二本貸していただけませんか?」

「あぁ? 無視かぁ?」

「安心しろ。お前の相手はしてやるよ」

 不満げな顔を浮かべつつも、ブラストは黙り込んだ。

 リヴァルが剣を二本差し出し、狼刀がそれを受け取る。その様子を見届けて、ブラストは満面の笑みを浮かべた。

「戦ぁえるのぉかぁ?」

「ああ、俺は結城(ゆうき)狼刀。かかってこい」

 狼刀は二本の剣を構え、挑発するように言い放つ。ブラストは錫杖をバットのように振りかぶった。

「上等ぅだぁ!」

 狼刀は剣を構え、床を蹴る。

 ブラストは不敵な笑みを浮かべて跳躍。空中で一回転すると、狼刀の背後に着地した。振り向きざまに放つは、錫杖の突き。

 狼刀は素早く振り返ると、片手で攻撃を受け止めた。と、同時にもう一方の剣で薙ぎ払う。

「くぁ……」

 腹部を切られたブラストが、苦悶の声を漏らし距離を取った。狼刀は、立て直す隙を与えずに、攻撃を仕掛ける。

 ブラストは体勢を整えることも出来ずに、防戦一方だ。

減速魔法(ネギア)

 魔法を気に留めることなく、狼刀は苛烈に攻め立てる。

「これで終わりだ」

 渾身の一振がブラストの腹部を斬り裂いた。

「やるじゃぁねぇか……」

 ブラストは、笑ったまま後ろに倒れこみ、動かなくなった。


「すげーよ、兄ちゃん!」

「ありがとう、この城を救てくれて」

「ちっ……」

「感謝しますぞ」

「悔しいけど、さすがだよ」

「近衛兵長の仇を取ってくれてありがとう」


 周りの兵士から賛美の声が浴びせられる。賛美以外もあるが、それを気にする人は誰もいなかった。

 ただし、違うところに一人の男が反応する。

「誰の仇だって?」

 逞しさと力強さを兼ね備えた爽やかな声。そこにいた誰もが声のした方を向き、歓声が沸き上がる。

「近衛兵長様!」

「ご無事でしたか!」

「セイント様!」

「さすがです!」

 歓声の間を縫って、リヴァルが一歩前に出た。

「近衛兵長セイント様。申し訳ありませんでした」

 深々と頭を下げるリヴァルの後ろから、王が顔を覗かせる。その顔にも声にも安堵の色がありありと浮かんでいた。

「セイント。よく生きておった」

「先生の治療のおかげですよ」

 純白の衣装に身を包む青年。近衛兵長セイントはやはり聖騎士といった雰囲気だ。兵士に支えられ、杖をついてはいるが、凛々しさには全く陰りがない。

「状況はどうなってるのですか?」

 セイントは王へ状況の説明を求めると、王はリヴァルへと目配せをする。

「はっ」

 リヴァルは片膝を床につき、手を体の前で合わせた。目上の相手に報告する時の姿勢だそうだが、どうにもヨーロッパ風の城には似合わない。

 異世界である以上、気にしていても仕方ないのだが。

「敵は邪神教(じゃしんきょう)の神官。そこの旅のお方が倒してくださいました。王もご無事です。私の知る限り被害者は出ておりません」

「そうか。それは良かった」

 セイントは静かに目を閉じた。

 短い時間だったのは、考えをまとめているだけだからだろう。

「この城を救てくれたこと、王と共に感謝する」

 ゆっくりと目を開けて、深々と頭を下げる。

「それから、誠に勝手な願いではあるのだが、用心棒としてこの城に雇われてはもらえないだろうか」

「すいません。それは出来ません」

 狼刀はその提案を断った。歴史が同じ流れをたどるのならば、しばらくはこの城に危機は訪れない。そう考えたからこその決断だ。

「そうか……いや、無理を言ってすまなかった」

「その代わり。邪神教をつぶして見せますよ」

 元凶(もと)を絶ってしまえば問題ない。

 不安げな顔を見せるセイントに、狼刀はそう宣言した。

「おお! それは」

 セイントは一瞬だけ笑みを浮かべるが、すぐ真顔に戻して、兵士達のほうを見る。

「このたび、この城は……、」

 セイントが言葉に詰まる。誰にも聞いていないから、名前がわからないのだ。

「すまぬ。名前を教えてもらえぬか」

「結城狼刀です」

 前回と変わらぬやりとりに、狼刀は笑いを堪えつつ答えた。

「わかった」

 正面を向いたセイントは、何事もなかったかのように話を再開する。受けようとも、断ろうとも、その内容はほとんど同じだった。

「このたび、この城はユウキ・ロウトさんによって救われた。だが、ユウキ・ロウトさんにはまだやるべきことが残っている。だから、我々は力をつけていこう。ユウキ・ロウトさんがいなくてもこの城を守らなければならないのだから」

 兵士達は歓声をあげ、セイントは手を叩くだけでそれを静める。

「後のことは、ローレンス王と話し合って、結論が出次第報告する。他になにか意見はあるものはいるか」

 無論、誰一人して意見はいわない。それは強制力などではなく、セイントに対する信頼の表れだ。

「それから、ユウキ・ロウトさん。我々から提供出来るものはなんでも提供致します。なんなりと言ってください」

「いくつかあるので、後でお願いします」

 逡巡した後、セイントは頷く。

「……わかりました。明日の朝でも良いでしょうか」

「はい。お願いします」

 その日のうちの対応が難しいのは、予想の範囲内だ。

 空き部屋を借り、狼刀は眠りについた。


 扉が開く音。


「あなたが、ですか?」


 目を閉じていてもわかるくらいに聞かされた声が、狼刀の耳に届いた。

「ミソロギ先生……」

「おや?」

 反射的に漏らした呟きを、ミソロギは聞き逃さない。背を向けて眠る狼刀に近づき、耳にそっと息を吹きかける。

「なぅっ!」

 飛び起きた狼刀の顔を見て、ミソロギは満足げに笑みを浮かべた。

「どこで知ったのですか?」

「え……?」

「名前、ですよ?」

 ミソロギに指摘され、狼刀は自分の失言に気がついた。この周回においては、ミソロギと狼刀は初対面。つまり、名前を知っていてはおかしいのだ。

「イソリさ……」

 んに聞いた。という言葉を狼刀は飲み込んだ。

 この周回ではイソリにも会っていない。狼刀が会っているのは、王とリヴァルとセイント。他にも兵士達がいたが、名前を知らない。話を聞いたということにするなら、候補は三人の誰かだ。

 必死に考えを巡らせる狼刀を、ミソロギは黙って見守っていた。

「リヴァルさんに聞いていたんですよ」

 この部屋まで案内してくれたのは彼だ。ミソロギがそんなところまで見ていたとは思わないが、聞くタイミングとしては自然だろう。

「そうですか?」

 ミソロギは笑みを崩さない。

「それはおかしいですね?」

「え?」

 誤魔化すことも忘れて、狼刀はミソロギの言葉を待った。


「だって、声で、気がついたでしょう?」

 そう。狼刀は扉に背を向けて寝ていた。ミソロギは扉を開けて、声をかけただけなのだ。その時点で気がついたということは、声で理解するしかない。

 人から聞いただけで、そんな芸当は不可能だ。

「どうなんですかね?」

 ミソロギが耳に息を吹きかけたのも、実は見えていたという可能性を考えてのことである。狼刀はそこまで気がつかなかったが。


「それは……」

 言ってしまいたかった。

 自分が繰り返していることを。その中であっていることを。

 けれど、その言葉は届かないだろう。

 経験則から狼刀はそのことを理解していた。

「……言えません」

「そうですか?」

 ミソロギは残念そうに眉尻を下げる。語尾が上がっているせいでなんともチグハグだが、心から残念に思っていることは、声質から十分に理解出来た。

「では、少し実験(しらべ)させていただけますか?」

「お断りさせていただきます」

 狼刀は深々と頭を下げる。

 何度繰り返そうとも、それだけは繰り返したくない。そんな切実な願いだ。

「ふむ?」

 簡単には納得されないと理解したのか、ミソロギは腕を組んで考える。狼刀はその表情を見るのが怖くて、顔を上げられなかった。

 沈黙が重くのしかかる。

 耐えきれなくて、狼刀は前を向いた。

「なんでも、一つだけ、知りたいことを教えてあげますよ?」

 悪魔のような笑みを浮かべ、ミソロギが囁く。

実験(しらべ)させていただけたらね?」

「…………」

 彼は嘘をつくような男ではない。

 知りたいことがあった狼刀は、その提案を否定することが出来なかった。

「俺は……」

「先生。ロウト殿をいじめるのはやめてください?」

 声のした方へ、ミソロギが振り返る。

「いじめてませんよ?」

 その言葉に、狼刀と新たな来客は同時にため息をついた。自覚がないから余計にタチが悪い。ミソロギはまさにその典型だった。

 狼刀は顔を上げ、新たな来客を見る。

「セイントさん」

 そこにいたのは、近衛騎士セイント。その人だった。

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