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無双剣士の異世界魔王討伐  作者: 紫 魔夜
第二章 邪悪な神々
33/132

リスタート

第十一話。もう一度ここから。

 眠りから覚めるような感覚だ。意識を失ってから一瞬なのか、長く時間が経っているのか。なんとも言えない不思議な感覚だ。

 ゆっくりと目を開ける。

 そこは城の大広間――ではなかった。

 どこまでも続く白に包まれた空間。天使マナティが漂うその場所は、転生の間だ。

「ちょっとー、死にすぎじゃない?」

 マナティが呆れたように呟いた。

 狼刀(ろうと)は言い返そうとするが、言葉が出てこない。

「簡単に死んだり、討伐諦めたりさー。無制限に生き返れるわけじゃないんだからね?」

 痛いところをつかれ、狼刀は一言も言い返せなかった。

 狼刀だって好き好んで死んでいるわけではないし、用心棒として雇われるという流れがあったからこそ、エース城に留まっていたのだ。デュース城や邪神教の情報は聞いていたし、新たなる脅威には立ち向かった。

 それでも、狼刀は否定出来なかった。

 マナティは小さく首を横に振る。

「まあ、今回はどうにかしてあげるから、むやみに死なないでね」

 狼刀は何も答えない。

「というわけで、今度こそ倒して来て」

「…………」

 一言も語ることなく、狼刀は異世界へと送り出された。


 ◇


「くそっ……誰か! 腕に覚えのあるもの」

「誰でもいいんだ。誰か」

「城にあの人より強い人なんて……」

「強い人、強い人、強い……」

 色を取り戻した場所は、城の大広間だった。忙しなく、焦ったように人々が行きかっている姿を見るのは、とても久しぶりだった。

「そこの旅の者」

 背後から声をかけられる。

「突然、すまない」

 そういえば、こんな展開だった。

「私は兵士長リヴァル」

 巌のような大男。身につけているのは、兵士団の制服だ。近衛兵長になってからは違う服を着ていたため、その姿は目新しく感じる。

「腕に覚えがあるなら、この城を守るために協力してほしい」

「わかりました。案内してください」

 狼刀は即答した。

 敵――ブラストに勝つための作戦は、しっかりと考えてある。

「おお、ありがたい。では、王の間へ」

「その前に一つお願いが……」

 ただし、実行するためには、道具が足りていなかった。


 ◇


「なぁ? まぁだ、かかんのかぁ?」

 ブラストからの四度目となる催促。

「しばし、お待ち願います。今兵士たちが」

「そぉのセリフはぁ、聞ぃき飽きたんだぁよ?」

 王のセリフを遮るように、ブラストが立ち上がる。顔には苛立ちが浮かんでいるが、四度も同じ言い訳を聞かされたら、彼でなくともそうなるだろう。

 むしろ、侵略者であることを考えるなら、よく待ったほうだ。

「いねぇんなら、無条件降伏だぁ。いいかぁ?」

「お、お待ちください。すぐに、すぐに兵士が」

 王が玉座から降りて、懇願するように頭を下げる。

 また、言い訳だ。

「そぉじゃねぇんだよぉ!」

 ブラストは声を荒らげ、王に近づくと、錫杖を大きく振り上げた。

 周りの兵士は誰一人として動けない。ここにいる兵士の中に、自らの命をかけてでも王を守ろうと出来る人はいなかった。

 ブラストが錫杖を振り下ろす。


「お待ちくだされ」


 狼刀を連れて、リヴァルが現れた。

 錫杖は――王の頭に突き刺ささていた。

「くっ……約束の御仁をお連れした」

 リヴァルは唇を噛む。

 それから、後ろにいた狼刀が見えるように横へと移動した。


 狼刀の目に映ったのは、錫杖を突き立てられ死んでいる王の姿だった。今までの流れとは違う展開だ。

 原因はわかっている。

 来るのが遅かったのだ。

 狼刀は奥歯を噛み締めた。

「なんかのぉ間違いだろぉ? こんな奴がぁ最強ぉ?」

 ブラストは乱暴に錫杖を引き抜くと、血が滴る錫杖を狼刀に向ける。王を殺していても、ブラストの動きはほとんど変わらなかった。

「怪我じゃぁすまなぜぇ? おうちにぃ帰んなぁ」

 後悔は後回し。死ねばやり直せるかもしれないが、簡単に死ぬなと言われたばかりだ。

「……俺は結城(ゆうき)狼刀。かかってこいよ、兄ちゃん」

 狼刀は剣を構え、挑発するように言い返した。

「あぁ? いいぃ度胸じゃぁねぇかぁ!」

 ブラストは錫杖をバットのように振りかぶる。

減速魔法(ネギア)

 叫ぶと同時に、ブラストが走り出した。狼刀の剣の間合いのわずかに外側で跳び、錫杖を叩きつけるように振り下ろす。

 狼刀は剣を掲げ、受け止めた。ブラストの降りてくるであろう場所を狙い済まし、剣を薙ぎ払う。

 が、ブラストは錫杖で攻撃ぎりぎりで(かわ)すと、後ろに飛んで距離を取った。

「なぁかなかぁ。楽しくなぁってぇキタぜぇ!」

 ブラストは錫杖を二つに分裂させる――質量は変わってないので錫杖の分身というべきか――と、両手で構えた。

 狼刀は剣を斜めに構え直す。イソリの二刀流を相手にしていた時に、導き出した構えだ。

減速魔法(ネギア)

 左の錫杖から繰り出される突きを打ち払い、振り下ろされる右の錫杖も素早く剣を動かすことで受け止めた。

 自由になった左の錫杖が、脇腹に叩きつけられる。全身に衝撃が走った。けれど、飛ばされはしない。

「これで終わりだ」

 狼刀はブラストの体を袈裟斬りに斬り裂いた。

「やるじゃぁねぇか……」

 ブラストは笑顔を浮かべたまま、後ろにたおれる。即死ではないだろうが、動く気配はない。

 狼刀の勝利だった。


「すげーよ、兄ちゃん!」

「ありがとう、この城を救てくれて」

「ちっ……」

「感謝しますぞ」

「悔しいけど、さすがだよ」

「近衛兵長と王の仇を取ってくれてありがとう」


 周りの兵士から賛美の声が浴びせられる。

 しかし、肝心の狼刀の表情は暗い。王を救えなかったことを後悔しているのだ。

 救えた可能性(ルート)があることを知っているからこその、後悔だった。

「王が亡くなってしまったのは非常に残念ですが、この城が救われたことだけでも感謝せねばなりません。我々は何もできなかったのですから」

 リヴァルが優しく狼刀に声をかける。

 その唇は感情を出さないためか、強く引き結ばれていた。

「リヴァル様」

 一人の兵士が、リヴァルに向かって片膝をつく。

「王子が大神官討伐に行かれている今、王まで亡くなったとあってはこの城はもちません。ご指示を」

 この城においては王と近衛兵長、王子が不在の場合、兵士長たるリヴァルこそが最高責任者なのだ。

「わかっている。王子が無事に大神官を倒して戻るまで、私がこの城を支える」

「は!」

「当然。王の死は伝えるでないぞ。無用の混乱を招くだけだ」

「は!」

 深く頷き、兵士が部屋を出る。それが合図だったかのように、周りの兵士たちも動き始めた。

「では、旅の者。せめてものお礼に今夜は宴を開きます。ぜひご参加ください」

「ああ、わかった」

 狼刀は剣をリヴァルに突き返し、王の間を後にする。本当は(ここ)からも逃げたかった。だがこれから苦労していくであろう人々を差し置いて、いなくなることは出来なかった。


 その夜。

 城を侵略者から守り抜いたことを祝う宴が催された。人々は楽しみ、にぎやかな時が流れていく。そこに、王や近衛兵長がいないことを気にする人はいなかった。――あるいは、気づいても誰も口にしなかった。


 そして夜が明けた。

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