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無双剣士の異世界魔王討伐  作者: 紫 魔夜
第一章 冒険の始まり
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死と再生

第二話。強くても死ぬことがあります。

「潰れろ」

 鎧が振り下ろした斧を、狼刀(ろうと)は横に飛んで回避。飛び込むように詰め寄り、竹刀を振る。鎧はその攻撃を盾で受け止めると、盾ごと狼刀を押し飛ばし、斧を振り下ろした。狼刀は竹刀をかかげ、受け止める。

 狼刀と鎧の攻防は、一進一退を繰り返しながら、互いに決定打に欠けていた。

 しかし、鎧の振り下ろす斧の精度は少しづつ上がっている。一方で狼刀の攻撃は盾を突破することが出来ていなかった。

 最初のボスということなのだろう。

 あまりにも強さに差があった。

 負けるのは時間の問題だ。

 狼刀はそう考え、ため息をついた。

 鎧は勝ちを確信したのか、高らかに宣言する。

「我は、最強のアンデッド・あくまのきし。木刀ごときでやられはしない」

「へぇ……」

 それを聞いて、狼刀の口角がわずかに上がった。鎧――あくまのきしは、狼刀のわずかな変化に気づくことなく、攻撃を続ける。

「我の攻撃にここまで耐えたことは誉めてやろう。だが、無駄だ」

 この魔物(あくまのきし)は、かなり強いのに序盤でやられるキャラなのだと、狼刀は確信した。

 そして、このアンデッドを倒すためだけに、城にあったであろう道具を取り出す。

「な、何故、貴様がその聖水を持っている」

 死亡フラグだ。

 狼刀は聖水の入った瓶を開けると、聖水をアンデッド・あくまのきしにふりかけた。

「――――」

 声にならない悲鳴をあげ、あくまのきしが消滅する。


 この魔物――あくまのきしは主人公の城を襲った魔王軍の幹部で、駆け出しの主人公じゃ倒せないほどの強さを持っていた。しかし、この城に伝わる伝説の聖水――勝手に命名――によって、主人公は命からがら倒すことに成功。幹部の一人がやられたことで、魔王(ラスボス)は主人公を気にするようになる。

 そんなところだろうと、狼刀は予想し、城を離れた。


 城を出た狼刀が向かったのは、町だ。入口にあった立て札によると、名前は技巧(ぎこう)の町ネプトン。周囲を木々に囲まれており、池や畑、木の家などが数多くある。技巧というよりは森の集落といった印象の町で、現在は魔王配下の魔物によって支配されている。

 狼刀は、その魔物の配下である二体の骸骨(がいこつ)達の手荒い歓迎を受けていた。

 武器は大鎌。間合いが広く、不用意に近づくことができない厄介な代物だ。

 狼刀は二体の攻撃を防ぐだけで精一杯だった。が、不意にチャンスが訪れる。骸骨の一体が振り下ろした鎌が地面刺さって、抜けなくなったのだ。

「面!」

 その一瞬の隙をついて、狼刀は骸骨の頭へ竹刀を叩き込む。

 骸骨が消滅したことを確認することすら惜しんで、もう一体の骸骨の背後に回り込んだ。

「胴!」

 骸骨が振り返るよりも早く、竹刀の一撃が背中に炸裂。骸骨は消滅した。

「ほう。死霊騎士(しりょうきし)を倒せる人間がいるとは驚きましたねェ」

 二体の骸骨――死霊騎士を倒すと、どっしりとした声が響いた。狼刀は声のする方へ顔を向け、顔をしかめる。

「鮫……?」

 鮫――確かにそこにいた魔物の姿はそう表現するのがふさわしい。手と足こそついてはいるが、その姿はまさしく鮫。身長は二メートルを超えるほど大きく、両手には大きな剣を持った鮫の怪物が、そこにいた。

「魔王軍では、カイザーシャークと呼ばれています。以後お見知りおきを」

 魔物――カイザーシャークは丁寧な口調で、恭しく自己紹介を行う。

「降伏する気は、ありませんか?」

「ない」

 優しげな降伏勧告を、狼刀はにべもなく断った。

 カイザーシャークは残念そうに首を振る。

「では、倒されてください」

 言うが早いか、カイザーシャークは二本の剣を体の前に構え、狼刀へと突進――この場合、刺突の方が正しいか。狼刀はその攻撃を(かわ)し、竹刀を突き刺した。カイザーシャークの体は水塊になり、崩れ落ち、水溜まりになる。

 倒したという手応えではなかった。

「私の分身を倒すとは、なかなかやりますねェ」

 背後――厳密にいうなら後ろにあった池から、カイザーシャークが姿を現す。それも、一体ではなく三体同時に。

 狼刀は、三体のカイザーシャークに向けて竹刀を構え直した。


「降伏する気はなさそうですねェ」

「仕方ありませんねェ」

「第二幕と行きましょうかねェ」


 三体のカイザーシャークは正面と左右に別れ、一斉に襲い掛かってくる。狼刀は竹刀を正眼に構えた。

 動きさえ見極めることが出来れば、敵が三体でも問題ない。狼刀のその判断は間違っていなかっただろう――カイザーシャークが三体だけならば。

 背後から、狼刀の胸を貫く一本の剣。その先には、水たまりから上半身だけを出し剣を刺した魔物――カイザーシャークがいた。

 狼刀がそれを理解するよりも早く、六本の剣が狼刀に突き刺さる。だが、不思議なことに痛みはなかった。

 次第に意識が薄れゆく。そんな中、狼刀は自分の最初の死を思い出していた。


 結城(ゆうき)狼刀は高校二年生。

 特に問題があったわけではないはずだ。

 しかし、結城狼刀はどこかの窓から落ちた。


 狼刀はそこまでの記憶を取り戻した。


 なんで落ちたんだったかな。

 そんなことを考えていると、狼刀は再び異世界へと舞い降りた。

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