不死と死
第三話。謎は深まっていく。
「くそっ……誰か、誰かいないのか」
「誰でもいいんだ。誰でも」
「城にはもう……」
「強い人、強い人、強い人、強……」
聞き覚えのある単語が、四方八方から聞こえてくる。狼刀はゆっくりと目を開けた。城の大広間のような場所だ。せわしなく人々が行きかっているその光景は、前回と同じだった。
起点の更新とは、こういうことらしい。
「そこの旅の者」
声は横からかけられた。
後ろからばっかりじゃないんだな。そんなことを思いながら、狼刀は振り返った。
「突然、すまない」
方向が違えども相手は変わらない。金髪隻眼の屈強なる大男。兵士長リヴァルがそこにいた。
「私は兵士長のリヴァル。腕に覚えがあるなら、この城を守るために協力してほしい」
想定通りの提案だ。
「……わかりました」
狼刀は覚悟を決めて、頷いた。
「おお、ありがたい。では、王の間へ」
リヴァルに連れられて、狼刀は王の間へと向かった。
「お待ちくだされ」
王の頭めがけて振り下ろされていた錫杖は、持ち主が声のしたほうを振り向いたため、王の髪をかすめ床に突き刺ささる。
「約束の御仁をお連れした」
リヴァルは後ろにいた狼刀が見えるように横へと移動した。
神官は狼刀を値踏みするように見てから一言。
「なぁんかのぉ間違ぁいだぁろぉ? こぉんな奴がぁ最強?」
「俺は結城狼刀。……かかってこい」
狼刀は挑発するように笑みを浮かべた。
「あぁ? 殺る気じゃぁねぇかぁ」
神官も冗談ではないことを理解したのか、もしくは狼刀の挑発に乗ったのか。錫杖を構え、獰猛な笑みを浮かべる。
二人がにらみ合う中、リヴァルは冷静に床に倒れる王を玉座へと座らせ、周囲の兵士たちは戦いの行く末を見守っていた。
「いぃくぜぇ!」
先に仕掛けたのは神官だ。錫杖をバットのように振りかぶり、魔法を唱える。
「減速魔法」
狼刀は攻撃を受け流すと、無防備な右腕に向かって突きを放つ。神官は錫杖を振り戻して防ごうとするが、竹刀が届くほうが早かった。
「くっ……」
神官は右手を庇うようにして距離をとったが、それだけだ。傷がついているようには見えない。
狼刀が眉をひそめる。
「素早さぁはぁ、なかなかぁ。だぁが、次はぁ、こぉはぁいかねぇぜぇ!」
神官は錫杖を突き出した。
「減速魔法」
小さな声で魔法を発動させ、神官は跳躍。上から錫杖を振り下ろす。直線的な軌道だ。
狼刀は攻撃を受け止めると、そのまま滑り込むようにして、相手の胴を打ち据えた。
「ちぃっ……」
神官が膝をつく。ダメージは与えているのだろう。だが、それだけであった。
「おかしい……」
狼刀の違和感が決定的な疑問へと変わる。
今までの敵は、攻撃が当たらないことはあっても当たれば一撃だった。違いがあるとすれば、服装くらい。
あの服装になにか秘密があるのか。
「てぇめぇ。みぃねうちたぁ、なぁんのつもりぃだぁ?」
立ち上がった神官が狼刀に話しかけてくる。それは狼刀の予想を否定するものだった。
神官が何かをしているわけではない。
狼刀は困惑を浮かべた。
「俺はぁ、邪神教ぉ三神官がぁ一人ぃ。ブゥラストォォォ! なぁめてんじゃぁねぇぞ!」
狼刀の方へ錫杖を向け、
「死絶魔法」
瞳を赤く光らせながら、死の魔法を放った。王だけは殺さないように放たれたその魔法は、その場に集っていた兵士達を跡形もなく消し飛ばす。
残ったのは、王とリヴァル、そして狼刀だけだった。
「あぁ? てめぇらなぁんで効ぃかねぇんだぁ?」
「さあな」
狼刀は適当にはぐらかすと、竹刀を構えなおしブラストへと斬り掛かる。
「減速魔法」
魔法で迎え撃つブラストだが、狼刀が魔法によって減速しないことがわかると、錫杖でその攻撃を受け止めた。
「ちぃ。こぉいつぁやっかいだぁ。俺ぇもぉ、本気で行くぅかぁぁぁぁ」
ブラストは距離を取ると、錫杖を放り投げる。
「分裂魔法」
その掛け声とともに、投げられた錫杖が数を増し、百をも超える数となったとき、ブラストが技名を叫んだ。
「槍時雨」
錫杖はすべて、尖った先端を狼刀の方に向けて飛んでくる。
狼刀は最初の数本こそ竹刀で弾いていたが、すぐに弾ききれなくなってしまう。一本、二本と錫杖が突き刺さり、串刺し状態となった狼刀は身動きが取れなくなっていた。
竹刀では神官を倒せない。
狼刀はそんな結論に思い至った。




