サンライト城へ
第二十話。衝撃の事実が明らかに。
城へ向かう道中。ドルフィンと狼刀は次の行動について話し合っていた。ドラゴンを倒し、姫は救出した。だが、狼刀の目的は魔王を倒すことである。
ドラゴン、天軍師、カイザーシャーク、エンペラーダイル、あくまのきし。彼らは紛れもなく魔王軍の幹部だったが、魔王に繋がるようなことは言ってなかった。
「情報が少なすぎるよな」
「とりあえず、行ってないとこ行ってみたらいいんじゃないの?」
冷静に考えようとする狼刀と、行き当たりばったりな考えのドルフィン。この手の話し合いは、上手くいかないと相場が決まっている。
「サンライト王から有益な情報が得られるといいんだが」
「せっかくおーさまにお願いできるんだから、もっといいことにしようよ」
もはや、話し合いとは言えない会話だった。
「ところで、一つだけ謎なんだけどさ」
ふと、ドルフィンが立ち止まる。
「なにがだ?」
狼刀も足を止めてドルフィンへ向き直る。
「ユーキって未来予知でもできるの?」
「狼刀で頼む」
話の腰を折ることはわかっていたが、狼刀は思わずそう言った。ドルフィンが突然呼び方を変えたことまでは気にしない。
「なんで?」
ドルフィンが不満そうに顔をしかめた。どうしても、という理由がなくとも、にべもなく否定されてはそう言いたくもなるだろう。
「いや、まあ。その、色々……あって、な」
狼刀の返事は歯切れの悪いものだった。
「まあ、いいけどさ」
ドルフィンは完全に納得したわけではなかったが、わざわざ追及したいほどのことでもなかったらしい。
「べつに……」
「…………」
狼刀はそのまま終わらしてしまっては後味が悪いと思い。自分から話を戻すことにした。
「未来予知なんて出来ないよ」
「ほんとに? 色々知ってたりとか、未来予知じゃないの?」
ドルフィンがさらに顔をしかめる。名前の一件がなければ、もう少し優しい言い方になったのだろうか。それは誰にもわからない。
「…………」
狼刀は少し考えてから、自分の状況を説明することにした。言いふらすような内容ではないと思うが、黙ってなければいけない理由はないのだ。
これからも一緒に動くなら、伝えておいても損はないだろう。
「俺は、死ぬたびにやり直してるんだ。色々知ってたりするのはそのせいだ」
マナティの名前はあえて出さなかった。
だが、ドルフィンの次の一言は狼刀の予想を裏切るものだった。
「無視?」
「え?」
狼刀は自分の耳が信じられなかった。
「え? じゃなくてさ。ちゃんと答えてよ」
ドルフィンは地上に降りて、狼刀に詰め寄ってくる。
「ちゃんと、答えて」
「だから、俺は、死ぬたびやり直して――」
「答えて」
答える狼刀の言葉を遮るように、ドルフィンが問い詰める。その目は真剣で、ふざけているとは思えない。
もちろん、狼刀もふざけてるわけではない。
「ねぇ」
「……説明は出来ない」
原因は全くわからなかった。それでも、このやり取りを続けていては喧嘩になりかねない。
「すまない」
狼刀は説明を諦めて、頭を下げた。
「そっか」
ドルフィンはため息をつくと、狼刀に背を向けた。
「……話せる時が来たら話してね」
狼刀にドルフィンの表情を見ることは出来ない。
「ああ、その時が来たら全部話すよ」
ドルフィンが勢いよく振り返り、
「絶対だからね!」
トライデントを狼刀に突きつけた。
長い髪が風になびく。決意に彩られたその顔は儚くも、美しい。夕日を背にして立つその姿は、狼刀の心に深く刻み込まれたことだろう。
「ああ、絶対だ」
美しく光る黄色い瞳を見据え、狼刀は力強く頷いた。
◇
サンライト城。
姫を助け出した勇者として、べリムト、ドルフィン、狼刀は王からの褒美を受け取っていた。
べリムトは姫の側仕えにしてほしいと。
ドルフィンは一族復興の夢のために力を貸してほしいと。
狼刀は魔王についての情報を。
「それについては、私が」
いかにも歴戦の勇士といった人物が立ち上がった。
「この地を支配する魔王は様々な魔法に通じる存在だ。その上、大量の悪魔や魔物を使役しているという。奪った城を根城とし、難攻不落のアンデットに門番をさせ、幹部達に各地を攻めさせる周到さ。その幹部達も、一騎当千の化け物揃いときた。
眼光だけで死を与え、爪の一振で地形を歪め、果ては伝説に謳われるドラゴンまで使役しているという噂まであるくらいだ。まあ、これは眉唾物だろうが。
とにかく、恐ろしい存在ということだ」
勇士は力の入った語りを終えると、兵士達の中へと戻った。周りとは明らかに存在感が違ったが、ただの兵士らしい。
王は傍らに立つ老人に目配せをし、一枚の絵を狼刀に渡させた。
「え……?」
その絵を見て、狼刀の動きが止まる。
話の流れからして、描かれているのは魔王だ。
その姿に、狼刀は既視感を覚えた。
見覚えのある。
というか、倒したことのある魔物だ。
青い顔にギラりと光る蛇のような瞳。紫色のローブを身に纏い、竜の頭の形を持った老人。
それが、この大陸に巣くう魔王の姿だった。
この世界に来て、最初に倒した敵。
それが、魔王だった。
「魔王倒してたぁぁぁぁぁぁぁああああ!?」
第一章はこのお話で終了となります。ここまで読んでいただいてありがとうございました。今後ともお付き合い願えれば幸いです。




