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無双剣士の異世界魔王討伐  作者: 紫 魔夜
第一章 冒険の始まり
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旅立ちの城

第一話。こうして、無双剣士の魔王討伐は始まった。

「ここは……?」

 異世界にて最初に狼刀(ろうと)が発した一言は、転生の間で最初に発した言葉と同じだった。だが、彼は自分の声に少し違和感を覚える。

 しかし、そんなことを気にしてる場合ではない。

 狼刀は(かぶり)を振って、思考を切り替えた。

 一寸先は闇。仄暗い闇が広がっており、部屋の全貌はわからない。けれど、狼刀は複数の視線を感じていた。

 RPG風に言うなら最初の敵を倒すところだと、狼刀は現状を判断する。

「行くか」

 彼は、オタクとまではいかないがゲーム――特にRPG――はかなりの数をプレイしていた。部活の先輩の影響で、異世界に召喚された時のシミュレーションもしたことがあるくらいだ。このくらいで動揺することはない。

 むしろ、この状況に心躍らせていた、といえるだろう。

 転生の間での一幕を気にしないほどに。

「よくきた。ゆうしゃよ」

 低く威圧感のある声がして、狼刀の思考は中断される。

 目の前に、青い顔の老人がいた。

「おまえに……」

 狼刀の知識によると、最初は見た目からして弱そうな敵が現れるものだ。実際に最初の敵は弱いし、主人公は手に入れた力を使って敵を倒すことが出来る。相場は、そう決まっているはずだ。

 だが、この老人は弱そうな見た目をしていない。紫色のローブを身に纏った魔法使いのような見た目だ。

 背後には悪魔達を引き連れ、邪悪な笑みを浮かべている。

「人じゃないのか……」

 謎の老人が人間ではなく魔物であることを理解した瞬間に、狼刀の行動は決まった。

 初期装備は、防具が布の服――というか普段着。武器は愛用の竹刀。それ以外にあるのは、謎のふくろのみ。

「おい、きいているのか。ゆうしゃ」

 最初の敵がしゃべるのは新しいな。そう思いながら、狼刀は愛用の竹刀を構え、攻撃を仕掛ける。

 老魔法使いは、竜の頭の形をした杖で竹刀を受け止めた。

 竹刀と杖がぶつかり合う。

 狼刀は両手で竹刀を振り、老魔法使いは片手で杖を扱っていた。両手と片手。込められる力は違えども、二人は互角の力で渡り合う。それこそが、老魔法使いが人ではないことを如実に物語っていた。

 しかし、戦いはいつまでも続かない。老魔法使いが防ぎきれなかった一撃が――ちょうど、剣道で一本を取るような形で――決まった。

「面!」

 頭から真っ二つに両断され、老魔法使いが消滅する。狼刀が掛け声を出したのは、剣道部の時の癖が抜けていないためだ。

 そして、この世界における竹刀は斬撃武器だと、狼刀は理解した。

「き、貴様よくも」

「許さんぞ!」

 周囲にいた悪魔達が、狼刀への怒りをあらわにし、襲い掛かる。狼刀はその攻撃を(かわ)し、あるいは受け流した。

「面! 胴!」

 掛け声を出しながら、一撃を叩き込み、消滅させていく。

 残ったのは、狼刀一人だけだった。


 改めて周囲を見渡して、狼刀は不思議なことに気がついた。部屋が明るくなり、ほとんど見ることが出来なかった壁や床が見て取れるようになっていたのだ。

 煉瓦造りの壁には爪痕が刻まれ、床に敷かれた赤いカーペットはぼろぼろに破れている。柱は半ばから折れているものや削られたものがあり、いくつには闇を照らす松明が灯っていた。

 明るくなったのは、松明のおかげだろう。狼刀はそんな風に理解した。


 廃墟――廃城といったほうがより正確か。


 主人公が最初に訪れる場所が廃城というのは、ゲームでもあまりないパターンだろう。間違った場所に転生させられたか。だがそれにしては敵が弱すぎる。普通、敵は物語が進むにつれて、だんだんと強くなっていくものだ。廃城といえば、凶悪アンデッドが跋扈(ばっこ)する難所だというのが定番だろう。

 と、狼刀はあるゲームのことを思い出した。

 物語の最初で主人公のいる城が襲われ、そこから冒険が始まるゲームだ。これはそんな世界なのだろう。狼刀はそう結論付けることにした。

「よし。じゃあ、近くの町を探すか」

 狼刀は頬を叩き、気持ちを切り替える。

 こうして、無双剣士(結城狼刀)の魔王討伐は始まった……のかもしれない。


 狼刀が城を探索していると、悪魔や鳥型などの動物を模したような魔物が襲いかかってくる。無論、全ての敵を一刀のもとに切り伏せた。

 飛んでる敵もいて、最初よりは少しだけ苦戦を強いられたが、一撃必殺であることにはかわりない。

 もっとも、最初の敵よりだんだんと手ごわくなっていくのはRPGの常である。ステータスを見ることが出来ないので少し不便ではあるが、攻撃を受けてないし大丈夫だろう。

 狼刀はそう判断し、城の出入り口に向かった。

 腰にさげたふくろには、城の中で拾ったいくつかのアイテムが入っている。物を入れてもふくろがかさばらなかったが、理由は特に考えなかった。


 天井が高い大広間の一面に、両開きの巨大な木の扉。地図がある訳では無いが、狼刀はそこが城の出入り口だと思った。

 狼刀は両手を当て、ゆっくりと扉を押し開く。扉の隙間から陽の光が差し込んだ。

 久しぶりに感じた陽の光を求めるように、狼刀は扉の外に一歩、踏み出す。

「なんだ。貴様」

 扉の外には、今までの魔物とは雰囲気の違う魔物が立っていた。漆黒の全身鎧を(まと)い、手には斧と盾。完全武装である。というか、武装(それ)しかない。

 鎧を着た魔物というより、鎧型の魔物とでもいうべき敵だった。

「どこから現れた」

 口があるようには見えないが、鎧は問いかける。

 異世界からなんて言っても通じるとは思えない。かといって、城の中からというのは、魔物の求めている答えではないだろう。

 狼刀は答えることを放棄して、竹刀を構えた。

「我に勝負を挑むとは、命知らずめ」

 鎧型の魔物は、狼刀が話をする気がないとわかると、盾を持った左手を前に突きだし、斧を振り上げた。


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