無防備なヒロイン
第十七話。三度目のヒロイン登場?
柵に囲まれた荒野の一角にある天空民の町・ワラフス。
狼刀はそこで四度エンペラーダイルと対峙していた。エンペラーダイルは、聞き慣れた決めゼリフを放つ。
「狩りに時間はかけない主義でな。我が必殺技を見せてやろう」
両手を地面に突き刺して、猛スピードの突進。狼刀は慣れた手つきで城壁の盾を構え、エンペラーダイルを待ち受ける。
「そんな盾ごときで、我が必殺技を防げるものか」
勝ち確定。
狼刀は大きく前に踏み込み、盾ごと体当たりをかました。エンペラーダイルは硬い盾に押し負け、その場に倒れこむ。その隙を見逃すことなく、狼刀は竹刀をエンペラーダイルの背中に叩き込んだ。
「相手が悪かったな」
「がぁぁ……」
エンペラーダイルは短く悲鳴をあげると、消滅した。
狼刀は町の最奥――旱の祠に向かい、空を見上げる。
だが、予想していた少女はいなかった。
「あんた何よ」
戸惑っていると、後ろから声が聞こえた。
狼刀が振り返ると、目の前にドルフィンがいた。
黄色い瞳に栗色の髪の毛。手は入れていないだろうに、潤った血色のいい肌をしている。全体的にはあどけなさの残る、美しいというよりは、可愛らしい少女だった。
「聞いてんの?」
「っ、悪い。俺は結城狼刀だ。魔王討伐の旅をしてる。君は?」
しばし見入っていた狼刀だったが、簡潔に自己紹介を行い、少女へと問いかける。
ドルフィンは値踏みするように狼刀を観察してから、わざわざ空に飛んだ。見下ろされる形となるが、悪いことばかりではないため、狼刀は何も言わない。
「あたしはドルフィン。偉大なる天空民、最後の生き残りよ」
「協力してほしい。魔物に支配された町を救うために秘宝の力が必要なんだ」
狼刀は食い気味に要件を告げた。
「ふーん。わかったわ。でも、あたしがいないと使えないわよ」
「あぁ、わかった。一緒に行こう」
狼刀にも断る理由はない。ドルフィンを仲間に加え、狼刀は町を出た。
「行くわよ。ロート」
ドルフィンは楽しそうに、笑顔でついてきた。
てってけてー
天空民の最後の生き残り、ドルフィンが仲間になった。
所持アイテムは天空民族衣装、旱の杖、破魔の指輪。
森の中の集落。技巧の町ネプトン。
狼刀にとってはこの町も四度目。ドルフィンと来るのですら三度目だ。
もはやおなじみとなったカイザーシャークの配下――死霊騎士の手荒い歓迎。もう四度、八体も、倒しているため、攻略法は完璧。もはや、敵ではなかった。
狼刀は焦ることなく、二体を倒す。
「いまだ、ドルフィン!」
自己紹介は待つまでもない。狼刀はすぐにドルフィンに合図を出した。
「りょーかい」
軽い調子で返事をすると、ドルフィンは旱の杖を天にかざす。それに合わせて、背後にあった池が干上がった。どこかにいたであろう分身体も蒸発したのだろう。
「ほう。私の分身達を倒せる人間がいるとは驚きましたねェ」
民家の扉を開け、カイザーシャークが姿を現した。
身長三メートルは下らない鮫型の異形である。とはいえ、分身体も含めて何度も見てきたその姿は、もはや見飽きていた。
「魔王軍では、カイザーシャークと呼ばれています。以後お見知りおきを」
いつもの名乗りを上げるカイザーシャークに向かって、狼刀は竹刀を構えて、走る。
「なっ、人の名乗りはしっかりと――」
カイザーシャークは慌てたように武器を構えるが、何もかもが遅かった。気づくのも、動きも。何もかもが、致命的に遅い。
狼刀は軽やかなステップで、無防備な横腹に竹刀を突き立てる。
「悪いな。聞き飽きたんだよ」
「ぐぁ……」
呻き声をあげ、カイザーシャークは消滅した。
火の町アレスコは、魔王配下の天軍師よって、脱出不可能の牢獄タウンとなっていた。とはいえ、他の町のようにいきなり襲われることはなく、普通に生活している住民もいる。
その中には鍛冶屋を営んでいる人もいた。狼刀が訪ねたのは、まさにそこ。鍛冶屋てっちゃんである。
目的は、魔封石を加工してもらうため。
「兄ちゃん。杖、持ってるかい?」
鍛冶屋の旦那――テッチリさんがそういった。
「連れが持ってる」
「なら杖を出しな、小娘。杖がないと加工できねんだよ」
鍛冶屋の姉御――テッカさんがそういった。
「わかったわよ」
ドルフィンは渋々といった様子で、旱の杖を差し出した。
「なんだいこりゃ。見たことのない宝石だが」
テッチリが宝石を見ながら、首を傾げ尋ねてくる。
「天空民の町に伝わる秘宝で旱の石って言います」
狼刀が答えた。
ドルフィンは何か言いたげな表情を浮かべたが、狼刀の視界には一切入っていない。
「元の効力を失わせずに、明日の朝までに加工できますか?」
「鍛冶屋の意地にかけて。やって見せるぜ、兄ちゃん」
「ああ、あたしらに任せて置きな。今日中にでも完成させてやるさ」
狼刀の無理難題に対して、鍛冶屋親子は自信に満ちた表情で答える。
狼刀は改めてお願いをし、宿屋に向かった。