表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無双剣士の異世界魔王討伐  作者: 紫 魔夜
第一章 冒険の始まり
16/132

死神神官

第十五話。危険な神官デス。

「行くであります」

「ちょ、まて――」

 狼刀(ろうと)の静止も待たずに、ベリムトが屋敷の扉を開けた。大量の虫が溢れ出してくる。

死絶魔法(ラサース)

 べリムトがそう言い放つと、目の前に迫っていた大量の虫の大半が、消滅した。

「は……?」

「へ……?」

 狼刀とドルフィンが呆気に取られていると、

死絶魔法(ラサース)

 再びべリムトが魔法を放ち、残っていた虫を一掃した。

「さあ、行くであります。二人とも」

 呆然としている二人を意に介さず、べリムトは屋敷の奥へと消えていく。狼刀は慌てて追いかける。ドルフィンはしばらく動けずにいたが、二人に遅れて屋敷へと入っていった。


 廊下の突き当り、様々な像が立ち並ぶ美術館のような部屋。そこに天軍師はいた。シルクハットに燕尾服、右手には杖を携えている。

「やあ、ようこそ。お二人さん、どうかおかけください」

 天軍師は、狼刀とべリムトに座るよう促してくる。

死絶魔法(ラサース)

 天軍師の言葉など、まったく気にしないべリムトがそこにいた。

「また、あなたでしたか。大人しく帰れば、見逃してさしあげますよ」

「今度は、そうはいかないのであります」

 べリムトは決意を固めた表情で言い返す。

「そうですか」

 天軍師の表情に変化はなかった。返事など聞いていないかのように。それから、天軍師は優しい笑みを浮かべ、二人に語り掛けてくる。

「私は天軍師」

死絶魔法(ラサース)

「君たちが」

死絶魔法(ラサース)

「来るのを」

死絶魔法(ラサース)

「待っていたよ」

死絶魔法(ラサース)

「…………」

死絶魔法(ラサース)

「無駄ですよ?」

 話を聞かないべリムトに対して、天軍師が笑みを浮かべる。

 べリムトは、死絶魔法の連発をやめた。そして、

我望(われのぞ)むは(なんじ)らが() 我求(われもと)むは(なんじ)らが(しかばね) 万者殲滅(ばんしゃせんめつ) 死屍(しし)――」

 危険度の高い別の魔法を放とうとする。

相殺呪法(アルマロス)

 小さく、素早く天軍師が呟いた。

 町全体(・・・)に展開していた魔法陣が消滅する。もっとも、狼刀には魔法陣は見えていないし、ドルフィンは二人を探して屋敷を動き回っていたので、気づくことはなかったが。

 魔法陣を消されたべリムトは、驚くというよりは、安心したような表情を浮かべていた。

「まったく。町の住人を皆殺しにするつもりですか」

 天軍師は呆れたようにため息をつく。

 明らかに、立場が逆だった。

 べリムトはうつむいたまま動こうとしない。狼刀は、何が起こったのか理解することが出来ないでいた。

 その空気を壊したのは、天井を壊すようにして入ってきたドルフィンであった。素直にまっすぐ行けば着くのに、彼女は2階へ回っていたようだ。

「やっと見つけた。って、あれ? なんかタイミングまずかった?」

「そんなことはありませんよ。さあ、あなたもおかけください」

 天軍師はドルフィンに座るよう促してくる。

 ドルフィンは素直に天軍師の向かいに座った。狼刀と、少し遅れて死神神官・ベリムトも、天軍師の向かいに座る。丁度ドルフィンを挟むように。

 天軍師は満足そうに笑みを浮かべ、静かに口を開いた。

「私は天軍師。待っていたよ、勇者ご一行さん」

 どこからともなく、水の注がれた三つのコップを差し出す。まるで手品のような早業だ。

「どうも」

「どもー」

 狼刀とドルフィンは簡潔にお礼を述べる。べリムトは何も言わず、動きもしなかった。三人とも水には手を付けない。

「両手に花だね。お嬢さん」

「花? 見間違いよ」

「そうかね」

 執事達に色々な料理を出させながら、天軍師は話を進める。

「そういえば、まだ名前を聞いていなかったね」

「俺は結城(ゆうき)狼刀」

「ドルフィン」

「べリムトだ……」

「みなさん。いい名前ですね」

 それぞれの自己紹介を聞いて、天軍師は楽しげに笑った。

「料理に毒なんて入っていませんよ。食べてください」

 天軍師はそう言いながら、料理を皿によそっていく。ドルフィンとべリムトは、一切それに手を付ける気配はない。しかし、狼刀は臆することなく、それを食べた。

「それで、この屋敷には何の御用で」

 天軍師が笑顔でそう聞いてくる。

「お前を倒しに来た」

「ほう。それでは、何故のんきに食事などしているのですか」

「うくっ……」

 天軍師の質問に、狼刀は嗚咽を漏らし、口を押えた。顔から血の気が引いていく。

「何故、倒しに来た相手の言葉を信じるのでしょうかね。結城狼刀さん」

「なん、だ……と……」

 天軍師は笑顔を浮かべ、

「料理に毒が入ってないなんて、はったりに決まっているでしょう。致死毒草(トリカブト)。私の持つ毒草の中でも、優れた致死性を持つ植物が入ってますよ」

 言い切った。

 狼刀の顔が青ざめる。

「そろそろ、苦しみだす頃でしょうか」

 天軍師の言葉が合図かのように、狼刀は喘ぎ出した。飲み込んだものを吐き出さんとするように、体を大きくくねらせながら深い呼吸を繰り返す。

「き、貴様!」

 べリムトは怒鳴りながら席を立ち、そのまま、前に倒れこんだ。

「魔力の枯渇ですね。後先考えずに、魔法を使い続けるからですよ」

 天軍師は不気味な笑みを浮かべ、優しくべリムトに語り掛ける。

「くっ……太陽の手鏡さえ、あれ、ば……き、さ……」

 べリムトは、憎々しげにそうつぶやいた。

「三人まとめて、冥府に送っておいてさしあげますよ」

 そんなやり取りを横目で見ながら、狼刀の意識は途絶えていった。

 ――太陽の手鏡。そのキーワードを強く心に刻みんで。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ