7.見つかった二人
7.見つかった二人
義昌と志穂が見つかったのは夏休みの終盤、水泳教室の最終日だった。
新学期に備えてプールの水を入れ替えようと、教頭と用務員がプール下のポンプ室に立ち入った。ポンプの裏側に子供の足が見えた。
「おい!誰だ?こんなところで何をしている?」
その子は呼びかけに答える様子もなく、微動だにすらしなかった。教頭は傍へ歩み寄りポンプの裏側を覗きこんだ。そこには二人の子供が横たわっていた。
「河原さん!救急車、い、いや、霊柩車か?違う。警察だ。警察を呼んでくれ!」
教頭のあまりの狼狽えぶりに用務員の河原は教頭のそばへ駆け寄った。そこには見るも無残な二人の子供の遺体が転がっていた。
義昌と志穂が見つかった。そのことはすぐに町中に知れ渡った。僕もすぐに学校へ向かおうとした。けれど、両親がそれを許さなかった。
「行ってはいけない」
「どうして?」
「どうしてもだ!そんなことより、もうすぐ新学期だぞ。宿題は終わっているのか?」
確かにやり残している宿題があった。僕はやむなく宿題を片付けることにした。そんな時、陽子ちゃんが訪ねてきた
「しんちゃん居る?」
僕は宿題をやる手を止めて、縁側に出た。
「どうしたの?」
「義昌くんと志穂ちゃんのこと…」
僕が一番知りたかった情報を陽子ちゃんが持ってきてくれた。陽子ちゃんも洋兄ちゃんもやはり「行くな」と言われたらしい。けれど、洋兄ちゃんはこっそり家を抜け出して様子を見てきたのだという。それによると…。
洋が学校に来たときには既に人だかりが出来ていた。洋はその中に信広の姿を見つけた。
「おい、信広。どうなってんだ?」
「今、警察の人が現場検証しているんだって」
「それで二人はどうなった?」
信広はそれには答えず、ただ首を横に振った。どうやら信広もそこまでは知らないようだ。ところが、近くに居た大人たちの話し声が聞こえてきた。
「可哀そうにね」
「誰があんな惨いことをしたのかしら」
「本当にね。お腹が切られて内臓が取り出されていたんですって?」
それを聞いた途端、信広がおう吐しそうになって口元を抑えた。
「野良犬にやられたのかもしれないって話よ」
「まあ!怖いわ。うちの子に当分外に出ないように言っとかなくちゃ」
「そうよね。もうすぐ学校も始めるのにこのままじゃ、安心して学校にもやれないわよね」
「本当よね…」
洋は話の途中で信広を連れてその場を離れた。信広は人だかりの外に出たとたん、こらえていたものを一気に吐き出した。と、同時に声を上げて泣き出した。
「義昌と志穂ちゃんが死んじゃったよ…」
そんな信広の様子を見ながら、洋は声をかけてやることもできずに、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「やっぱり、来るんじゃなかった…」
陽子ちゃんは口をとがらせてふてくされた表情をした。
「お兄ちゃんったら、何も教えてくれないんだよ。ずるいよね。ねえ、しんちゃん、今から一緒に行かない?」
「無理だよ。お父さんが行くなって…」
「しんちゃんちもそうか…。義昌くんと志穂ちゃんどうなったんだろう?」
「見つかったんだから、良かったんじゃないかな」
状況を知らない僕はそんなことを言って陽子ちゃんを安心させた。僕が本当のこと知ったのはその日の夕方だった。テレビのニュースで事件のことが報じられたのだ。父はすぐにテレビを消そうとしたけれど、僕はそれを制してテレビに近づいて画面を見つめた。
『現場には争った跡や飛び散った血痕も残っておらず、殺害してから遺棄されたものと思われます。当時、プールには鍵がかかっており、犯人はどうやってここへ運んだのかが…』
ニュースはまだ続いていたけれど、僕はそのまま縁側へ出た。陽子ちゃんもこのニュースを見ただろうか…。
新学期が始まった。登校初日には父兄が学校まで子供を送るよう通達が出されていた。もちろん、あの日以来、僕たちは外へ出るのを禁じられていた。「犯人が捕まるまでは子供だけで出歩かないように」と。
学校に着くとすぐに体育館へ集められ、全校集会が開かれた。既に誰もが事件のことを知っていた。体育館の中はざわめきだっていた。
「静かに!」
教頭がマイクのボリュームを上げて叫んだ。一瞬、静寂が訪れる。校長が壇上に上がり神妙な顔つきで第一声を発した。
「楽しいはずの夏休みに悲しくて残酷な事件がこの学校の子供たちに起こってしまいました。犯人はまだ捕まっていません…」
二人と同級生の女の子がしくしくと泣き声を漏らす。それが合図のように、体育館の中は悲しみに包まれた。教師たちも声には漏らさないまでも皆涙を浮かべて悔しそうな顔をしていた。校長は毅然とした態度で話を続ける。そして、最後にこう締めくくった。
「この世に悪が栄えたためしはありません。犯人はきっと捕まるでしょう。そして、その罪を償うのです。我々は1日でも早くその日が来ることを願いつつ、二人の冥福をお祈りしましょう」
それから、黙とうが行われ、子供たちは解散した。それぞれの教室に戻ると今度は担任から同じような話をされた。
僕はぼんやりと窓の外を眺めながら先生の話を聞いていた。聞いていたけれど、声が聞こえるだけで、何を言っていたのかは覚えていない。
「僕の力が足りなかった…」
真二くんだった。