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6.同じ血

6.同じ血


 教員として赴任していった母校で僕は再び真二くんに出会った。まさか、また会えるとは思っていなかった。驚きはすぐに懐かしさに変わった。けれど、再び彼が現れたということは、またこの学校で何かが起ころうとしているからなのではないだろうか…。そんな不安を胸に、僕は窓際の一番後ろの席へ近づいて行った。

「真二くん、僕を歓迎してくれるためにわざわざ現れたわけじゃないんだろう?」

「さすが。察しがいいね。どうも、うちの家系は霊感が強いみたいだ」

「えっ?それって…」

「うん。陽子ちゃんの子が霊を呼び寄せてる。大体は無害なものばかりなんだけど、一つだけ悪霊が混じっている。そいつはかなり危険な奴だ」

「そんな…。どうすればいい?」

「そんなに焦らないでよ。それを教えるために来たんだから。言っておくけど、僕にはもう、力が無くなっているのは覚えているよね…」

「あっ!」

 そう、僕たちが子供のころ、彼は僕たちを助けてくれた。その代償として、彼は霊に対抗する力を失ってしまっていた。

「じゃあ、今回は…」

「あの子しか居ないでしょう。彼女には僕と同じ血が流れているんだから」

 確かに陽子ちゃんは真二くんの姪に当たる。

「無理だよ。たとえ同じ血が流れていたとしても、陽子ちゃんにそんな力があるとは思えないよ」

「そりゃそうさ。今まで必要としなかったものだからね。でも、間違いなくあの子には力がある。それも、僕より何倍も強い力がね」

「でも、どうすればその力を…」

「それは真一くん次第だよ」

 そう言うと、真二くんは姿を消してっしまった。入れ替わりに教室のドアが開いた。

「あっ!居た。ねえ、せっかくだから一緒に帰ろうよ」

 陽子ちゃんだった。



 義昌は志穂に告白することが出来ないまま最後の部屋まで来てしまった。そして、最後の部屋、美術準備室のドアを開ける前に覚悟を決めた。覚悟を決めて唱えた。

「南無阿弥陀仏」

 そして、思いっきりドアを開けると志穂を中に引っ張り込んだ。

「義昌くん、急にどうしたの…」

 志穂は驚いて義昌に尋ねた。義昌が答えようとした瞬間、志穂は凍りついた。義昌の背中には魑魅魍魎の類が何体もまとわりついていたのだから。彼らは義昌が唱えた念仏に過剰反応し義昌を自分たちを葬り去る敵だと思い込んでしまったのだ。志穂は恐怖のあまり声も出すことが出来なかった。

 義昌はあっという間に悪霊たちに連れて行かれてしまった。一人残された志穂はその場にへたり込み、動けなかった。

「ごめんよ。見られたら連れて行かなきゃならないんだよ」

 志穂の前に現れたモアモアしたものがパジャマ姿のお婆さんになってそうつぶやいた。


 その後に真一と陽子が美術準備室に来たときには二人は既に霊界へ連れ去られていたのだ。ただ、まだ魂を取られてはいなかったので、その体は現世から消えてしまっていた。



 二人が消えたことで、大騒ぎになったあの時、確かに、陽子ちゃんの周りにもおかしなことが起こっていた。いつも一緒に居た僕は彼女本人よりもそのことを感じていたのかもしれない…。


「陽子ちゃん!学校では教師と保護者なんだから、あまり馴れ馴れしくしないように」

 僕はそう言って、教室に入ってきた陽子ちゃんをけん制しながらも、その姿をくまなく見まわした。やっぱり、彼女にそんな力があるとは思えない。

「なによ!いいじゃない。幼馴染なんだから」

 そう言って、彼女は僕の方に近づいてきた。

「ここなんでしょう?」

「えっ?」

「真二くんの席」

 そっか、彼女には真二くんは見えなかったんだよな…。そんなことを思い出しながら彼女に返事をしようとした途端に真二くんが現れた。

「あっ!」

「どうかした?」

「いや、なんでもない…」

 一瞬だった。真二くんは陽子ちゃんの体の中に入って行った。入る前、僕に向かってウインクをした。そんな風に見えた。

「それより、どこか体、おかしくない?」

「なによ、それ!失礼ね…。さあ、帰るわよ」

 陽子ちゃんはそう言って、僕の手を取った。


 車の中では真二くんが待っていた。彼女の息子のほうだ。

「よろしくね」

 僕はそう言って彼に挨拶をした。そして、後部座席に乗り込んだ。彼が僕のこの挨拶をどういうふうに感じていたのかを、僕は後になって彼本人から聞かされて驚いた。もしかして、彼には未来を見ることが出来る…。そんな力があったのではないか?そう思わせるエピソードだった。このエピソードについては後々そう思わせる出来事が起こるのだけれど…。

「しんちゃん、まだご飯食べてないでしょう?うちに寄って行きなよ。今日はこの子の入学祝でたくさんごちそうを用意しているみたいだから…」

 僕は真二くんの言ったことが気になって陽子ちゃんの言葉には上の空だった。

「ねえ!聞いてる?」

「あ、ああ。それでなんだっけ?」

「まったく!そんなんで先生なんかやって行けるのかしら?」

 陽子ちゃんはそう言うと、車にエンジンをかけて、いきなりアクセルを踏み込んだ。


 彼女の両親や洋兄ちゃんに歓迎されて、僕はかなり酔っていた。酔い覚ましに縁側に座っていると、陽子ちゃんが水の入ったコップを持ってきてくれた。

「今日はありがとう。真二はしんちゃんのことを父親みたいに感じているかもしれないわ」

「まさか…」

「本当はいい人なんだけどね。ちゃんとあの子の誕生日なんかにはプレゼントを買ってきてくれたり、父親らしいこともしっかりしてくれていたのよ。ただ、ほとんど家に居なかったの。海外へ赴任することが多かったから」

「別れた旦那さんのこと?」

「そう…」

「陽子ちゃんは彼のことを愛していたんだろう?」

「今でも愛しているわ。でも、あの子にはもっと愛情を身近に感じて育ってほしかったから」

「そっか…。ここなら愛情だけはたっぷり注げるね」

「ねえ、しんちゃんは彼女とか居るの?」

「なんだよ、突然。そりゃあ、彼女の一人や二人」

「だよね!居ないわけがないよね」

「あ、いや…。その…」

 彼女なんか作ったことがない。僕の中にはずっと陽子ちゃんが…。そう言おうとしたのだけれど、彼女は既に僕の肩にもたれかかって寝息を立てていた。






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