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13.陽子ちゃんの覚醒

13.陽子ちゃんの覚醒


 僕と陽子ちゃんはプール下にあるポンプ室の前に立った。そして、ゆっくりとドアを開けた。ひんやりとした空気と共にカビ臭いにおいが漂ってきた。

「行くよ」

 陽子ちゃんが頷いた。僕たちはポンプ室の中に入った。ヤツがどこに居るのかは判っていた。僕たちはそっとポンプの裏へ回り込んだ。

「真二!」

 陽子ちゃんが駆け寄った先には真二君が一人倒れていた。どうやら気絶しているだけのようだったので、僕たちは取り敢えず胸を撫で下ろした。。

「あいつはどこへ行ったんだ…」

 そう思った瞬間、天井から黒い影が襲いかかって来た。陽子ちゃんはとっさにわが子を守ろうとして真二君に覆いかぶさった。黒い影は僕と陽子ちゃんの間に降り立つと、背中越しに陽子ちゃんの首を締め始めた。薄暗い部屋の中に浮かび上がったその姿は血まみれの大男の姿だった。そして、その姿は確かに見覚えのあるものだった。

「くそっ!」

 僕は男に体当たりした。けれど、男はびくともしない。

「早く出てこい」

 男が口にした。ヤツは真二君に復讐しようとしているのだ。そして、真二君が陽子ちゃんの中に居るのを知っている。でも、真二君にはもうあの頃の力はない。陽子ちゃんが自分の力で何とかするしかないんだ。陽子ちゃんが覚醒するまで時間を稼がなきゃ。僕は力の限りヤツを妨害しようとした。何度も何度もかかって行った。けれど、ヤツは僕にかまわず陽子ちゃんの首を絞め続ける。

「真二君!何とかしてくれよ」

 僕は思わずそう叫びながらヤツにもう一度体当たりをした。すると、一瞬、ヤツの体を陽子ちゃんから引き離す事が出来た。真二君が力を貸してくれたのだ。でも、これが真二君の最後の力だった。僕は陽子ちゃんをかばうようにヤツの前に立ちふさがった。ヤツはそんな僕にこぶしを突き刺した。猛烈な痛みが僕の体を貫いた。僕は思わずその場にうずくまった。

「しんちゃん、ありがとう」

 陽子ちゃんはそう言って僕の手を握り締めた。その手はいつも以上に柔らかくて温かかった。



 父が心配して顔を出した。ゆでたトウモロコシを持って来てくれた。

「腹が減っただろう。陽子ちゃんはどう?さっき、横山さんが心配して来ていたんだけど」

「まだ眠ってる。でも、もう目が覚めるよ。僕には分かる」

「そうか。だったら、横山さんにはお父さんからうまく話しておこう」

「ありがとう…」

「いいにおい。お腹減っちゃった」

 陽子ちゃんだった。


 陽子ちゃんはトウモロコシをお腹っぱい食べると、満足そうに笑った。

「真二君と遊んでたの」

「なんだって!」

「新ちゃんによろしくって言ってたよ」

「それで真二君は?」

「もう帰るって…」

 僕は家を飛び出した。今までしたことがないくらい全力で走った。学校に着くと、教室に飛び込んだ。窓際の一男後ろに真二君は居た。



「ここはあなたの居る世界じゃないの」

 そう言うと陽子ちゃんはヤツに向かって気を発した。ヤツは悲鳴を上げながら、もがきだした。しばらくすると、ヤツは動かなくなった。すると、ヤツの周りに柔らかな光が降り注いだ。ヤツの恐ろしい顔は見違えるほど穏やかな表情に変っていた。

「これが陽子ちゃんの力だよ」

「えっ?」

「僕は力でねじ伏せてやっつけることしかできなかった。だから、怨念を消し去ることが出来なかったんだ。でも、陽子ちゃんは怨念を残さずに悪霊を成仏させられるんだ」

「どうしてそんなことが…」

「僕はずっと一人ぼっちだった。陽子ちゃんには真二君がいる。そして何よりも君が居る。守るべき人がいて愛してくれる人がいる。僕と陽子ちゃんの決定的な違いはそこかな。もう、僕の仕事は終わったよ。今度こそ本当にサヨナラだね。しんちゃん、君がそばに居る限り、もう、こんなことは二度と起こらないと思うよ。じゃあ…」

 真二君は光の中に入って行くとヤツを連れて空へ昇って行った。







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