11.協力者たち
11.協力者たち
翌日、学校に行くと同僚の先生たちが大騒ぎしていた。
「何かあったんですか?」
「出たのよ!」
隣の席の村山先生がそっと耳打ちしてくれた。
「えっ?」
「幽霊よ!幽霊が出たのよ。昨日、用務員さんが夜の見回りをしていたら1年3組の教室で人魂を見たと言ううのよ」
「1年3組ですか?」
「あ、1年3組は野村先生のクラスだったわね。いま、校長と副校長が教室を調べているの。野村先生も行ってみたら?」
僕は急いで教室へ向かった。教室の前では既に登校して来ていた生徒たちが待たされていた。
「あ、先生。何かあったの?校長先生が教室に入っちゃだめだって」
「そうか。もうちょっとここで待っていなさい。先生が今聞いてくるから」
僕は教室に入ると校長にたずねた。
「人魂が出たんですって?」
「ああ、用務員がそう言っている。念のために調べているんだが、特に不審なところはないようだ。取り合えず、生徒たちを入れても問題はないだろう」
校長は同意を求めるように副校長の方を見た。副校長も頷いた。
「待ってください。今日はここに生徒を入れるのはやめましょう」
僕には予感がした。そして、真二くんの言葉が脳裏をよぎった。
『陽子ちゃんの子が霊を呼び寄せてる。大体は無害なものばかりなんだけど、一つだけ悪霊が混じっている。そいつはかなり危険な奴だ』
念のため、1年3組は視聴覚教室で授業を行うことにしてもらうよう、校長に頼んだ。
「それで、どうするんですか?野村先生には何か考えがあるようですが」
「はい。昔の事件のことを聞いたことはありますか?」
「はい。だからこうして調べてみたんですよ」
「僕なりに確かめたいことがあるので、任せてもらってもいいですか?」
「野村先生がそう言うのならお任せしましょう」
校長はそう言って僕の肩に手を置くと、副校長を伴って1年3組の教室を後にした。副校長が校長に何やら不満げなことを言っているのが耳に入ってきたけど、僕は生徒たちに視聴覚室教室へ行くように指示すると携帯電話を手に取った。
「もしもし…」
一時限目の授業が終わるのと同時に携帯電話が鳴った。電話は陽子ちゃんからだった。
「真二くん、すぐに来て。1年3組の教室」
僕はそれだけ言うと、電話を切って1年3組の教室へ急いだ。
「お待たせ」
教室には陽子ちゃんが居た…。正確には陽子ちゃんの姿をした真二くんが居た。
「ここにはもう居ない」
陽子ちゃんが呟いた。
あの時、真二くんは陽子ちゃんの体の中に入っていった。それ以来、僕がそれなりの意思を持って話しかけるといつも顔を出してくれる。姿は陽子ちゃんのままなのだから、なんだか妙な感じだけれど。先ほども僕が陽子ちゃんに電話を掛けた時、電話に出た時点で既に真二くんだった。
「もしかして…」
「たぶん」
僕は真二くんと視聴覚教室へ向かった。
僕たちが教室に行くと、陽子ちゃんの息子の真二くんはすぐに気が付いた。そして、僕たちのもとにやって来た。
「お母さん、どうしたの?」
「ちょっと、おじいちゃんが具合悪いのよ。だから、迎えに来たの。今日は早退させてもらいましょう」
陽子ちゃんはそう言って真二くんの頭を撫でた。今は陽子ちゃんだ。陽子ちゃんは真二くんと意識を共有している。自分がやるべきことをちゃんと理解している。あの日、真二君が陽子ちゃんの体に入ってから二人は意識を共有することが出来るようになっていた。
陽子ちゃんがそう言って微笑むと、真二君は僕の方をチラッと見た。僕が頷くと安心したように笑うと自分の席に戻ってランドセルを背負った。その様子を見ながら僕は陽子ちゃんの中の真二君に話しかけた。
「居るのかい?」
「うん。真二君のそばに張り付いているよ。僕のことにはまだ気づいていないみたい」
「そうか…。大丈夫?」
「陽子ちゃんはまだ完全に覚醒していないけど、大丈夫だと思う…」
「君にしてはずいぶん弱気だね」
「まあね。それだけアイツが手強いってこと」
真二君が戻って来たので、陽子ちゃんは真二君を連れて教室を後にした。
学校では真二君が陽子ちゃんを守ってくれる。学校を離れることが出来ない真二君は力の一部を僕に与えたという。本来なら憑依すればその人の体を借りてどこへでも行けるのだという話だった。だから、あの時は刑事さんに憑依して悪霊と戦った。しかし、子供の体には憑依出来ないのだという。
授業が終わって帰るときに陽子ちゃんが僕のところにやって来た。
「しんちゃん、一緒に帰ろう」
「うん」
校門を出ると、陽子ちゃんが僕の手を握って来た。陽子ちゃんは本能的に僕に触れていいなければならないと感じているように思えた。僕は恥ずかしかったけれど、嬉しくもあった。クラスメイト達が僕たちを冷やかしながら追い抜いて行く。
陽子ちゃんちへ行く前に僕は陽子ちゃんを連れて自分の家に寄った。畑仕事をしていた父に事情を話した。父は陽子ちゃんの痣を見て僕の話を信じてくれた。信じてはいなかったのかもせれないけれど、父は優しく微笑んで頷いた。
「いいよ。今夜は家に泊まってもらおう。昨日のお返しだと横山さんにはお父さんから話しておくよ」
「ありがとう。お父さん」
僕はそのまま陽子ちゃんを連れて部屋に行った。部屋でもずっと陽子ちゃんの手を握っていた。しばらくすると洋兄ちゃんが陽子ちゃんの着替えを持って来てくれた。洋兄ちゃんは僕たちの前に座ると静かな口調で僕に聞いた。
「義昌と志穂ちゃんを殺ったヤツか?ヤツが陽子に取り憑いているのか?」
「うん…」
僕は事件のことや真二君のことを洋兄ちゃんに話した。洋兄ちゃんは僕の話を聞き終わってもしばらく黙っていた。そして立ち上がると一言だけ言った。
「真一、陽子を守ってくれるな?」
僕が頷くと洋兄ちゃんはニカっと笑った。
「よし!じゃあ、メシにしよう。支度出来たから呼んで来いと言われてたんだ」
その直後に洋兄ちゃんのお腹の虫が大声で悲鳴を上げた。




