雨と川と鰐の旅
ある所に大きな川があった。そこには沢山の生物が住んでいて、鰐もその中の一匹だった。鰐は川の恩恵にあずかり、川を『義人』として褒め称えた。鰐は「あの人となら共に生きることが出来るのでは」と希望を抱き、川から離れることはしなかった。
ある時、雨が降り、洪水が起こった。産んだ卵が全て流されてしまったので、鰐は川に文句を言った。
「私は貴方を味方と思い慕ってきたのに、なぜ貴方は私に害を与えるのか」
川は言った。
「もともと私は誰の敵でも味方でもない。ただ時の流れに応じ、変化しているに過ぎない」
「――という理由で、私は『雨の降らない川』を探しているのさ」
と、鰐は言った。
「じゃあ私はもう行くよ。ここは暑くてかなわないからね」
と言うと、鰐は太陽が照り付ける砂漠の中に、「鳥みたいに空が飛べたらねえ」と愚痴をこぼしながら去っていった。
少女は白虎にきいた。
「雨が降らない場所なんてあるのかしら」
「あったとしても、水がなければ生きられないだろ」
「そう」
「結局、自分を変えなければ何処に行っても同じだろうよ」
少女は、
「でも、環境が変われば人も変わるわ」
と、茫洋とした砂漠を何処ともなく眺め、そう言った。
「その環境が今より良ければいいけどな」
「そうね」
と、少女は言った。




