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名無し  作者: 猫々
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迷いの森と亀

 ある所に『道が多岐に分かれた森』があった。その森に入った者は死ぬまで出られないとされ、森は畏怖の念から『死の森』と呼ばれた。その一方で、「死の森を抜けることが出来れば望みが実現する」という伝説もあった。

 そんな森の中に一匹の年老いた亀がいた。元々この地に住む者で、日課の食料探しをしていると、一人の少女と一頭の白虎が彼の前に現れた。

「おや、迷い人ですかな」

「いいえ、ただの放浪者よ」

 と、少女は答えた。

「ではここがどういう場所なのか、ご存知ではないのですか?」

「知らん」

 と、間髪を容れずに白虎は答えた。

 「ほう」と感嘆の声をあげると、亀はこう言った。

「ここは『迷いの森』ですよ」

「『迷いの森』?」

 白虎は訝しげな顔をした。

「ええ、道が多岐に分かれているので私はそう呼んでいます。外の人は『死の森』と呼んでいるそうですが」

 合点がいったとばかりに白虎は喜んで言った。

「へえ、だからさっきから骸が多かったのか」

「そうだったかしら」

 と、無表情のまま少女は言った。

「ところで、あなたはここで何をしているの」

「そうそう、屍肉を漁っている途中でした」

 と言うと、亀はからからと陽気に笑った。

 白虎は尋ねた。

「爺さんはここに住んでいるのか?」

「はい、昔はここから出ようとそれこそ昼夜を問わず這いずり回ったものですが、こんな所でも住み慣れれば楽しいものですな」

 と、微笑みながら亀は言った。

「最後に一つ、聞いてもいいかしら」

「こんな老いぼれに答えられることなら何なりと」

 少女は尋ねた。

「なぜここから出ようと」

 少しの間考える素振りを見せると、亀はこう答えた。

「理想…いや、欲望ですかな。どうしても現実を変えたかった。しかし、私には無理だったようです」

「そう、では私達はこれで」

 と言うと、少女はさっさと歩いていった。白虎も後に続いた。亀はその二人の背中を眺めながら、

「この森には『苛政』という猛獣などがいますので、お気をつけて」

 と告げた。


 暗く鬱蒼とした森の中を、少女と白虎は並んで歩いていた。

「しかし気味の悪い森だな。こんな所でどう楽しむんだ」

 白虎は言った。

「お前ならこの森を消すことぐらい出来るだろ」

「出来るわ。でも障害物が全て無くなったとしても、私達には目指す場所がないわよ」

「それはそうだが……」

「まあゆっくり行くわ」

 白虎は憮然とした面持ちでこう訊いた。

「…それで出られなかったらどうするんだ」

 少女は平然とした態度でこう告げた。

「そのときは、全てを諦めるだけよ」

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