酒と硬貨
ある所に二人の酔漢がいた。二人の酔漢は酒のことで言い争いをしていた。一人は「『発酵』して出来たのだ」と言い、一人は「『腐敗』して出来たのだ」と言った。議論は日が暮れるまで続いた。
そんな時、一人の少女と一頭の白虎が酔漢達の前にやってきた。酔漢達は事情を説明し、どちらが正しいか、彼等に尋ねた。
それを聞いた少女は、
「違いが分からないわ」
と言った。
白虎が「硬貨を投げて決めればいい」と言ったので、酔漢達はそれに従った。しかし、
「こっちが『表』だからな」
「いいや、こっちが『表』でそっちが『裏』だね」
と、酔漢達はまた議論を始めた。
闇が辺りを包む頃、少女と白虎は道なき道を歩いていた。
少女は尋ねた。
「なぜあの二人は言い争いをしていたのかしら」
「さあな。末端に囚われている奴のすることはよく分からん」
「そう」
「結局、是非なんてものは己の価値観を相手に押し付けるだけだしな」
と言うと、白虎は溜息をついた。そして、
「…しかし、なんでこんな真夜中に歩かなければならないんだ」
「日が出てなくても歩くことは出来るわ」
少女は問題ないと言わんばかりに、暗闇の中をすたすたと歩いていった。
「それはそうだが……」
白虎はまた溜息をついた。




