狼の群れ
ある所に『狼の村』があった。そこには狼だけしか住んでいなかった。狼達は常日頃「自分達の種族以外認めない」と志を掲げ、他の種族を追い払っていた。そのため、他の種族から疎まれたが、狼達は気にしなかった。
そんな村に一人の少女と一頭の白虎がやってきた。狼達は二人を咎め、「自分達の食糧になるように」と命じた。
少女はきいた。
「なぜ」
「俺達は飢えて困っている、施しを貰うのは当然だろう」
「そんなに飢えているなら共食いでもすればいい」
と、白虎は言った。
狼達は憤慨して言った。
「同族を殺せるわけがなかろう!」
白虎は、狼達を睨み付けてこう言った。
「なら訊くが、同じ種族を殺すことと他の種族を殺すことは何が違う」
「ふん、下位の種族が何を言うか」
と、狼達の一頭が食って掛かった。
「何を基準に上下を言っているのかは知らないが、支え無くして立つことなど出来ん」
「ならば、我々の支えとなってもらおうか!」
と言うと、一頭の狼が少女に向かって駆け出した。白虎は少女の前に立つと、狼の喉に食いつき、狼を殺した。死体を放り投げると、白虎はこう言った。
「食う者もまた食われるぞ」
「くそ、引くぞ!」
狼達は一体の屍を残し、去っていった。
「白、行くわよ」
と言うと、少女は何事もなかったかのように、すたすたと歩き出した。
「おい、この餌どうするんだ」
「置いていくわ」
少女がさっさと行ってしまったので、白虎はちぇっと舌打ちして、少女の後を追いかけた。
「血肉は捕食者を呼ぶわ」
と、少女は白虎に言った。
「また勝てばいいだろうが」
「戦いの基本は逃げること。それに、厄介事は御免だわ」
『狼の村』から離れた森の中を、少女と白虎は歩いていた。
「ねえ」
と、少女は白虎に話しかけた。
「なんだよ」
と、白虎はふて腐れた顔で、ぶっきらぼうにきいた。
「なぜ狼は群れるのかしら」
「それは自分の利益になるからだろ」
「そう」
「結局、誰かと付き合うのは自分のためなんだよ。その理由が富だろうが、徳だろうが、な」
「なら、なぜ群れない人もいるのかしら」
白虎は呆れ顔でこう言った。
「さっきお前が言っただろ…。厄介だからだよ」




