蟷螂の親子
少女と白虎が歩いていると、共食いをしている蟷螂の親子がいた。
二人の存在に気付いた蟷螂の母親は、息子に下肢を食われながらも、少女と白虎に助けを求めた。
少女はきいた。
「なぜ」
蟷螂の母親は、いきり立って答えた。
「見てわからないのかい!目の前で人が殺されかけているんだよ!」
「そう」
と少女は言った。
蟷螂の親子を眺め、白虎は言った。
「文句なら、食ってる奴に言ったらどうだ」
それを聞いた蟷螂の母親は、嘆息して言った。
「この子には何を言っても無駄だよ、人の命令を全く聞きやしない。それどころか収入もなければ、出世もしやしない。こんな出来損ないの作品があたしの子かと思うと、恥ずかしいたらありゃしないよ」
それを聞いた蟷螂の息子は、嘆息して言った。
「私はあなたの道具でもなければ、玩具でもありません。そもそも食われるのが嫌だと言うのなら、初めから子なぞ産まなければ良いだけのこと。負担になることは日の目を見るより明らかだ。それを承知で産んだのだから、寿命が縮まったとしても、あなたは文句を言えないはずだ」
議論は激しさを増し、「食うか、食わないか」でひたすら続いた。
蟷螂の親子の喧嘩を眺め、少女は言った。
「御免なさい。その二つの願望は、存在することは出来るけど、両立させることは出来ないわ」
少女は白虎にきいた。
「なぜ人は子供を作るのかしら」
「さあな。何も作らなければ、苦労することもないだろうに」
「そう」
と少女は言った。
「ねえ」
「ん?」
「人は、何かを残すために生きるのかしら」
「何のために残すんだよ」
「さあ、知らないわ」
「なんだ、そりゃ…」
と白虎は言った。
少女は歩みを止めると、振り返って言った。
「それが、生まれ持った性質なのかもしれないわね」




