商い
ある工匠が『壊れない農具』を作った。工匠がその農具を売るために店を広げていると、一人の商人がやってきてこう言った。
「永遠の物を売ろうなんて愚かなことは、止めたらどうだ」
工匠はむっとし、こう訊いた。
「なぜ愚かなことだと断言できるのか」
「物が売れるのは需要があるからだ。もし永久不変な物が天下に広まれば、誰も同じ物を買おうとは思わないだろう。これでは一時の間しか儲けることが出来ない。そのため、愚かなことだと言ったのだ」
と商人は答えた。
「――。私はその道理を聞いて、なるほどと思い、こうして店を畳んで帰路に就いているのです」
「そう」
「では、私はこれで」
と言うと、工匠は去っていった。
少女は白虎にきいた。
「貨幣ってそんなに大切な物なのかしら」
「貨幣は力そのものだからな、生き残るために必要なんだろ」
「そう」
白虎は言った。
「しかし、力を手に入れるために力を使って争うのだから、面白い話だな」
「でも、力があれば争いを止めることも、人を救うことも出来るわ」
と、少女が言うと、白虎は、
「殺すこともな。要するに、使う奴次第ってことさ」
と言った。




