枯れ桜
ある所に『美しい花を咲かす桜』があった。その美しさは「この世に二人とはいない」と言わしめる程で、見る者全てを魅了するのであった。その為、彼女の周りにはいつも人だかりが生じ、連日市場のように賑わった。
さて、そんな彼女も時が経つにつれ、その容姿は衰えていった。すると人は、一人、二人と、彼女のもとを離れ、花が全て散る頃には、訪問者は誰もいなくなった。
そんな閑散とした日々を、桜が送っていたある日、桜のもとに一人の少女と一頭の白虎がやってきた。桜は「おや」と驚きの声をあげると、二人を見詰めた。
「こんな華のない場所に客なんて、珍しいね」
と桜は言った。
それを聞いた少女は、
「客じゃないわ。ただの通行人よ」
と言った。
桜は落胆し、「そう」とだけ返した。
辺りを見渡すと、白虎は尋ねた。
「ここにはあんたしかいないのか」
「皆どこかに行っちまったよ。昔は『栄華の中心』と謳歌されるほど盛んだったけど、今となってはあたし独りさ」
桜は言った。
「花が散れば人も散る、これもまた必然かねぇ」
「あら、静かでいいじゃない」
「全く付き合いがないというのも、寂しいものさ」
「そう」
と少女は言った。
白虎は、手持ち無沙汰な様でこう言った。
「ま、欲しいものがここにはないからな」
「そうかしら、私は楽しい一時を貰ったわ」
と少女は言った。
桜は、朗らかな表情で言った。
「こんな老人でよければ、いつでも会いにきな」
少女は言った。
「ええ、またいつか」
白虎は少女に尋ねた。
「またここに寄るのか?」
「さあ、知らないわ」
と少女は答えた。
「なら、なんであんなこと言ったんだよ」
「遇えない確証はどこにもないわ」
「それはそうだが…」
と白虎は言った。
「それに、出会いは偶然だもの」




