森林と川
昔、森林と川が会話をした。
「僕は君が羨ましいよ。君には、僕みたいに伐採される心配がないのだから」
「いやいや、私には貴方のほうが羨ましく思うよ。だって貴方には、私のように水を汲み取られる心配がないのだから」
森林は言った。
「君は僕のことを全く理解していないね。僕は伐られるだけじゃなく、焼かれもするのだよ。君にこの苦しみが分かるのかい」
川は言った。
「貴方だって私のことを全く理解していないじゃないか。私は水を汲み取られるだけじゃなく、汚物を放棄されたりもするのだよ。貴方にはこの辛さが分からないようだけど」
森林と川が言い争っていると、そこへ人間がやってきて、こう言った。
「他人の辛苦なんぞ分かるわけあるまい。自分は他人にはなれないのだからな」
それを聞いた森林と川は、成程と思い、それきり不満を述べることはなくなった。
「――。めでたし、めでたし」
と言うと、少女は本を閉じた。
「どこがめでたいんだ……」
「あら、不毛な議論が続くよりは余程増しだと思うわ」
「それはそうだが…」
と白虎は言った。
少女は白虎に尋ねた。
「なぜ人は他人を羨むのかしら」
「立場が違うからだろ」
「そう」
「ま、他人を幾ら真似たところで、他人と同じ立場には立てないけどな」
「でも、学ぶことは出来るわ」
「学ぶ意志があればいいけどな」
「そうね」
と少女は言った。




