知識と本
ある所に図書館があった。そこには古人が残した沢山の見聞があったので、その図書館は、『物知り館』と呼ばれた。物知り館はいつも客が少なかった。「過去の知識を得たところで、現在の役に立たない」と世評されていた為である。そんな館の中を一人の少女と一頭の白虎が歩いていた。
「ねえ」
「ん?」
「なぜ昔の人は本を書いたのかしら」
「人にもよるだろうが、現実に対する鬱憤を晴らすためじゃないのか。それで未来が変わるかは知らないが」
と言うと、白虎は欠伸をした。
「そう」
少女と白虎が歩いていると、一人の人間がいた。人間は大量の本を傍らに、読書に耽っていた。
少女は人間に尋ねた。
「なぜこんなに本を読んでいるの」
「物語を知るためさ」
「知って、どうするの」
「どうするも何も、知りたいから知るのさ」
「そう」
「これが僕のやりたい事だからね。他人の役には立たないけどさ」
と、楽しそうに人間は言った。
ある晴れた日、少女と白虎は『物知り館』から離れた農村の中を歩いていた。
「あいつにとっては知ること自体が目的なんだろ」
「そのようね」
「結局、人生なんて自己をどれだけ満足させられるかだしな」
白虎は少女のほうを向き、尋ねた。
「そういや、お前は読まなくてよかったのか?」
「晴れているし今日は遠慮しとくわ。それに、本だけが師ではないもの」




