不幸な鳥
ある所に『幸せを呼ぶ鳥』がいた。人間はこの鳥を求め戦争をしたが、なかなか勝敗がつかなかった。仕方なく人間達は鳥を籠に入れ、その籠を中心に一つの国を造った。その国は『幸福な国』と呼ばれ、そこに住む人達はいつも幸せだった。
そんな国に一人の少女と一頭の白虎がやってきた。住民達は彼等を迎え入れ、豪華で贅沢なもて成しをした。
「何だ、ここでは見ず知らずの他人に食事を振舞う風習でもあるのか」
と、白虎は訝しげな顔付きでそう言った。
「さあ」と隣に佇んでいた少女がそれに答えた。少女は無表情で、何処か遠くを眺めているようだった。
白虎は、手近にある肉をぺろりと平らげるとこう言った。
「しかし、これだけ豪勢だと裏があるんじゃないかと疑心に駆られるな」
「うまい話には裏がある。何事にも損害が付いてくるわ」
『幸福な国』には一羽の鳥がいた。『幸せを呼ぶ鳥』である。鳥はいつも「ああ、私はなんて不幸なの」と嘆いていた。そんな鳥のもとに少女と白虎が現れたので、鳥は「助けて欲しい」と懇願した。
少女はきいた。
「なぜ」
鳥はこう答えた。
「私は自由が許されない身、この国を幸せにするという理由で。でも私は幸せではないのです。私はこの翼で大空を飛びたい、自由に生きたいのです」
少女は籠に手を置くと、こう言った。
「あなたが望むなら、この籠を消してあげる」
白虎が少女に近づいて「…おい、いいのか」と小声できいた。少女は「駄目な理由がないわ」と答えた。
鳥は、
「ああ…ついに私の悲願が実るのですね。これほど嬉しいことはありません」
と言うと、はらはらと涙を流した。
『幸せを呼ぶ鳥』が飛び立ち、『幸福な国』がただの国になったその日、少女と白虎は砂漠の中を二人、並んで歩いていた。
「あの人、どうなったかしら」
「さあな」
と白虎は答えた。
「そう」
「ま、運が良ければ何処かで生きてるだろうよ」
と言うと、白虎は欠伸をした。
「そうね」
と少女は、いつもと変わらず、無表情のまま応じた。
しばしの沈黙の後、少女は白虎に語り掛けた。
「ねえ」
「ん?」
「生きるほうと死ぬほう、どちらが幸せかしら」
「…さあな。その時の状況次第だろうな」
と白虎は答えた。少女は「そう」とだけ言った。
「結局、感情なんて状況の所産でしかないからな」




